第23話: 健太 ~隆太郎~

「ざっとこんな感じよ。

 これでわかったでしょう。

 私がここが汚らわしいと言った意味。

 フォークスと会えなくなった原因の場所。

 私がこの場所を恨む理由」


 香穂は、自分の過去を言い終わると、もういいでしょというように、家を出ようとした。


「ちょっと待ってよ。

 そのフォークスって人と、俺たちにどんな関わりがあるっていうの?」


 健太も同じ疑問を持ったようだ。

 第一、そのフォークスという人物と会った記憶がない。

 会った人全ての名前を覚えているわけではないが、覚えている名前を漁ってみても、そんな人物はいなかった。


 その言葉が、香穂の逆鱗に触れたようだった。


「健太。あなたは特にフォークスと因縁があるはずよ。

 あなたの性格も、フォークスが作り上げたようなものだもの」


 その言葉は何を指しているのか。

 それでもまだ掴めなさそうな三人をみて、香穂はため息をついてから、


「あなたたちが中学校一年の時、成人男性に隆太郎と理恵子が襲われた時があったでしょう。

 まぁもっとも、その人物はただ道を聞こうとしただけだったらしいわ。

 けどそのことを健太は絡まれて二人が危ないと思ってしまった。

 けれど、何も動かなかった。

 実際は足がすくんだというところかしら。

 そして、あなたなりに考え、その人物のところへ行き、顔面を殴りつけた。

 その一発に驚き、その場をさっていった。

 その時から、二人を守るために、暴力的になっていった。

 あなたがすぐカッとするようになったのも、二人に万が一のことがあった時に、すぐに動けるようにするためか。

 そんなことは私にとってはどうでもいいわ」


 三人はただただその場に立ち尽くしていた。

 唯一社だけが、何が起こっているのだというように、仕切りに首を動かしている。


「その人物こそが、フォークスなのよ。

 私の育ての親。私を救ってくれた人。

 そして、あなたの性格を変え、あなたに殴られた人」


 しばらくの沈黙の後、健太が口を開いた。


「ちょっと待ってくれよ。

 確かに俺はあの時、その人を殴った。

 ただし、一発しか入れていないはずだ。

 なのにそれでその人物が死ぬ理由になるのか?

 大人が食らったってそこまで痛くねぇような感じの強さだったぞ?」


 あの時のことは、三人ともよく覚えていた。

 急に知らない言語で話しかけてきたかと思ったら、急に近づいてきて、永遠と知らない言語で何かを話していた。

 その光景は当時の僕からからすると恐怖以外の何者でもなく、かといって動くこともできない。

 理恵子もほぼ同じような感じだった。


 その時、健太が男の顔に向けて、ストレートをお見舞いした。

 男はよろけると、逃げるようにして、去っていった。


「あなたが…お前がフォークスを殴っていなければ、走って移動する必要などなかった!!!!

 フォークスはね、あの後車に轢かれて死んだのよっ!!!」


 香穂の肩は震えていた。

 それが怒りによるものなのか。

 それともフォークスを失ったかなしみだったのか。

 それは、香穂にしかわからない。


 逆に健太は、自分が直接的にはないにしろ、人を殺してしまったことで、自責の念に駆られていた。


「これでわかったでしょう。

 あなたたちと関わりたくない理由。

 今まではフォクシーに頼まれてたから仕方なく関わっていたけど、これ以上はもう無理。

 私はあなたたちを許さないから」


 そう言って、香穂は理恵子の家を去った。

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