第5話: 学校案内~前置き編~ ~隆太郎~

 放課後、僕は理恵子と健太を連れて、香穂に学校を案内するために、四人で教室に集まった。


「俺は塚森健太つかもり けんた

 こいつらからはケンちゃんって呼ばれてる。よろしくな」


「私は愛野理恵子あいの りえこ。 リエって呼んでね」


「私の名前は…みんな知ってるか。

 さっき言ったもんね。改めて、朝倉香穂あさくら かほです。よろしくね」


 香穂は、朝の様子とは違って、随分と柔らかい口調になり、心なしか、明るい印象になっていた。


「うわぉ、印象が全然ちげぇ。

 もっと冷たい感じかと思ってた」


「ちょっとケンちゃん。失礼やて。

 ごめんね、こんな子で」


「おいおいリエ。

 俺はリエの弟かなんかか?」


「ずっと一緒にいるんだから、親みたいなもんよ」


 突っかかる健太と、それをサラリと返してしまう理恵子の言い合いを見ていた香穂が、堪えきれなかったというように、ケタケタと笑い始めた。

 その様子を見て、二人は怪訝そうな顔をしていた。


「ごめんなさい。あなたたちの様子を見てるとおかしくって」


 笑い止んだ香穂が目に涙を浮かべながら言うと、二人は照れくさそうに見つめ合った。

 そんな二人を見て、僕も堪えきれなくなり、笑ってしまった。


「何よリュウくんまで。

 そんな私たちがおかしい?」


「そうだぞリュウ。

 俺ら別に普通だろ?

 いつものことだろ?

 な?」


 二人が同時にいうものだから、僕も香穂も余計に笑いが止まらなくなった。


 流石にずっと笑われるのが恥ずかしくなったのか、理恵子は、


「ほら、そろそろ行こうよ。日が暮れちゃうよ」


 というと、一人で教室を出て行った。健太もそれを追うようにして(実際、追っていたのであろうが)、


「おいリエ、待てよ。

 案内するために集まってなんで一人で突っ走っていくんだよっ」


 と言いながら、教室を飛び出て行った。


「おいおい。結局僕一人になるのかよ。

 まぁいいけどさ、そうだなぁ。

 香穂、まずは音楽室から行ってみないか?」


「了解です。リュウタ、改めてよろしくね〜」


「おう、じゃ行こか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る