第35話: あなたを信用させて ~香穂~

「香穂‼︎ 外で人が暴れてるよ‼︎」


 フォクシーにタックルをかました健太が外を見た時、そこは、一人の暴れる男によって、場が混乱している最悪の状況だった。


 「クラベル⁉︎ フォクシー‼︎ あんたが呼んだのね?」


 香穂はフォクシーに驚愕と嫌悪の念を抱いていた。

 それを聞かれたはずのフォクシーも、なぜか苦い顔をしていた。


「仕方がないだろう。

 急に俺の家に地球人たちが侵入して来やがったんだ。

 本当ならもっと呼ぶつもりだったんだが、なぜか連絡が取れない。

 お前らだな……お前ら‼︎‼︎ 俺の仲間をどこにやりやがった‼︎

 答えやがれや‼︎ あいつらは無事なんだろうなぁ⁉︎

 おい、答えやがれ‼︎」


 その問いに答えるよりも早く、健太は外へと向かっていた。


「え⁉︎ あれがクラベルなの⁉︎

 じゃあ結構外危なくない? 俺ちょっと行ってくるよ‼︎

 リュウ、リエ。香穂を頼んだよ」


 そう言い残すと、返事も待たずに健太は玄関のドアを勢いよく開けて外へ出てしまった。


「ちょっと、ケンちゃんクラベルとは関わらないって言ってたじゃないの‼︎」


 香穂の叫びは虚しく、健太に届くことはなかった。

 そして、健太一人では危ないからと、隆太郎も外へ行ってしまった。

 急いで追いかけに行こうとする香穂の腕を、私は咄嗟に掴んだ。


「今香穂が行っても向こうの状況は変わらないわよ。

 とりあえず、ケンちゃんたちに任せましょう。

 それよりも、今相手をしなければいけないのは、フォクシーの方よ。今はこっちに集中しよう」


 その言葉で思い出したかのように、香穂はフォクシーにむけてこう言い放った。


「あなたのお仲間は、ほとんどある場所に移動してもらってるわ。

 けど、それもあなた次第かしら。

 あなたの答え方によっては、そこにいるお仲間が減っちゃうかもね。

 用心することよ」


 香穂の変貌ぶりにフォクシーも驚いたのか、目を見開いた。

 そして、信じられないと言うように、フォクシーの体が固まった。


「イヴェル……?」


 やっと声に出したフォクシーの言葉は、とてもか細く、自分の立ち位置を理解したようだった。


「それじゃいくつか質問を重ねていくわね。

 まず一つ目、私をこの星に連れてきた宇宙船は私を送り届けた後、そのまま帰って行った。

 けれど、あなたたちは違うでしょう?

 この星のどこかに変えるための手段を持っているはずよ。

 それを教えてちょうだい。

 二つ目、あなたたちの本当の目的は何?

 本当にチャコフ星は寿命が来ているの?何からあなたの言葉を信じていいのかわからない。

 だからまずは一つ目の質問に答えてちょうだい。

 それでここにいる地球人たちがその場所を調べにいくわ。

 そこであなたの言葉に嘘がないと証明された時、お仲間を返してあげる」


「イヴェル…俺は……」


 頭ではこの状況をわかっていても、気持ちが否定するのだろう。

 口元がわなわなと震えていた。

 そして、その場は静けさに包まれた。静けさが最高潮に達したころ、フォクシーはおぼつかない口調で答え始めた。


「船は…お前が通っている学校にある。

 俺たちはあの場所に降り立った。そして、人間の皮肉さを知った。

 このアパートに居座るまで、俺たちは野宿を余儀なくされた。

 その時のあいつらの顔を俺は忘れないだろう。

 あの顔は、まとまって一つの場所に寝る俺らを見て、ゴミを見るような目で見てきやがった。

 けどまだ、それは優しいものだった。

 あいつら、俺の仲間に向かってゴミを投げつけやがったんだ。

 それが許されているこの星は危険すぎる。

 だから、俺たちの手で浄化してあげなければならない」


 そこまで言うと、フォクシーは一息おいた。

 そして、果穂に向かって、手を差し伸べた。


「けど、この星の『仲間』というものはとても魅力的に思えた。

 その『仲間』の輪の中に入ることがでいれば、迫害されることもなくなる。

 ゴミと同じ扱いを受けずに済む。

 イヴェル。俺はその輪に入ることができたから、そのままそっとしてあげようと思ったんだ。

 あの時強い言葉で言わなければ、きっと君は俺の元を離れなかっただろう。

 そうでなくても、俺と一緒にいると、フォークスのことを思い出し、辛い思いをするだろう。

 君が幸せになるためだったんだ。わかってくれるか?」


 この後に及んで、香穂の味方であると主張するフォクシーを見つめる目は、とても哀れな物だった。

 香穂は差し伸べられた手を振り払った。


「えぇ、おかげであなたと一緒にいることは耐え難くなったわ。

 今だって、あの時みたいに殴ってやりたいとも思ってる。

 あなたの意志がどこにあろうと、それは私にとって何の関係もない。

 あなたのこれまでの行動が、私をこうさせたのよ。

 それを自覚していないうちは、あなたの言葉は何の意味も持たない。創一郎さん。

 まずフォクシーの言っていることを証明するために、学校へ行かないといけないわね。

 おそらく、ヒュンスと唱えれば、船が出てくるはずよ。

 それを確認したら、次のステップに進みましょう」

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