第36話: クラベル ~隆太郎~

「おいおじさん、車は破壊しちゃいけないんだぜっ!!」


 星雲荘から出た健太の、第一声はそれだった。

 咄嗟の判断で、クラベルにアッパーをかける。

 それにつられて、僕も足を引っ掛ける。

 けれどクラベルは、全く狼狽えず、


「なんだお前ら、邪魔をするな」


 その一言で、僕たちは振り払われてしまった。

 そして、クラベルは振り払った健太の手をつかんだ。


「おい離しやがれ」


 手を振り払おうとするが、なかなか外れない。

 その状況をなんとかしようと、僕は健太を掴んでいる手を掴む。


「この手を離していただけませんか?」


 少しでも自分のことを強く見せるために、わざとトーンを落として言葉を吐き捨てる。


 「俺、仲間、助ける。

 邪魔、するなら、お前ら、容赦しない」


 機械的に並べられた単語を並べて話すクラベルの言葉をかろうじて理解した時、僕と健太は掴み掴まれていた腕ごと持ち上げられた。


「うぉお!! こいつ、力が半端じゃねぇ」


「え? 嘘でしょ…片腕で僕ら二人を…⁉︎」


 持ち上げられたことに困惑を隠せない僕らに、クラベルは急に手の力を抜いた。


 急に力が抜けたことにより、僕らは地面に尻をつけることになった。


「イッテェ…」


 ぶつけた尻をさすりながら、僕らはその場に立った。


「まだ、やるのか?」


 クラベルは僕らが全く諦めないことに、疑問を持ったようだった。

 なぜここまで、と顔に書いてある。


「ったりめぇよ。俺らはまだ諦めちゃいねぇ。

 香穂の話が終わるまではな。

 そういうお前こそ諦めたらどうだ?」


 けれど向こうの意思も固いようで、比べるは静かに首を横に振った。


 クラベルは無言のまま、僕らに拳を振り上げたその時、


「もういい‼︎」


 そんな声が上の方から聞こえた。

 驚いて僕たちもクラベルもその声のした方向へと顔を傾ける。


「クラベル‼︎ もういい、もういいんだ……」


 声をあげていたのは、フォクシーだった。

 その後ろには、香穂や創一郎の姿も見える。


「こっちの話はついた。

 そいつらを傷つける必要性は無くなった」


 そういうフォクシーの顔は苦虫を噛み潰したかのように渋い顔をしていた。


「フォクシー……」


 そしてそれを見上げるクラベルの目も、悲しいものであった。

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