第29話: あの方法 ~隆太郎~

 僕たちは今、初めて創一郎たちと会った役所にいた。

 創一郎が橋の下で話すよりも、というので、それについていったら、ここへとついたのだった。


「ここで話をしてもらいたい。

 それと、後でいつも聞けるように、この会話を録音させてほしい。

 それは許してくれるか」


 創一郎が聞くと、香穂が静かに頷いた。


「ここでなら話していいんだよね。

 まず、向こうのチャコフ星人の数だけど、私の知っている限りだと十人程度。

 今は地球人の姿に擬態しているから、特定するのは難しいと思う」


 それだけ言うと、香穂は一息置いてから、ため息をついた。


「一人のチャコフ星人でも、幾つも姿を持っている。

 私はこの星に来てからそこまで日数が経ってないからこの姿しか持っていないけど、他の人は最低でも二つ以上の姿を持ってる。

 流石に、会議をしてる時にいちいち姿を変える人なんていないから、私が知らない顔も多いと思う」


 それを聞いた何人かの大人は、諦めたようにため息をついた。

 それを聞いた香穂が落ち込み、下を向く。

 それを見た健太が大人たちを睨む。

 一瞬で険悪なムードに包まれる空間に、僕たちは呆れてしまった。


「今知っているだけの姿だけで良いから、そのチャコフ星人たちの特徴を教えてくれるかな。そこから少しずつ攻めて見るよ」


 創一郎が、仕切り直すために、香穂に話を振った。


「フォクシーの見た目は、身長が170くらいの男。

 服はいつもYシャツにGパン。

 顔にはいつもサングラスがあって、口元にほくろがある。

 私が知ってるフォクシーはいつもその見た目だった。

 他には身長が155くらいで、いつもオドオドしているような女性……」


 香穂がスラスラと述べていくチャコフ星人の特徴に、創一郎はもちろん、他の人たちも耳を傾けていた。


「フォクシーたちを止めるには、家に行くしかないと思う。

 あそこなら、人がいないことはないから。

 それと、180くらいの大柄な男には注意して。

 その人の名前は、クラベル。

 チャコフ星人の中でも、腕っぷしが強いことで有名な人なの。

 これはクラベルと直接やり合った人が答えていたんだけど、とにかく一撃一撃の重さが尋常ではないらしいわ。

 普通の人なら、一発くらっただけでもノックアウトという噂もあるわ」


 それを聞いた健太が


「へぇ。そんな強い奴がいるのか。いっぺんやってみてえな」


 守るためのちからに魅入られ、攻めるための力へと変わっていた健太にとって、強い相手がいると、燃えるらしい。慌てたように香穂が止めにかかる。


「ケンちゃん⁉︎ 絶対にダメ‼︎ 危険すぎるよ。

 クラベルがいたら全速力で逃げてよね?」


 必死に止める香穂の言葉に、渋々諦めた健太は、


「けどさ、結局誰かがそのクラベルっていう人を止めないことには、その親玉も止まらねえだろ? その時はどうするのさ」


 その答えは香穂からではなく、創一郎から出た。


「こっちでも、腕っぷしの強いやつは何人かいる。

 そいつらが複数人でかかれば、クラベルもなんとかなるかもしれない」


 香穂はそれでも心配そうだったが、とりあえずは納得したらしい。


「途中で話を遮ってすまない。

 その、フォクシーがいる場所ってどこなんだ?

 それはここから近いのか?

 ああすまない。俺は柚原悠ゆずはら ゆう。柏木と同じところにいる」


 話がひと段落した頃合いを図ったのか、一人の男、悠という男が出てきて、香穂に聞いてきた。


「ここからだと、歩いて十分ってところかな。

 『星雲荘』っていうところ。

 なるべく急いだほうがいい。

 あいつらも、私がこっち側、地球人側に行ったことはわかっていると思うから。

 何か対策されている可能性が高い。

 流石に一晩では準備しきれないだろうけど、時間をかけると場所すらも変えられる可能性がある。

 私の知らない姿で、他の場所に住まれたら、私は彼らを追うことができない。

 その前になんとしても見つけないと。私はこの星が好きだ。

 この星の文明人と友好的に関わりたいと思っている。

 それは、リュウタやリエ、ケンちゃんと関われたからだよ。

 地球人の印象を変えてくれたのは、あなたたちだから」


 僕たちが、そこまで香穂の中で大きな存在になっていたことに、驚きを隠せなかった。

 二人を見ても、同じような反応をしており、三人の目が合った。

 それが、なぜか可笑しくなって笑ってしまい、それが二人にも伝染したようで、たちまちその場が和やかになった。


「なんでそんな笑うのよ。まったくもう。私は真剣なのよ」


 そういう香穂も、口元には笑みがこぼれている。

 僕はそんな雰囲気で話せる中にまで香穂と親しく話せるまでになったことがとても嬉しかった。

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