第21話: 香穂の過去 ~香穂~

 私は、チャコフ星で普通の家族として生まれた。

 本当の名前は、イヴェル。

 両親が、幸せになってほしいと願い、つけた名だった。

 私は名前が気に入っていた。

 名前通り、幸せに暮らしていた。


 文明は、地球と同じか少し上くらい。

 けど少し違っていたのが、テレビはなく、ラジオを皆、持ち歩き、ニュースなどを聞いていた。


 ある日、庭で寝転がってラジオを聴いていると、突然音楽が止み、代わりにアナウンサーの焦るような声が聞こえてきた。


「たった今、速報が入ってきました。

 緊急事態のため、先ほどまで放送していた番組を中止して、お知らせをしていきます。

 防衛省の発表によると、本日、ルフォース地区で巨大な隕石が落下し、あたり一体が焼け野原のようになっています。

 近隣住民のかたは、なるべく離れてください。

 繰り返します。本日…」


 ルフォース地区といえば、両親が働いている職場がある地区だ。

 こうして、一瞬にして、私の幸せな生活は終わりを告げた。


 一人になって、数日後。

 親戚が迎えにきた。

 けれど、その親戚は、私に対して冷たく当たるようになっていた。

 その人たちも、私の両親がいなくなったことを悲しみ、なぜこの私だけ生きていられるのだろう、なぜ私は死ななかったのだろう。

 その負の感情が、私の精神をどんどん削っていった。


 そして私は、親戚の家を出た。

 そんな時に出会ったのが、カロカハルサという組織のフォークスという人物だった。

 その組織は、表向きは、普通の製薬会社だが、裏では、チャコフ星の寿命を計算し、次に住める星を宇宙の中から、選び出すということをしていた。

 チャコフ星の寿命は残り少ないようで、なるべく早く住める星を探し出し、その場所に移住しなければならない。

 それは私が二年後に行くことになる、地球という星だった。


 私は、フォークスに仕事をもらい、カロカハルサで働き始めた。

 家は、フォークスの家にお邪魔させてもらい、そこで寝泊まりなどをさせてもらった。


 カロラハルサは、地球という星を見つけた。そしてその場所へ、観察員として、フォークスが派遣された。

 フォークスがいない家で私は、毎日毎日帰りを待った。けれどもフォークスは一向に来る気配を見せない。

 けれど、毎週地球から手紙が届いていたので、イヴェルは寂しい思いをせずに過ごすことができた。


 半年ほど経った頃、フォークスからの手紙がまるっきり来なくなった。

 イヴェルは心配になって、カロラハルサで働いている人に聞いてみるが、皆の答えは決まってこうだった。


「忙しいんだよ、フォークスも。

 また連絡が来るって。気長に待ってあげよう」


 しかし、一年後にも手紙は来なかった。ある日、イヴェルは、カロラハルサで話している声を偶然聞いてしまった。


「惜しい人を失ったよな〜。

 まさかフォークスさんが、地球人に殺されちゃうなんてね〜。

 最近連絡がなかったけど、そんなことになっ…」


 最後の方の会話は聞き取れなかったが、もうこの世には、フォークスはいないということを突きつけられ、気づいたら、うずくまって泣いていた。


 次の日、目が赤くなった状態のまま、カロラハルサへ行き、自分を地球に派遣させるよう頼んだ。

 フォークスと親しかった私を地球へ行かせることは、恨みしか生まないとカロラハルサの人は言ったが、何度も何度も頼みに行くと、相手も折れたようで、私を地球に派遣することを許可してくれた。


 こうして、私は地球へと行くことになったのだった。

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