第7話: まずは総理に…… ~沙織~

「世界各国で、発信してもらうって言ったって、まずは日本を納得させないと、やりずらくなるだろうなぁ」


 プレゼン作りをしようと計画したのち、作業を進めていたのだが、柚原がほぼ愚痴のような雰囲気でこぼしたこの言葉により、その場にいたメンバーの空気はよりいっそう重くなった。


「そうだった…。

 一応私たちは日本っていう国として動いているけど、それを世界に広げるってなったら、一つの国としてまとめてからじゃないとできないんだ……」


 柚原の言葉に最初に反応したのは、梅津うめつだった。

 プレゼンを作ることを、柚原から頼まれており、散々愚痴を言っていた中での柚原のセリフだったので、明らかに苛立ちが見えた。


「柚原さん。私は国際系のプレゼンで手一杯です。

 なので、総理へのプレゼンを作る、そしてそれを発表するというこの二つは柚原さんにやってもらいたいと思っております。

 また、私が頼まれたのはあくまでプレゼン作りだけなので、そちらの発表も私はやりません。

 では、私は“あなたに”頼まれたプレゼンを完成させなければならないので、これで失礼します」


 梅津は柚原に言いたいことだけ言うと、自分が座っていた席へと帰っていった。

 柚原は力無く笑った後、大きなため息をついた。


「はは、しょうがないか。

 俺も暇なわけじゃないんだけどなぁ。

 けどこっから他の人に任せたら、また梅津に言われちゃうよ…。

 作るしかないかぁ」


 ♦︎♦︎♦︎♦︎


       翌日の朝


「やっと終わった〜〜〜〜〜〜〜。」


 柚原は、梅津に言われた後、一徹をして、プレゼン用の資料と、プレゼンを作り上げたのだった。

 ちょうどそのタイミングで、桜坂が入ってくる。


「あ、柚原さん。今日は早いんですね。何かあったんですか?」


 そういえば昨日、桜坂は出張でいなかったのだった。

 今日は多分、その出張の間溜まっていたであろう仕事を早めに片付けようと、いつもより早い時間帯にここへきたのだろう。


「早いんじゃなくてさ。遅いんだよ…。

 昨日梅津に散々扱かれちゃってさ…。

 総理大臣に向けてのプレゼン作りを昨日の昼間からずっとやってたんだよ…」


 おそらく、桜坂から見て、柚原の姿は、悪魔か、悪霊でも乗り移ったのかと言うような顔をしているように見えているだろう。

 それを自覚し、大きくため息をついた。


「そうだったんですね。お疲れ様です。コーヒー用意しますよ。

 柚原さんって、ブラックいけましたっけ?」


 桜坂が、苦笑しながら言う。柚原は、力無く頷いた後、


「あぁ。ブラックで大丈夫。ありがとぉ〜」


 と言って、机の上で意識を手放してしまった。

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