第33話: フュース ~隆太郎~

 星雲荘へ入るまでの道のりは、予定通りに進んだ。


 通りかかる人全てに目をむけ、少しでも怪しい行動を見せたら、香穂へと連絡。

 そこでチャコフ星人かどうかを判断してもらう。


 チャコフ星人との判断が出た場合には、周りに誰もいないことを確認し、周囲から妨害されることがないと判断してから、対象へ近づき、役所までついてきてもらった。


 僕たちは警官になりすまし、移動用にパトカーを使わせてもらった。

 こうすることで、一般住民を巻き込まないようにすることができる。

 創一郎は、パトカーを貸し出す許可をもらうのに苦戦したと言っていた。仮にも国の車を使うとなると、いろいろなところからの許可が降りないと、使うことはできないらしい。


 詳しいことは聞いてもわからなかったので、覚えていないが、とにかく、創一郎が苦労して手に入れたということだけはわかった。


 星雲荘へ着くまでに捕らえたチャコフ星人の数は七。

 その中に、クラベルという巨漢の男と、フォクシーというリーダー格と思われる人物はいなかった。


「これから、中へ入る。みな、気を引き締めてほしい」


 残った大人たちと、僕たち四人は星雲荘の中へと入った。


「動くな‼︎ 抵抗するものは、力でねじ伏させてもらう。

 両手をあげて投降しろ」


 創一郎の声が、ものをほとんど置いていない家に響いた。


「はいはいなんですかっと。

 そんな大勢で、私たちに何か用でも…って、イヴェル⁉︎」


 中から一人の女が出てきた。香穂はその姿を見るや、驚いた顔をしていた。


「フュース⁉︎ あなたがこの場所にいるなんて珍しいじゃないの。

 私のことは聞いているんでしょう。

 けれど、私はもう昨日までの私とは違う。

 こうして、あなたの『お友達』がここを追い出してくれたおかげで、地球人という大事な存在に出会うことができた」


 そういう香穂の顔は、とても誇らしく、そして、とても清々しく見えた。


「えぇ、聞いているわよ。

 フォクシーがあなたを突き飛ばしてしまったことも。

 けれど、それは彼が望んだことだと思う?

 彼は、彼なりにあなたを幸せにしようとしていたのなら、あなたはどうする?」


 フュースの問いかけに、香穂はひどく動揺したようだ。

 目を見開き、口元を押さえている。

 その問いに答えたのは、理恵子だった。


「あなたは本当にそう思っているの?

 とても冗談では済まされないことをフォクシーという男は言っているのよ。

 香穂の苦しみをあなたは知らないでしょう?

 あなたは…いえ、あなたに香穂の何がわかるんです?

 あなたは、香穂にひどい言葉を言ったフォクシーの顔を知っているのですか?

 私は、香穂の言葉を聞く限り、とても冗談ではない口調だったと。

 それが、香穂を幸せにしたかった?

 バカ言ってるんじゃないわよ。

 その言葉で、香穂がどれだけ傷ついたと思ってるのよ」


 今まで理恵子がここまで怒ることはなかったはずだ。

 それが今、香穂のためにここまで怒っている。

 自分を攫ったはずの相手に対して。

 それは、どれだけ怖いことだろう。

 理恵子の言葉で、俺の心にも火がついた。


「そうだ。リエのいう通りだ。

 香穂がどのくらいその言葉に絶望したか。

 信じていたはずの人に裏切られる気持ちを、フュースさん。

 あなたはまだ知らない。

 俺も一度香穂に一方的に突き放された時にわかった。

 僕自身が、香穂をどこまで信じてあげられればいいのだろう…と。

 僕には、同じ立場である、リエやケンちゃんがいた。

 まだ僕たちは恵まれていた。相談できる相手がいたんだもの。

 けれど香穂は違った。

 誰も自分の味方はいないと思い、一人で抱え込んでいた。

 僕はそんな果穂をみて、こんなことをする人を許せないと思った。

 一人で全て抱え込ませて」


 気づけば、フュースに乗り出しそうになっていた。

 そんな僕を香穂が必死に止めていた。


「もういいから。二人の気持ちは伝わったから。

 だから、そんなフォクシーをひどく言わないであげて」


 その言葉で、リエと僕は熱が入りすぎていたことを自覚し、申し訳なさそうに俯いた。

 そんな僕らを見て、香穂は微笑みかけた。


「けど、ありがとうね。私のために怒ってくれて」


 そういうと香穂は、創一郎に一言二言何かを言った。


「では、そのままご同行いただきます」


 創一郎の仲間がフュースの腕を掴み、外へと連れていった。

 その光景を見届けたのち、部屋の中を見て回った。


 そこに、フォクシーの姿はなかった。

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