第17話: バレて…ない…よね? ~香穂~
香穂は知らない道をただひたすらに走っていた。
後ろからは健太と理恵子が追いかけてくる姿が見える。
どうにか撒こうとしたけれど、健太の走るスピードが早くて追いつかれないように走るのが精一杯だった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。なんでよ。
なんでなのよ。
なんで追いかけてくるのよっ!」
なかば愚痴のようになってしまったが、このさい仕方がないことだろう。
母国語であるチャコフ語が出ないだけまだマシだと思いながら、走り続けた。
「ちょっと、少しは休もうよ。
香穂も倒れちゃうよ」
香穂は疲れて歩き出した理恵子を視線の隅で確認すると、スピードを上げて走り出した。
健太は理恵子に声をかけるためにスピードをおとし、
「おいリエ、大丈夫か? 家で待ってろよ。
後で連れてくるからさ」
そう言って、また香穂のいる方へ走り始めた。
「任せたよぉ〜」
力なく手を振ったあと、理恵子は家に向かうためにのんびりと帰路に着いた。
「さぁ〜て、今日はどこにいこうかな〜」
社はブラブラと家の近くの道を歩いていた。
「ちょっとどいて!!!!!」
急に声が聞こえてきたかと思うと、誰かが俺にぶつかってきた。
「いってぇな。誰だよおいっ!」
ふと目を開けると、尻餅をついた転校生、朝倉香穂の姿があった。
「ごめん。急いでるから……それじゃ」
そう言って、去って行こうとする香穂の手を、社が掴んだ。
「どうしてつかむの?離して。急いで——」
「そういうわけにも行かないだろ!!!
お前、怪我しとるやんけ」
見ると、香穂の手はアスファルトで擦ったであろう傷から血が滲んでいた。
自分とぶつかって怪我をさせてしまったのに、相手に何もしないまま帰らせるのは社のプライドが許さなかった。
「いいからほっといて。私は大丈夫だから。
それより、急がなきゃいけないの、あの人が来る前に」
香穂はとても急いでいるようで、今にも走り出しそうだった。
「それに、もう傷なら治ったから」
そう言って、香穂は手を見せてきた。
そこにはさっきまであった傷がなくなり、綺麗な手があった。
「これだったらあなたは何もすることないでしょ。
いいから離して」
香穂は社の手を振り払うと、走ってどこかへ行ってしまった。
社はというと、今起こったことが分からずに混乱していた。
「あいつ、怪我、してたよな。
なんで治ってるんだ?
早すぎだろどうなってるんだよ。」
しばらくその場でぼーっとしてると、健太が走ってくるのが見えた。
「お、社じゃん、どしたん?
こんなところでぼーっとしてると車に轢かれんで。
それはそうと、香穂見てないか?
あいつ急に走り出しちゃってさ。
どこにいくのかもわからないし、まだ話は終わってないから今ずっと追いかけてたんだけどさ。
今そこの角曲がったらいなくなっててよぉ。
一緒に探してくんね?」
どうやら、香穂が逃げていたのは健太だったらしい。
普段の俺なら健太をとめ、香穂を逃すことを選択するが、この時ばかりは違った。
怪我が見えなくなったものの、怪我をさせてしまった人に何もせずに行かせてしまった責任感を感じていたからだ。
「ちょうどいいや、俺も彼女を探していたところだ。
手分けして探そうぜ。
2時間しても見つけられなかったら、またここに集合な」
そう言って、二手に分けて香穂を探すことにしたのだった。
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