第16話: あの日の夜 ~隆太郎~

「まず初めにチャコフ星人との関わりについて話すと、リエが攫われたのを知ったのは、一本の電話があったからなんです。

 その電話で、とある場所に来いと言われたんです。

 今思えば、それがチャコフ星人だったのだと思います。

 その場所に行くと、寝ているリエと一人の女性がいました。

 その女性は僕がきたのがわかると、姿を変え、この前テレビで出てきたような姿になりました。

 そこで彼女は言ったんです。


『地球を私に渡すか、この女を渡すか。

 どちらかを選べば、どちらかを私がもらっていく』


 と。悩みに悩んだ結果、僕はそこで、リエを選びました。

 リエがいない世界で生きていけないと思ったからです。

 しかし、それは同時に、地球をチャコフに渡したと言うことを意味しています」


 創一郎は龍太郎の話を黙って聞いていたが、聞きおわると、納得したように頷いた。


「では、そのチャコフ星人が化けていた女性の特徴を教えてもらえるかな?

 その情報を元に、防犯カメラを確認してみるよ。

 もしかしたら見つけられなかった資料にヒントがあるかもしれないからね」


 名刺をもらい、その目的を知った今でも、まだ創一郎がどうしたいのかがわからない隆太郎は、なぜそこまでするのだろうと疑問でならなかった。

 チャコフとどんな理由で話をしたいかはわかっている。多分。

 チャコフと話をして、この地球は今住んでいる地球人のものだと言うことを主張し、他の星で新しく文明を築いたらどうだともちかけるのだろう。

 地球側はそれを支援するとしておけば、相手側も納得して、他の星を探すかもしれない。


 ただし、次に行った星にも生命がいたら、同じように絶滅させてから住むと言う考えになる可能性も否定できない。

 生命が住める環境にある星は限られていて、その中でどう生きるか、もしくは、どう作っていくかが問題視される。

 そのことをどう説明するのだろうか。


 「あの、それを知って、チャコフと会えたとして、何を話すつもりなんですか。

 チャコフは危険な存在です。

 この前のテレビでも言っていたでしょう。

 あいつは地球人を皆殺しにするつもりなんですよ。

 そんな奴と会話したところで、何も話は進まないでしょう!!!

 そんなことをするなら、武力で対抗する準備をすればいいのではないでしょうか?」


「君みたいに武力で解決させようという人も、私のいる本部内にも、少なからずいるよ。

 けどね、それだと何も解決しないんだ。結局のところ、相手側は住める場所が欲しい。けど生活を邪魔されたくない、それはわかるね?

 もし普通に生活していたら、ここは我々の土地だ、だからこの場所から出ていけ。

 そう言われたら君ならどうする?」


 創一郎は問いかけるようにして、健太から理恵子の順に目を合わせた。


 それに最初に答えたのは、香穂だった。


「全力で攻めてきた敵を倒す。

 その場所である程度文明が発展していたならより防衛手段として、手荒くする可能性は十分にあり得ると思う。

 それに、そもそも原住民が住んでいる場所に新たに文明を建てる意味がわからない。

 例えばジャングルの奥地にある文明を作ったとする。

 そこに入ってきて、ここは我々の土地だと言われたら、理不尽だと思うだろう。

 わざわざ邪魔にならないようにひっそりと暮らしていたのに、探検心にくすぐられた者が入ってきて、急にここは俺たちのものだなんて言われたら、私だったらその人たちを殺す」


 健太も理恵子も、香穂がここまで毒舌になることに驚いたらしく、目を丸くして、果穂を見ていた。


「か…ほ……?」


 そして僕も、予想外の回答に混乱して、ただ茫然としていた。


「えぇっと、香穂ちゃんだっけ?

 随分と印象が変わったね……

 もっとおとなしい子だと思ってた」


 沙織も困惑していた。

 こんな具体的で暴力的な考えが、この少女から出るなんて思ってもいなかったからだ。

 ここまで言ってから、自分の言ったことに気づいたのか、


「え、えぇっと…すみません…ちょっとお腹の調子が悪くて……。

 お手洗いに行ってきてもいいでしょうか?」


 香穂は今にも泣き出しそうな顔をしながら、隣にいる人でも聞き取りにくいだろうという音量でボソボソと喋った後、逃げるようにして、部屋を出ていってしまった。


「ちょ、ちょっと待ってよ!!!

 場所わかんないでしょ〜〜」


 それを見た理恵子も香穂を追って部屋を出て言ってしまい、それに続くように健太も出ていってしまったので、部屋には隆太郎、創一郎、沙織の三名が残ることとなった。


 さっきまでは理恵子をはじめ、健太たちがいたから、まだ話すことができたが、自分以外の人が全員今日あったばかりの大人ということを考えると、途端に緊張してしまい、何も話さないまま、数分が過ぎた。


 そして、その無音の空間を破ったのは、午後四時半を告げる町のチャイムだった。


「こんな時間まで付き合わせちゃってごめんね。

 あまり悪く思わないでほしい…というのは私の勝手な願望か。

 私の本音を言ってしまえば、もっと情報が聞きたかったことは確かだが…。

 また話してくれる機会があったらさっき渡した名刺の裏に電話番号が書かれている。

 よかったら電話してみてくれ」


 そう言って二人は会議室を出た。


 隆太郎は、急足で出ていった香穂とそれを追って行ってしまった健太と理恵子がもらった名刺をまとめ、会議室を出た。

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