第10話: 解散 ~隆太郎~

         香穂


 みんなと別れた後、私は自分の家へと帰っていた。

 今日の反省点は数えきれないほどある。

 一番大きいのは、社くん以下数名に対し、冷たい態度で接してしまったこと。

 これは今後の学校生活に関わる大きな問題だった。


「はぁ。後で謝らないと…。

 前回の学校はみんなの雰囲気に慣れるのに、1ヶ月もかかっちゃったからなぁ。

 はぁ、日本語って難しいなぁ」


 そう言うと同時に、香穂の影が地球人のものではないものに変わった。

 もちろん、見た目は香穂のままで。


「観測員として派遣された身でありながら、ここまで地球に慣れてしまっていいのでしょうか…。

 いずれ自分たちが住む星だから、その環境を知っておく必要があるのはわかりますが、地球人になりすまして生活するのはあまり気分がよくありませんね」


 ボソボソと呟きながら歩いていると、十字路を歩いていた男性に当たってしまった。


「すみません…前を見ていなくて…。

 お怪我はありませんでしたか?」


 香穂が当たってしまった男性に近づくと、


『˚å~ßø˚¨^~†øßi´~øß^©ø†ø˙å˙å†åß˙^†´^®¨~ø˚å÷』


 その男はチャコフ星人の星が使う言語で


{観測員としての仕事は果たしているのか?}


 と聞いてきたのだった。

 香穂は自分の母国語が突然出てきたことに驚きながらも、


『´¬´≤µø†^®ø~≥ ˚¥ø¨†^˚¥¨¨∑ø¥¨Ω¨®¨†ø^††åß˙ø¨~´~~~^ß˙øßß˙ø˚¨ß^µåß^†å≥

 ˙^˚^†¨Ω¨˚^˚å~ßø˚¨∑øΩø˚˚ø¨ß^µåߨ』


{えぇ、もちろん。

今日地球を譲ると言った少年に接触しました。

 引き続き観測を続けます}


 短く会話をした後、二人は別れ、それぞれの帰路へと向かっていった。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎



        健太


「しっかし、今日は疲れたなぁ〜。

 チャコフって奴らにもイラついてるし、一発やってから帰ろっかな」


 俺は一人、ゲーセンへと入っていった。もちろんやるゲームは決まってる。


「ヒャフォーウ!! 最高だぜぇ。

 やっぱストレス発散にはこれが一番だ!!」


 今健太がプレイしているのは、パンチングマシン。

 健太は何かイラついたものがある時、主にイラついている対象に手を出しづらい時によくこのゲーセンでパンチをして、ストレスを発散しているのであった。


「164っ‼︎ 出たぜぇ。俺の新記録!!」


 自分で満足しながら帰路につこうとすると、後ろに並んでいた成人男性が、190という数字を出していた。


「ま、マジかよ…。けど、負けてらんねぇ」


 俺が、対抗心を燃やしながら近づいて行くと、


「お、さっき結構いい数字出してた少年じゃないか。

 どうした? 俺に勝つつもりなのか?」


 その青年は、大人気なく、煽ってきたのだった。


「だったら、お前より俺のほうが高い数値を出したら、お前、俺に詫びろや」


 俺はイラついたのと、単純に負けたくなかったので、その青年に向かって、喧嘩をふっかけた。

 その青年は、健太が勝てるわけがないと思ったのか、


「あぁ、いいよ。その代わり、俺に勝てなかったら何してくれるのかな」


 彼は、不敵に笑った後、そう聞き返してきた。

 この時の健太は、何をしても勝ちたかったので、


「あぁ、なんでもやってやるよ。金以外ならな」


 金以外という条件をつけたのは、この試合がいつまで続くかわからないから、どのくらい金を消費するのかが読めなかったから。

 それと、こう言う人はどうせ金目当てじゃないことをわかっているから。


 多分この人も、自分の力をガキに見せたいだけで、それ以上を必要としてない、いわばお遊びだ。

 それをわかっていながらも、俺は喧嘩(勝負)をふっかけた。

 そう言う人が、崩れるのをみるのが案外楽しいからだ。


 その青年との勝負は、閉店時間近くまで続いた。

 結果は15点足りず、175点。


「で、俺に勝てなかったから、何かをやらせようと思ったけど、こんな時間になっちゃったし、まぁいいや。

 良い子は帰って寝る時間だよ〜」


 そういうと、その青年はゲーセンを出ていった。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎



        理恵子


 「はぁ〜〜〜疲れた〜〜〜」


 私は、みんなと解散した後、家で風呂に浸かりながら、ため息をこぼした。


 別に、今日一日メンタルが崩壊するほどストレスを溜め込んでいたわけではない。

 実際、ストレスを感じなかったと言えば嘘になるが、そこまで致命的ではなかった。

 相談相手なら、リュウくんや、ケンちゃんがいるし、今日転校してきた、香穂という子も信頼できるから、今後相談相手になるかもしれない。


 数分かけて風呂から出ると、母がテレビを見ていた。


「あら、帰ってたの。お帰りなさい。

 今日はいつもよりも遅いのね。

 何かあったの?」


 いつもなら、16:00くらいには家に帰ってきて、風呂に入った後、自分の部屋でゲームなどをして過ごしている。

 今の時間を見ると、18;30だった。

 確かに、いつもの時間よりも、遅い時間に帰ってきたから、母が聞いてきた理由もわかる。


「別に、特に心配するようなことはないよ。

 今日転校生が来たから、学校を案内してきたの。リュウくんたちと一緒」


 理恵子が今日あったことを思い出すように少し上を向きながら話すと、


「そう」


 とだけ母は言い、またテレビに目を映した。

 そろそろ晩御飯を食べる時間だというと、母は


「パスタでいいや〜。作って〜〜」


 と言ってソファの上に寝転がってしまった。

 母は、肉体的にも、精神的にも疲れた時には、私や、父に家事を任せてしまうと言う特性を持っている。

 私のいつもとは違った行動に、攫われたかもしれないと言う恐怖を与えてしまったかもしれないことに申し訳なく思いながら、私はパスタを作った。


「できたよ〜」


 出来上がったパスタをリビングの前まで持っていくと、だらだらとした足取りで、母が向かってくるのが見えた。


「先に食べてるよ〜」


 そう言って、理恵子はパスタを食べた。


 母が食べ終わったタイミングで、食器をキッチンまで持って行こうとすると、


「後は、お母さんがやっておくから、大丈夫よ」


 と言って、母は食器をキッチンへと運んでいった。

 どうやら、ご飯を食べたら、精神的に楽になったらしい。


「まぁ、いっか」


 そう呟いた後、自分の部屋へと戻っていった。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎



       隆太郎


 「さぁ、これからどうしよっか……」


 僕は一人、ベットの上で考え事をしていた。


 これからのこと——チャコフ星人と対話する機会はあるのだろうか、本当に地球が滅んでしまうのか。


 まさか自分の出した答えがここまで自分を苦しめるとは思いもしなかった。

 自分のせいで地球が終わってしまうかもしれない罪悪感。

 自分の言動に対する責任感。その他全ての感情に押しつぶされそうになっていた。


「結局あの時、どうすればよかったんだよ……」


 実際、地球を選んでいたら、理恵子は死んでいただろう。

 理恵子がいない地球で、自分の生きている意味がわからない。

 理恵子はいつも僕と一緒にいて、僕の心の支えになっている。

 その理恵子がいなくなってしまったならば、僕に唯一ある支えを失い、一生鬱から抜け出せないかもしれない。


 このことは、家族には話していない。もちろん、理恵子の家族にもだ。


 理恵子の家族に話したら、おばさんもおじさんもショックで倒れてしまうかもしれない。

 もちろん、これは僕の両親でも変わらないだろう。


 だからこそ、相談ができない。

 健太となら相談できるが、二人で話し合って解決できるような、数学の問題を解くような答えが初めから決まっているものではない。

 健太は、答えがわかっていれば、頼れるが、答えがわかっていないと、考え込んでしまう。


「結局一人で解決するしかないのかな」


 けど、今するべきことがわからない。

 結局、今日という長い一日に、終わりを告げ、僕は眠りについた。

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