第3話: 新たなクラスメイト ~隆太郎~

 三人が教室に戻ると、ちょうど担任の朧木おぼろぎ先生がホームルームを始めようとしていた。

僕たちはそっと教室に入り、自分の席についた。


「おはよう。

 今日はみんなに嬉しいお話があります。

 新たな仲間、転校生が、このクラスに入ってきますよ」


 すると、教室中の人が、昨日の宇宙人の話を忘れたかのようにざわざわし始めた。


「では、入ってきてくれ。朝倉香穂あさくら かほさん」


 先生の声と同時に、すらっとしていて、ロングヘアの女性が教室に入ってきた。

 周りを見ると、口々に、綺麗な人だとつぶやいていた。僕も、無意識のうちに呟いていたらしい。

 理恵子がこちらを睨んできているのが伝わった。


「では、自己紹介をお願いします」


「朝倉香穂です。よろしく……」


 香穂は、それだけ言うと、口を閉じてしまった。

 朧木先生はもう少し話すことはないのかと問い、


「では、自分から言うのは苦手なので、五つほど質問に答えようと思います。

 名前はわからないので、私が直接その人の席に移動して指名します」


 すぐさま、三割くらいのクラスメイトが、挙手をした。

 香穂はしばらく悩んだ後、社の座る席へと向かった。


「では、この人の質問から答えていくことにします。

 なるべく早くクラスメイトの名前と顔を覚えたいので、名前も教えていただければと」


 社は、その言葉で自分が好かれていると勘違いしたのか、ふざけてばかりのいつもの雰囲気とは全く違った、礼儀正しい口調で、


「俺の名前は金城社です。

 早速質問に移ってしまい申し訳ないのですが、なぜこの学校へ転校してきたのですか?

 よくある質問ですみませんね」


 周りから、野次を浴びせられながらも、社は堂々と話していた。

 香穂は迷うそぶりもなく、


「親の転勤の都合です。

 そもそも、自分の意志で転校することは不可能と言い切れるのではないかと言うほど、無理な話です。

 私は、これまでに五回ほど転校を経験しています。

 そのどれもが、親の転勤が決まり、それにより、家族全員で、その場所へ移動し、そこで新たな学校へ私は通います。

 本音を言ってしまえば、一番初めにいた小学校、今はもう高校ですね。

 いずれ行ったであろう高校に通いたいと思ったこともありましたが、今はもう次の世界に慣れていこうとしています。

 回答はこれでよろしかったでしょうか?」


 社は、彼女の勢いに押され負けたのか、曖昧な言葉で返事を濁してしまった。

 その後も、好きな人はいたの?

 これまで住んできた町で、お気に入りの場所は?

 などの質問にも、まるで模範回答をあらかじめ作っていたかのような口ぶりで、答えていった。


「では、以上で、私の自己紹介とさせていただきます。

 ありがとうございました。

 それで、朧木先生でしたか。

 私の席はどこでしょう?」


 そういうと、朧木先生は、多少状況に困惑しながらも、


「あぁそうだな。隆太郎、起立。

 今立ってる男の子がいるだろ。

 その隣が空いてるから、そこに座りなさい」


 なぜそこなんだと、周りからの視線が痛い僕は、少々気恥ずかしながらも、


「今日からよろしく。俺は隆太郎。

 好きな呼び方で呼んでくれていいよ」


 と言って、香穂が座る席の椅子を引いた。


「ありがとう、リュウタ。

 放課後、学校を案内してくれる?

 まだこの場所の構造がわからないの」


 まさか彼女の方から誘って来るとは思っていなかったので、多少困惑した。

 てっきり、社や他の質問をしたクラスメイトに頼むと思っていたのだから。

 当然のように、外野からの野次が僕に飛んできた(主に男子だったが)

 香穂は、そんな様子を気にする素振りも見せず、


「それとも、用事でもあるの?

 あるなら強制はしないけど」


 と言って、迫ってきた。

 僕は、彼女の気迫に押され、


「わかったよ。一緒に回ろうか。

 けど、後二人一緒に行ってもいい?」


 もちろん、一人で行くと会話が途切れ、気まずくなってしまうかもしれないと思い、理恵子と健太を誘うことにした。


「了解。私は構わない。

 じゃ、放課後になったらここにいればいいね」


「あぁ。あいつらにも話つけとくよ」


 意外なところで、転校生と接点を持ってしまった。

 普段、ほとんど二人しか話す相手がいない僕にとって、久しぶりに話す“他人”の声に、戸惑ってしまった。

 慣れていないことをしたせいか、少々疲れてしまった。

 理恵子と健太には、昼休みに事情を説明することに決めて、僕は、仮眠についた。

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