第31話


「アニキ・・・。ウチってダサいかな?」


妹がノックをして俺の部屋に入るなり、こんなことを聞いてきた。


確かに、妹はこれまで生きてきた人生において空手に重点を置いているので、お洒落に対しての知識がほとんどない。

だからといって、可愛くないわけではないので、俺は正直に


「化粧っ気がないことをダサいと表現するなら、そうなるけど、俺は晴のことを今までダサいと思ったことはないよ。」


晴は年に1回くらい女性としての自分を意識することがあるのだ。

そして、空手一筋の生活を卑下したり、自分の服装センスの無さを不甲斐ないなどと言ってくるのだ。



晴も高校2年生だからな。

好きな男子生徒がいて、恋をしているかもしれない。

ここは兄として全面協力するべきだな!


「晴、お兄ちゃんの持てるコネを全て使ってお前の悩みを解決するぞ!」


「アニキ!ありがとう!」


やはり、妹からの称賛は素晴らしいな!


「でも、アニキのコネって何?」


晴は俺の服装をジロジロ見る。

もちろん俺もそんなにお洒落というわけではないし、俺の顔はそんなに広くはない。

ここは我慢をして、アイツに連絡する。


「あぁ、晴も知っている人だな。葛葉と玉藻ちゃんだよ。」


「アニキ!玉藻はともかく、ゲ・・葛葉とは連絡とっても大丈夫なの?」


妹よ、今、葛葉のことゲスって呼ぼうとしていたよね?

昔は葛葉姉ちゃんと呼んでいたのにな。


「嫌だけど、葛葉はメイクは上手いからな。玉藻ちゃんも呼ぶからストッパーになってくれると思うよ。」


俺はそう言ってすぐに玉藻ちゃんと葛葉に連絡を入れる。

すると2人からはすくに返事が返ってきて、晴の改造計画は週末に行うことになった。


これで問題はないだろう・・・、そう思っていた俺が甘かった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


土曜日の朝、我が家の玄関には山ン本五郎左衛門とぬっぺっぽうと毛羽毛現が並んでいた。


ぬっぺっぽうと毛羽毛現は来るとわかっていたけど、なぜ山ン本五郎左衛門がいるのだ?


「わざわざ晴のために来てくれて、ありがとう。」

「ほんとにありがとう!」


晴と俺が3人(3妖怪)にお礼をいう。


毛羽毛現(玉藻)からは

「いえ、晴ちゃんのためだし、お休みの日に忠明兄さんに会えるのが嬉しいから大丈夫ですよ。」


と良識的な応えが返ってきたので俺は嬉しくなるが、隣のぬっぺっぽう(葛葉)からは


「義妹が困っているのなら、助けるのは義姉の務めだよ。」


との返事があり、ぬっぺっぽうがフンスとばかりに胸を張る。


因みにぬっぺっぽうは肉の塊に短い手足のような肉の塊がくっついているような外見なので、どこが胸かは分からないけどな。


「晴はお前の妹ではないけどな。でも、ありがとう。ところで、さ・・、妲己さんが、何故ここに?」

危うく山ン本五郎左衛門と呼ぶところだった。


そう、さっきも言ったけど、俺は葛葉と玉藻ちゃんだけを呼んだはずなのに、なぜか彼女達の母親である妲己さんがついてきているのだ。


「大事な義娘が困っているのに義母が助けないなんてだめじゃない!」


裃姿のおじさんからはぬっぺっぽうと同じような回答が返ってきた。

おや?

妲己さんって葛葉と似たような性格していたっけ?


「誰?朝から玄関で大きな声を出しているのは?」


俺が不審がっていると、奥から俺の母親が出てきた


「先輩!朝からお騒がせしてすみません!」


山ン本五郎左衛門がものすごい勢いで頭を下げる。


そうだった。

妲己さんは俺の母親の後輩で昔から母親には頭が上がらないんだった。


「母さん、妲己さん達は晴にメイクだったり服のことについて教えに来てくれたんだよ。」


俺はフォローを入れる。

すると母親は嬉しそうに、


「えっ!ほんとに!私はそんなにメイクとかに詳しくないから助かるわ!」


母親いわく妲己さんは昔からメイクや服のことに詳しくて、今でもメイクや服飾関係の仕事をしているらしい。


よく見れば山ン本五郎左衛門の手にはメイク道具が入っていると思われる箱があった。


妲己さんから

「さっそくだけど、晴ちゃんが持っている服をみても良いかな?気に入っているアイテムがあったら教えてね。その服に合うようなメイクを教えるし、なんだったら、新しい服を買っても良いからね。」


「晴、良いわね。私も見てもらいたいわ。」


と母親が言うと


「問題はありません。ぜひ見させてください。」


ということで、女性達は二階の晴の部屋に向かう。


まぁ、俺が行くわけにもいかないので俺は居間でゆっくりするかな。

そう思って居間に向かおうとすると、二階から


「ここは忠明の部屋・・・。」


「ダメよ。姉さん、今日は晴ちゃんのためにきたんだよ!」


葛葉は何をしようとしているんだ?


「おい!葛葉、俺の部屋に勝手に入るなよ!」


葛葉には釘を差しておき、俺は休憩の時に出すお茶の準備をしているとお茶受けがないことに気付いた。


「ケーキでも買ってくるか。そうしたらちょうど良い時間になるだろ。」


俺がお気に入りのケーキ屋に行って人数分のケーキを買って帰ると、居間では晴と母親に妲己さんがメイクを教えており、玉藻ちゃんがも横にいた。


あれ?葛葉が見当たらないな?


「ただいま。ケーキ買ってきたよ。とりあえず、休憩でもしたらどうかな?」


「アニキ!助かる!」

「忠明ありがとう。」

「忠明兄さん。ありがとうございます。」

「さすが、義息子ですね。ありがとうございます。」


「あれ?葛葉は?」


「そういえばさっきから見ていないよ?」


まだ晴の部屋にいるのか?

「お〜い、葛葉、ケーキ買ってきたから休憩しようぜ。」


俺が一階から呼びかけても返事がない。


「聞こえていないのか?」


俺が二階に上がると俺の部屋から何かの気配がする。


「まさか!」


俺が自分の部屋の扉を開け、中を見回すとベッドが不自然に盛り上がっている。


俺が掛け布団を捲るとそこには、ぬっぺっぽうがおり、俺のベッドの匂いをクンクン嗅いでいた。どこに鼻があるんだよ?


「おい!」

「あら、帰ってきたの?」


なんだこのモンスターは?

なぜ平然としていられるんだ?


「まぁ、今日はもう忠明成分をたっぷり補充したから大丈夫よ。」


「他人の部屋に勝手に入るのは止めろよ。」


俺がそう言っても、ぬっぺっぽうは悪びれることなく、

「幼馴染は勝手に部屋に入る生き物なのよ。それと、ケーキ買ってきてくれたんだよね。ありがとう。さすが恋人だわ。」


「もう恋人じゃないだろ!」

俺がそう返事をするものの、


「あなたがそう思っているだけ、私はまだ恋人だと思っているからね。」


ぬっぺっぽうはそう言って、俺の横を通り過ぎ、一階に降りて行く。

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