第20話

〜〜〜〜〜

カフェ店員視点


私はこの店に勤めて2年になる。

その間、色々なカップルを見てきた。

成立したてのカップル、熟年カップル、付き合ってしばらく経ってきて慣れた感じのカップル、倦怠期のカップル、別れる寸前のカップル等々だ。


昔からこの店にはカップルがよく来店したらしい。ちょっとおしゃれな感じが良かったのだろう。色々なカップルが来るようになり、それが噂になってさらにカップルが訪れるようになり、いつしかカップルが訪れるカフェ百選にも選ばれるようになった。


そうすると、店長やオーナーもカップルに対象を絞るようになり、メニューなども色々考えるようになった。


そして、今、この店には人気のメニューが2つあって、一つはパスタ(1.5人前)とピザ(1.5人前)と飲み物(2つ)カップルパフェ(大きめサイズのパフェ)をつけたカップルセットだ。


今、私の前ではカップルがメニューを眺めながら、何を頼むか検討をしていて、彼女がメニュー表からカップルセットを指し示し、彼氏にこれにしようと勧めている。


このカップルは先ほど私が席に通したカップルだ。


少し年上の男性(多分、大学生)と年下の女性(高校生かな?)で、彼氏は超絶イケメンという感じではないが、誠実そうで清潔感のある男性で、彼女を見つめるのが少し恥ずかしいのか、目線はよく動かしていた。

しかし、ちゃんと彼女さんの動きには注目していて、彼女の動作の一つ一つをしっかり目で追っているし、彼女さんが話している時は、ちゃんと目を見たり、頷いて応えるなどしている。


彼女さんは長い黒髪が特徴的な美少女なんだけど、やはり恥ずかしいのか、目は伏せがち。

だけど、話をする時は、彼氏さんのことをちゃんと見て話をしている。その瞳が恋する女の子って感じだ!


なんて初々しいんだろう!!

付き合いたてのカップル最高だね!


このカップルは「月が綺麗」って言われたから、付き合い始めたに違いないわ!


最近、この店を訪れるカップルなんて、倦怠期で別れそうなカップルとか、イケメンチャラ男の二股野郎とか、パパ活女子ばかりなのだ。




2人はカップルセットを選ぶときも、彼女さんが指し示すメニュー表を、2人で仲良く覗き込んで決めていた。


そこで、彼氏が私を呼び、メニューを通そうとするも、パスタやピザ、飲み物などの種類を決めていなかったことに2人とも気付き、私に一度断って、私を下がらせ、ちゃんと2人で相談して料理などの種類を決めていた。


さっきのイケメンチャラ男二股野郎なんか、彼女とは相談なんかせずに自分が食べたいものを勝手に注文していたし、あちらのパパ活女子は、複数いる相手に対して個別にメニュー覚えるのが面倒なのだろう。

いつも同じのルーティーンメニューだ。


目の前のカップルよ!

今の初々しさを忘れないでね。


私は、再度、目の前のカップル呼ばれて(彼氏さんは何度も呼んですみませんと謝ってきた。ええんやで!)


私は、注文を聞いた後、復唱をして、厨房に注文を通す。


パスタとピザを2人が仲良く食べ

た後、(彼氏さんがちゃんと彼女さんに取り分けていた!)


私が食べ終わった後を見計らい、飲み物を給仕、そして、私が心を込めて作ったパフェをテーブルに持っていく(この店では、料理は厨房でコックが作って、パフェなどのデザート類は私達が作り、ケーキ類は別店舗で作成したものが、一定数届けられるので、私達が盛り付けて提供する)。


そこで、私はあるイタズラをすることにした。

もちろん、変なことではない。

パフェ用のスプーンをあえて一つしか提供しなかったのだ。


もちろん、頼まれたらもう一つスプーンを提供する。


しかし、私は初々しいカップルが大人の階段を登るのを見たいのだ。

そう!

【あ~ん】をするところが見たいのだ!

それも擦れたカップルがするやつではない!

初々しいカップルが嬉し恥ずかしい感じで【あ~ん】するのが見たいんだ!


テーブルに置かれたパフェ用の少し長いスプーンを見て、彼氏さんが、

「スプーン一つしかないね。店員さんが忘れたのかな?」


そして、私を呼ぼうとする彼氏さんを彼女さんが止めて


「恥ずかしくないので、大丈夫ですよ。」


と言ったら、彼氏さんは一瞬戸惑ったけど、彼女さんが


「1回だけでいいので」


なんてお願いしていたので、彼氏さんは頷いて応えた。


そこで彼氏さんはパフェをスプーンで掬うと、恐る恐るという感じで、彼女さんの口元に持っていく(恥ずかしくて彼女が見れないのか、口元まで持っていくのに少し時間がかかった。この辺も初々しくて良いね。)。


そして、今度は彼女がスプーンを持って、彼氏さんに【あ~ん】をしていた。


彼女さんの嬉しそうな顔や彼氏さんの恥ずかしさを通り越したのか、諦めて目を瞑って、勢いよく目の前のパフェを食べた顔を見れて、私は幸せだった。


〜〜〜〜〜〜


俺は、スプーンが一つしかないのに気付いたので、定員さんを呼び、もう一つスプーンをもらおうとしたが、毛羽毛現がその触手のような髪で、俺の挙げようとした手を抑えた。


「1回だけでいいので」

その目が

食べさせてくれません?

なんて言っているようだ。


俺の目には毛羽毛現は毛の長い真っ◯くろすけとか、毛の長いデカい犬という印象なので、特に恥ずかしいとは思わない(女子にするとなるとかなり恥ずかしいけどな。)ので、俺は一つ頷いて、スプーンを手に取り、パフェをひと掬いしたのだが、毛羽毛現の口はどこにあるのかがわからないので、やたらと時間がかかってしまった。


結局はここら辺が口だななんて思ったところにスプーンを持っていくと、毛羽毛現がパクッて食べてくれた。

なんか犬みたいな感じだった。


そして、毛羽毛現が俺からスプーンを取って、俺の口元に掬ったパフェを持ってきた。


なんか髪の触手を見ると非現実的な感じがする。

俺は恥ずかしくはないが、非現実さを少しでも消すために目を瞑って目の前のパフェを食べた。


うん。口の中のパフェは現実だな。甘くて美味しい。


俺は壁に貼られた大食いチャレンジメニュー成功者と書かれた文字の下にある顔写真を見ながら、何故この店はこんなにおしゃれなのに大食いチャレンジメニューがあるのだろうかと考えたが、答えは思いつかなかった。

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