第19話

妹には行かないなどと言っていたが、結局、私は、忠明の家に来てしまった。


忠明には呆れられるかもしれないけど、彼には機嫌を直してもらって、恋人関係を継続してもらいたい。

妹に言わせれば、もう別れたから継続じゃないでしょ!なんて言われそうだけど、私はまだ忠明とは別れたとは思っていないから。


私は勇気を振り絞って、インターホンのチャイムを鳴らすと、インターホンに付いているカメラが私のことをじっと見つめたように感じた。

しばらくして、忠明の妹さんがインターホンのマイク越しに話しかけてくる。


「ハイ。こちらは一般家庭です。昼ドラのようなドロドロ関係がお好きな変態にはご用件はありませんので、潔くお帰りください。」


「あの!忠明に誤解だったと伝えたいのです。それと、忠明だけでなく貴女やお母さんに謝らせてもらえないでしょうか?」

私が必死になって伝えると、しばらく向こう側で考えるような間があった。


「兄は今、家にはいません。そして、私や母に謝る必要はありません。兄から聞いたことと貴女との今までの付き合いから、貴女が何をしたかったのか、そして、何をしたいのかは、なんとなく分かります。だからと言って貴女が選んだ方法は最低だと思います。兄が人間不信になっていないのが、奇跡だと思います。」


そこで一度、妹さんは言葉を切り、


「ですから、兄にはもう近づかないでください。」


そう言って、マイクの電源が切られたのか、声が聞こえなくなった。


私は、もう一度、インターホンを鳴らすけれど、再び声が聞こえることはなかった。



〜〜〜〜〜〜〜

「ですから、兄にはもう近づかないようにしてください。」


私はそう言ってアニキの元カノに冷酷な声で伝えた。


マイクの電源を切り、相手の顔が見えなくなってから1人呟く。


「もちろん、アニキの心が癒された後、義理の姉としてなら近づいても良いですよ。」


私が部屋に戻ろうとしたところで


「誰だったの?」


リビングに入ってきた母親から、インターホンの相手のことを聞かれたから、昼ドラ好きの人で、もしかしたら、何度かインターホンを鳴らされると思うと伝えると


「そう。」

と母親は静かに答えて自分の部屋に戻って行った。

どうやら母親も相手にしないようだ。


再び鳴らされたインターホンには誰も応えずに私は部屋に戻る。


アニキと親友の初デートが上手くいくことを祈りつつ、部屋で空手の型を練習した。

後で、母親に部屋で空手の型を練習するなと怒られた。

理不尽極まりない。


〜〜〜〜〜〜


私は何度かインターホンを鳴らすが、全く相手にされないので、忠明の家から離れる。


そうだ。綱子を呼ぼう。

正直なところ、こういった状況になったのも、酒田の奴と綱子の出した案を採用した結果だ。

私は酒田の奴は無視をしているけど、綱子とは友人として付き合っている。


幸いなことに、綱子とはすぐに連絡がつき、彼女も今日は予定がないとのことなので、ショッピングモールで昼食でもして、買い物でもしようと話がついた。


綱子はまだ家にいるとのことなので、ショッピングモールで待ち合わせをすることにした。


「待った?」


待ち合わせ場所で、私がしばらく待っていると綱子が小走りにやってきた。


私は何回か気にしなくていいと伝えているのだけど、彼女は律儀な性格なので今回のことを気にしているらしい。

だから、こうして予定を併せてくれるのだろう。

「大丈夫だよ。綱子こそ良かったの?私が急に誘ったから予定とかあったんじゃない?」


「大丈夫。ほんとに予定はなかったよ。学食であんなことがあったから、私が兼太くんと二人きりで会うと話がおかしくなるかもしれないからね。」


私が忠明を捨てて、酒田の奴と付き合っている関係と周囲に誤解されてしまったから綱子は気にしているのだろう。


「ありがとう。」

まぁ、私としては、酒田が酷い奴で、忠明から私を奪ったら、私に飽きて今度は綱子と付き合い始めたとなってくれたら好都合なんだけど。


「何を食べようか?今日は私から誘ったから、綱子の好きな物、食べに行こ!」


私のズルい考えを綱子には悟られたくないので、私は必要以上に明るい声を出し、2人でフードコートに向かって移動する。


そして、移動している途中、カフェで仲良く座って話をしている忠明と妹が見えたとき、私は目の前が真っ暗になった。

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