第18話

玉藻ちゃんと俺は、図書館に程近い、ショッピングモールに向かう。


「思ったより、玉藻ちゃんは勉強できるね。晴が自分と同じくらい勉強できないって言っていたから、もう少し悪い印象を持っていたから。」


毛羽毛現は髪の触手で口元らしき箇所を隠しながら、ふふっと笑う。


「晴の勉強嫌いは中々ですからね。必要以上に教えようとすると、逃げてしまうので、私はいつも赤点を回避できるように最低限のことを教えていたんです。彼女は上手くテストさえ切り抜ければ、あとは気にしないですから、私の成績なんて聞いてきたことはありませんよ。」


「そうか。玉藻ちゃんがいつも赤点ギリギリの事しか教えてこないから自分と同じレベルくらいと、思っていたんだな。大体、いつも教えてもらっている立場なのに、自分以上にできると思っていないのが晴らしいな。」


そんなことを話しながら、ショッピングモールに向かうとちょうど昼食前になり、各飲食店は込み始めている。



「今日はいつも晴に勉強を教えてもらっているお礼だから奢るよ。せっかくだから玉藻ちゃんが行きたい店に行こうか。」


毛羽毛現はその目を大きく開きびっくりした様子を見せる。

そして、手の代わりな触手を顔を前でブンブン振り。


「大丈夫です。私も母親からはお金をもらってきているので自分の分は自分で払います!」


「気にしなくて大丈夫だよ。うちの母親からは俺の服を見立ててもらうからって、玉藻ちゃんとの昼食代を含めての服代をもらってきているからね。それに俺も葛葉とは別れて、彼女に振り回される時間がなくなった分、バイトとかも始めようと思っているから。」


今回は俺が葛葉に振られたショックを紛らわせようと母と妹が色々と気を遣ってくれて、こうして服や食事代を出してくれたのだろう。


まぁ、俺としても、葛葉が妖怪に見えていなければかなりショックを受けていたと思う。


彼女が妖怪に見えたことで、取り憑かれなくて良かったという気持ちの方が強いから、こうして自我を保っていられるのだろう。


そんなことを考えながら、俺たちは玉藻ちゃんの希望であるちょっとおしゃれなカフェに入った。

どうやら、パスタやケーキが美味しいと評判で前から入りたかったらしい。


俺たちは、店員さんに席に案内され、メニューをみながら何を食べようかと話し合う。


やはり、こうしてみると毛羽毛現の見た目はインパクトがあるな。


「玉藻ちゃんは何が食べたいのかな?俺はこのコーヒーとデザートが付いたパスタセットが良いな。」


毛羽毛現もメニューを見ながら色々迷っているみたいだな。

あれも良いし、こっちも気になるし、なんて言っている。


そして、毛羽毛現はメニューの後ろのページに記載されているデザートのところで目を止めて、何故か葛藤をしている。


「どうしたの?何か食べたいものがあるのかな?何でも頼んで良いよ。」


俺がそう言うと、毛羽毛現は嬉しそうに目を輝かせ、こちらにメニューを見せて、その触手状の髪でその品物を指し示す。


「私!このカップルセットが良いです!」


そのカップルセットなるものは1.5人前のパスタとピザに飲み物が2つ付いて上に少し大きめのカップルパフェがついたこの店イチオシのセットらしい。


確かに値段的にもお得感はあるが、

「えーと、玉藻ちゃんは俺とカップルに見られても良いのかな?」


「この店に同じ年代の男女が2人だけで入っていたらそう見られてもおかしくはないですし。他人から見れば、今の私達はどう見てもカップルですから大丈夫です!」


そう言われて、周囲を見ると確かにこの店にはカップルらしき男女が多いな。


まぁ、他人の評価なんて、今の俺と玉藻ちゃんには関係はない。俺たち2人がカップルではないと認識していれば良いのだ。

そうなると、カップルではないのに嘘をついて、お得なセットを頼むという良心の呵責に耐えれば良いだけだ。


店側からすると、イチオシのセットが売れて、それを見た別のカップルが、今度はそれにしようとして、再度店を訪れるという副産物も得られる可能性があるのだから、俺たちの嘘を追及することはないはずだ。


「わかった。それにしよう。セットのパスタやピザはどんな味がいいかな。飲み物は俺はコーヒーがいいな。」


「そうですね。ここはやはりカルボナーラも良いですけど、ボロネーゼも捨てがたいですね。」


などと、話しながら俺たちはメニューを決めて店員さんに注文をする。


俺は毛羽毛現を眺めながら、頼んだカルボナーラのパスタを毛羽毛現に取り分け渡す。


「ありがとうございます。」

俺からパスタを受け取り、毛羽毛現は触手状の髪で上手くフォークとスプーンを操りパスタ食べて、


「美味しい!」

などと言っている。


俺たちは次に行く店を決めるために、仲良く話し合いながら、食事を楽しんでいる。

そんなふうに思われ、傍から見ると、俺は美少女と付き合えた運の良い男だなんて評価されているのだろうな。


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