第17話

俺が心持ち急いで図書館に向かうと待ち合わせ時間よりは早く着いたので、毛羽毛現は来ていないみたいだ。


急いできて良かった。って、妖怪の毛羽毛現なんだから待たせたところで、気にしなくてもいいじゃないかとも思うが、電話などで声を聞いているだけだと、以前と変わらない普通の女性の声なので、どうしても対応が普通の女性に対するものになってしまう。


毛羽毛現(玉藻ちゃん)が来るまでしばらくボーっとして待っていると家を出る前の妹の晴とのやりとりを思い出す。


〜〜〜〜〜

妹が某国の海兵隊教官のように俺の前に立つ。

「良いか!アニキ!何もしなくても思いが相手に伝わるなどと云うふざけた幻想は今すぐ捨てろ!!人・・・、特に男女の関係においては、言葉にしないと相手には伝わらない!」


俺は晴の真剣さに思わず気を付けの姿勢になってしまう。


「大体よ〜、何だよ。月が綺麗って、伝わらねぇだろ〜。普通に好きですって言った方が伝わるだろ。どんなに捻くれ者なんだよ〜。」


妹が過去の文豪にケンカを売りながら、俺を新手の幽◯紋使いのような目で見る。


「アニキもそう思うよな〜。」

「そうだな。素直に相手には伝えた方がいいよな。」


俺は今の妹に逆らうのは悪手だと思い妹に迎合する。


「そうだよな~」


妹が俺の顔をじっと見る。

ヤバい。今、俺の汗を舐められたら嘘だと思われるかもしれない。


〜〜〜〜〜


そんなやり取りを思い出しながら、図書館の前で待っていると、毛羽毛現が走って俺の前にやってくる(実際は毛が長すぎて身体全体が見えないので走っているかはわからないが、速度で走っていると思われる)。


俺は妹のからの

【本日のノルマ、その1、女子の服は必ず褒めるべし。】

という掟を守るべく、目の前の毛羽毛現を眺める。


ごめん。妹よ。お兄ちゃんの目は役立たずだ。目の前の玉藻ちゃんは俺の目には超ロン毛のまっ◯くろすけにしか見えない。


「こんにちは。玉藻ちゃん。今日も可愛いね。服もよく似合っているよ。」


俺の陳腐な褒め言葉でも、毛羽毛現は嬉しそうにクネクネしている。


「こんにちは。ありがとうございます。忠明兄さんも格好良いですよ。」


「ありがとう。それじゃ、図書館に入って席を取ろうか。」


俺は家族以外からの久しぶの褒め言葉に少し照れながら毛羽毛現を促す。


〜〜〜〜〜



図書館に入り、とりあえず、玉藻ちゃんの実力を把握するため、簡単な問題を解いてもらう。


一応、昨日、何が不得意なのかは聞いており、数学に少し苦手意識があることを聞いていたので、あらかじめ数学の問題を用意していたのだ。


しかし、毛羽毛現はその触手のような長髪でシャープペンシルを持って、危なげなく用意した問題を解いた。


これは思っていたより、問題を解けているな。


まぁ、妹からはテスト前には一緒に勉強していて、玉藻ちゃんにいつも教えてもらっていると言っていたので、俺なんかが教えるまでもないと思っていたけど。これは予想以上だな。


まぁ、今より学力を落とさないように勉強して、大学生活の話をして行こうか。


などと思いながら、これからの勉強を計画する。

俺が毛羽毛現を眺めながら、

「じゃあ、問題を解いてもらったけど、解けなかった問題を中心に解説していくね。」

俺は周りに迷惑をかけないよう少し小声で解説をしていく。



俺が解説を終えると

「忠明兄さん。勉強を教えてありがとうございます。とても分かりやすいです。」


ここまでで良い時間になったので、少し休憩をしてから大学生活の話をしていく。

といっても、姉の葛葉が俺と同じ大学に通っているので、話をすることはあまりない。


「じゃあ、今日は初日だし、これぐらいにしておこうか。」



「ハイ。ありがとうございます。晴からはこのあと忠明兄さんの服の買い物に付き合ってって言われてますからね。」


毛羽毛現の表情はその毛でわからないが、どことなく嬉しそうに思えるような声で答える。


「ありがとう。とりあえず近くのショッピングモールでも行って、先に昼食でも食べようか。」


俺はそう言うと、図書館を出て、近くにあるショッピングモールに1人と1妖怪で並んて向かった。


傍からみれば、仲の良いカップルに見えるのだろうけど、俺の目には毛羽毛現にしか見えないのだよな。

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