第21話

目の前が真っ暗になった私は誰かに肩を叩かれた。

衝撃でびっくりして、肩を叩かれた方を向くと、綱子が私に、何かを話しかけていた。


「どうしたの?急に止まったりして?」


綱子は私が急に止まってしまったのを訝しんてさっきから声をかけていたのだが、私が何も応えないので、肩を叩いたらしい。


「うん。そこのカフェで忠明と妹が一緒にいたから・・・。」


私の言葉を聞いて綱子の顔色が変わる。


「えっ?どうして?妹さんからは何か聞いている?」


玉藻からは何も聞いていない・・・。

なんか今日、いつもより楽しそうに準備していたのは忠明とデートをするからか。


そういえば、今、思い起こせば、あの子も昔は忠明の事を目で追っていたような気がする。


あの子は、普段は無口だし、今まで忠明の事も、恋愛に絡んだことは言ってはいなかったけど、あの時、家の玄関でケンカした後から少しおかしいなとは思っていたんだ。


そうよね。おかしいよね。

確かにおかしいよね。

私達はまだお互いに別れることに納得はいっていないから、おかしいよね。


忠明の彼女はまだ私だよ。


ほんとは今日、忠明の前には私が座っていて、私が一緒にご飯を食べて、私が隣を歩いて、私が手を繋いで、私が一緒にお風呂に入って、私が一緒に忠明と寝るんだよね?


これって浮気ってやつなのかな?

許せないよね。


綱子が私の手を掴んで何かを言っているけど、何を言っているのかしら?


あの寂しがり屋の子犬みたいな忠明にはちゃんと言っておかないと。


いくら寂しいからって、いくら私と似ているからって他の女のところに行ったら駄目だよって、あなたには私がいるんだよって。


言っておかないとねぇぇぇ!



〜〜〜〜〜〜


俺たちがカフェを出ると凄まじい妖気が目の前から吹きつける。


そこには、普段の2倍くらいの大きさになったぬっぺっぽうと渡辺さんが立っていた。


「どういうことかしら?ちょっと痴話喧嘩したからって、私と云う彼女がありながら、私以外の女とデートするのは浮気って言われてもしょうがないんじゃない?」


ぬっぺっぽうが俺と隣の毛羽毛現を睨みつけながら(と言っても、目はどこにあるのかわからない。あの目みたいな皺が目のなのか?)


「今日は図書館で玉藻ちゃんに勉強を教えて、ちょうど昼食の時間になったから一緒にご飯を食べただけだ。」


俺の言葉の後に、毛羽毛現も言い放つ。

「姉さん!それよりも聞き捨てならないのは、彼女って何?もう別れたはずでしょ?姉さんが酒田っていう、友人裏切り二股変態ゴミクズ野郎と付き合い始めて、忠明兄さんを捨てたんでしょ!」


渡辺さんがぼそっと

「あの・・・、そいつ一応、私の彼氏なんだけど・・・。」


と小さい声で言っていたが、ぬっぺっぽうも毛羽毛現も聞いてはいない。


「あの、2人とも、ここはショッピングモールで、周りには人が多いからね。あっちで話そうか?」


俺が浮気したせいで、修羅場を迎えているみたいじゃないか?!

周りの視線が痛いぞ!


そこにいる若い女性なんか

「えっ?あの男が友人裏切り二股変態ゴミクズ野郎なの?」

なんて言っているけど!?

それは酒田だからね!


「「そこの女!!忠明(兄さん)は友人裏切り二股変態ゴミクズ野郎なんかじゃない!あんなクズと一緒にするな!」」


2人(2妖怪?)の声が重なる。流石、姉妹だけあって息がピッタリだね。


「私の彼氏、最低の扱いじゃない?」

渡辺さんがまたぼそっと呟く。

いや、違うと思うなら、もっと強く否定しようよ。まぁ、酒田は友人裏切り二股変態ゴミクズ野郎には違いないが。


「この勉強会と食事は玉藻ちゃんと俺の妹が、お前に振られた俺を励ましてくれるために計画してくれたことだからな!」


俺は妖怪じゃない女性とデートしたいんだ。あ〜んとかも女性としたい!

触手や肉の塊なんかと手を繋ぎたくないんだ!本当はこう言いたいんだ!(でも言えない。)


「ほんとに?」

ぬっぺっぽうがデートじゃないの?付き合っていないの?本当に違うの?という希望(いや、違ったからって復縁はしないからな。)を込めて聞く。


もう一度、俺は葛葉に向けてちゃんと伝える。

「良いか?葛葉は俺を振って、酒田と付き合ったよね。それで俺は1人になったんだ。俺は、まだ誰とも付き合えるような心境じゃないから、玉藻ちゃんは俺を慰めるために食事と買い物に付き合ってくれているんだよ。」


毛羽毛現が横で

「まぁ、今日はそれぐらいの認識で良いかな。私にはまだ次があるしね。」

なんて呟くが無視をする。


ぬっぺっぽうは、

「それが間違いなの!私と友人裏切り二股変態ゴミクズ野郎は付き合っていないのよぉぉぉ!」


「え〜、私の彼氏、名前すら呼ばれなくなった〜。」

渡辺さん(なんか嬉しそうだな)が少し可哀想になってきたよ。


「まあ良いわ!こんな衆人環視のところで、話し合っても恥ずかしいし、決着はつかないわ!今日のところは引いてやる!」


そう言って、ぬっぺっぽうが毛羽毛現の触手(手なのか?)を掴む。


そして、

「忠明はフリー、そして、私は友人裏切り二股変態ゴミクズ野郎なんかとは付き合ってはいない!ということは、忠明とはまた付き合えるチャンスがあるのよ!」


えっ?この妖怪、超前向きポジティブ妖怪なの?復縁する気ないよ。


「そして、玉藻!あなたと私は今この時から、忠明をかけて争う戦士なのよ!」


いや、妖怪な!


「ええ!良いわ!どちらが忠明兄さんに相応しいか勝負しましょ!」

えっと何なの?

この青春・友情溢れる爽やかな妖怪達は?!


「良いわね!関係ないけど、私も楽しくなってきた!」

えっ?関係ない渡辺さんは盛り上がらないで!


この後、盛り上がった妖怪二匹と何故か着いてきた渡辺さんの2妖怪と1人で、俺の服を選んでくれたので、俺の手持ちの服がおしゃれになり、財布の中が空になった。


どっとはらい

第1章終わり

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