第9話
「アニキ、今日は空手の練習が休みになったから、午前中から図書館で勉強でもしない?」
「あぁ。問題ないよ。」
日曜の朝、俺は家でのんびりしようと思っていたが、妹の晴から、図書館へと誘われたので、妹とは良好な関係を築いておきたいので、了承をしておく。
父さんは昨日の夕方に母さんから、
「今日は、妲己ちゃんと我が家でママ友会をするから、たまには釣りに行ってもいいわよ」
などと妻公認で釣りの許可をもらっていた父親は、久しぶりの趣味の海釣りに昨日の夜から大興奮していた。
朝から姿が見えないので、多分、日が昇る前から海に向かっているはずだ。
「しかし、晴が図書館とは珍しいな。」
「私も高校生だからね。しっかり勉強をしておかないと。」
晴は高校2年で、俺は大学1年だ。普段は俺も晴も図書館に行かず、それぞれ自分たちの部屋で勉強をしているが、俺が葛葉とあんなことがあったし、今日は葛葉の母親も家に来るらしいから気を遣ってくれて外に誘ったのだろう。
俺としては、葛葉に振られたことよりも、葛葉や玉藻が妖怪に見えることが不安なのだが、そんなことを言えば、余計に心配させることになるので、黙っておく。
まぁ、色々と勉強しておいて損はないしな。
俺と晴は朝ご飯を食べ、身支度をしてから、一緒に図書館へ向かう。
〜〜〜〜〜
私は賀茂家のインターホンを押す。
目の前のインターホンのボタンが自分の絞首台のボタンのように思える。
押した途端、自分足元が開いて首が締まるのではないかと錯覚してしまう。
幸いなことに私の妄想は実際には起こらず、扉が開いてにこやかな日立先輩が顔を見せる。
「やっほー。妲己ちゃん、久しぶりだね。急に話したいって連絡してごめんね。妲己ちゃんといっぱい話したいことがあったんだよね。」
「娘が息子さんに失礼なことをして大変申し訳ありませんでした!」
私はその場で土下座をして日立先輩に謝る。
〜〜〜〜〜
図書館で勉強をしていると、晴が周囲に気遣って小さな声で話しかけてくる。
「アニキは葛葉のこともう何とも思っていないの?」
「俺は葛葉のことを怒ってはいないよ。ただ、あんなことをされたことだしね。しばらくは会いたくはないかな。まぁ、昨日は、酒田とは、何もないって本人は言っていたけど、それも本当かはわからないしね。」
何より、妖怪ぬっぺっぽうになった葛葉と付き合うには抵抗がある。
俺が自分がぬっぺっぽうとデートする場面を想像するとブルッと震えて、思わず、
「いや、無いわ〜。」
と呟くと、晴は何か誤解したのか、
「震えるほどトラウマなんだね。分かった。葛葉はアニキには決して近づけさせないからな。」
などと言ってくれた。
実際のところ、葛葉とは、しばらくは、話したくもないので助かる。
「ありがとう。俺のことで迷惑をかけてすまないな。それよりもせっかく図書館に来たんだ。勉強するだけでなく、本でも借りて帰らないか?」
「良いね〜。」
俺も子供の頃から読書は大好きなので、普段から色んな本を読んでいる。
妹も子供の頃から、空手一筋だが、休みの日などは部屋で、大人しく本を読むタイプだ。
俺は、図書館で妖怪に関する本を何冊か借りてみようと思い、民俗学や民間伝承に関するコーナーを探していると晴が話しかけてくる。
「アニキは今日はどんなジャンルの本を借りるの?」
「うーん。最近、妖怪とかに興味があるからそこら辺を借りてみようかなぁ。」
俺は何冊か面白そうな本をピックアップしてみる。
妖怪の漫画とかに、ぬっぺっぽうや毛羽毛現の退治方法とか描かれていないかな?
俺も「下駄」とか「ちゃんちゃんこ」とか「鬼の手」とかないとだめかな~。
〜~〜~〜
俺達が図書館から帰ると、居間から母親の話し声が聞こえてきた。
どうやら、まだ妲己さんはいるらしい。
まぁ、葛葉にはわだかまりがあるが、向こうの家族には今まで良くしてもらったし、毛羽毛現の妹がいる以外、文句はないもんな(そこが大きいとも思うが。)
「せっかく妲己さんが来ているから挨拶でもしておくか。」
「ウチもしておく〜!」
妹も向こうの家族(俺の件で葛葉のことは嫌っているが)と仲が良いので、妲己さんに会い居間に向かう。
居間に入ると、母親が明るく話している。
「へっ?」
俺が間抜け声あげる横で、
「妲己さん、お久しぶり〜!」
妹がはしゃぎながら母親の前にいる人に声をかける。
俺が知っている妲己さんは高校生の娘(妖怪)がいるとは思えないぐらい若く見える女性だったよな〜。
今、俺が目にしているのは、裃姿(よく忠臣蔵で、浅野家の当主が松の廊下の時にきているような着物だ)のおじさん(侍)だった。
母親や妹の反応から考えると妲己さんなんだろうけど、どう見てもおじさんだよな〜。
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