第10話

母親は、今日は後輩であり、ママ友の妲己さんと会うと言っていた。

しかし、俺の目の前にいるのは、裃姿の侍(おっさん)だ。


俺の横にいる妹は、裃姿の侍を妲己さんと呼んでいたし、母親も普通に話しているので妲己さんなのだろう。


洋風の部屋に裃姿の侍が座っているのは違和感が半端ない。

しかし、違和感以上に侍から発せられる妖気みたいなものがすごいな。

しかし、母親や妹は普通に接しているけど、この妖気は感じていないのだろうか?


ぬっぺっぽうと毛羽毛現に比べて母親の妲己さんは普通の姿だけど(裃姿の侍を普通というのはどうかと思うが)彼女も妖怪なのだろうか?

侍の妖怪っているのか?

平家の落ち武者伝説とかに関係する妖怪か?

それとも琵琶法師の耳を持っていく妖怪(あれは妖怪ではなく幽霊(亡霊)か?)とかか?

だとしても、目の前の侍には落ち武者とか、幽霊という印象は受けないな。


俺は図書館で借りた本の事を思い出す。

数冊借りたのだが、その中に、広島県の三次市(みよししと読むらしい)の妖怪に関する本があった。

もしかしたら、目の前の侍は山本五郎左衛門か?


※山本五郎左衛門(さんもとごろうざえもん)「稲生物怪録」に登場する妖怪の頭領であり、魔王に属するものとされている。「稲亭物怪録」では山ン本五郎左衛門、「三次実録物語」では山本太郎左衛門と呼ばれている。

別の妖怪画では三つ目の烏天狗の姿で描かれているが、「稲生物怪録絵巻」の裃姿の侍姿の方が有名だ。神野悪五郎と魔王の頭の座をかけて争っていたが、稲生武太夫(幼名、稲生平太郎)を驚かすことができなかったために敗退したとされる(さっきスマホで調べた)。


いや、大物が出てきたよ。

俺はとりあえず、目の前の妲己さん(山本五郎左衛門)とは目を合わせないことにしよう。


母親と妹は葛葉の件はあるが、茨木家とは今まで通り交流は続けていきたいと言っていたので、妲己さんには今までどおり、普通に接している。

しかし、妲己さんは葛葉の件があるから、俺と話をしたそうな感じを受けるな。


母親や妹もその様子を察したのだろう。

普段と違ってあまり会話が弾んではいなさそうだ。


「葛葉が大変失礼なことをして申し訳ありませんでした!」


母や妹との会話が途切れた瞬間、いきなり、妲己さんが頭を下げ、俺に謝ってくる。


葛葉の名前がでたら、和やかだった母親や妹も少し殺気だった感じになった。


「ホント、葛葉ちゃんには困ったものよね。」

いやいや、母よ!

妲己さんを煽らないでもらいたい!

ほら、プルプル震えて怒りを堪えているからな。

相手は魔王とか言われている存在だから怒らしても良いことはないと思うぞ!


「ホントだよ!アニキの目の前で新しい彼氏といちゃつくんて!」


晴も煽らないでくれないか?!

2人にはまだ茨木家の玄関であったことを言っていなかったか?


俺は2人の怒りを収め、魔王と言われている山本五郎左衛門を怒らせないように慌てて取り繕う。


「母さんや晴には言っていなかったかもしれないけどね。昨日、葛葉と茨木家の玄関で少し話をしてね。葛葉は俺を嫉妬させるため、酒田を使って嘘をついたって言っていたよ。まぁ、そんな嘘をつく時点で付き合う気はもうないんだけどね。」


俺としては、見た目、ぬっぺっぽうな葛葉とは別れていけるように話を持っていけば、ベストなんだがな。

まぁ、今回は実際にあったことを話せば葛葉とは別れられるだろう。


「それにしたってやっていいことと悪いことがあるでしょ!」


妹よ。これ以上、煽らないでくれ!

ほら、拳をぐって握ってるのがわかるから。

逆ギレされたらとんでもないことになるからな!

ここはなんとか穏便に帰ってもらわないと。



〜〜〜〜〜


「それにしたってやっていいことと悪いことがあるでしょ!」


私は晴ちゃんの言葉を噛みしめる。

人にはやっていいことと悪いことがある。

確かにそうだ。


我が娘ながら馬鹿なことをしてくれたわ。

私は拳を握りしめる。


「晴、言い過ぎだよ。俺たちは付き合っていたけど、別に婚約をしていたわけではないからね。まぁ、なぜあんなことをしたのかは理解できないけどね。」

「妲己さんも気にしないで下さい。」


忠明君が妹の晴ちゃんを抑えつつ、私には気を使って優しく声をかけてくれる。


「え〜、ウチらが言うよりも、母親である妲己さんからガツンと言ってもらった方がいいじゃん。」


「昨日も玄関で妹とケンカしていたところで、話を聞いて叱ったところです。もう一度、私から娘にはしっかりと・・・。」


「いやいや、もう良いですよ!葛葉とは付き合えなくなって残念ですけど、家族間の交流が無くなるのもさみしいですからね。気にしないでください。」


昨日、玄関で暴れていた娘たちから聞いた話だと、どう考えても葛葉が悪いと言うのに、忠明君は穏やかに接してくれる。


「忠明君が良ければ、次は夫と葛葉を連れてきて、忠明君にしっかり謝罪します。もちろん、忠明君が葛葉と会いたくなければ、葛葉は連れてはきませんが。」


〜〜〜〜〜


「忠明君が良ければ、次は夫と葛葉を連れてきて、忠明君にしっかり謝罪します。もちろん、忠明君が葛葉と会いたくなければ、葛葉は連れてはきませんが。」


いやいや、妖怪(?)親子大集合は止めてもらいたい。

この様子だと、父親の紂さんも妖怪の可能性もあるからなぁ。

まぁ、実際には俺の目がおかしくなって、茨木家の人が妖怪に見えているだけかもしれないけどね。


「いや、気にしないでください。謝罪もいりません。」

このあとも母親や妹も交えて妲己さんと話しをして、葛葉とは別れる方向で了解をしてもらえた。

でも、葛葉のあの様子だともうしばらくは別れるのには時間がかかるかもしれないな。


ちなみに、妖怪一家大集合しての謝罪は俺の必死の説得で失くなりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る