第24話

日曜の朝、ランニングウェアに着替えた俺は、水分補給のために、家族全員分のスポーツドリンクを用意した。


我が家は家族全員、スポーツが大好きなのだ。

親父は仕事帰りにジムで筋トレを日課にしており、妹は空手を部活だけでなく、近くの道場に通うまでハマっている。


母親はヨガやSUPなどといったその時に流行ったスポーツをやっていて、毎年いろんなスポーツをしている。


母親いわく

「私の収入は私の趣味と子供の笑顔と私の趣味のために使うのよ。」

「母さん、私の趣味が2回出てきたけど?」


誤植かな?


「大事なことだから、2回言ったのよ。」


誤植じゃないよ。本気だよ。

なんて俺たちには言っていたが、毎年、出会った日記念だとか、告白記念だとか、プロポーズ記念だとか、結婚記念だとかでお互いにプレゼントを送りあったり、デートしたりしているので仲はかなり良いのだ。


因みに、俺は中学の頃から陸上が好きで、最初の頃は、ハードルをやっていたが、中学の半ばくらいから中〜長距離に転向して、高校3年までやっていた。


そんなスポーツ大好きな一家だから、毎週末の土日のどちらかは家族でスポーツをすると決めていた。


俺が葛葉と付き合い始めた頃、父親が、

「週末いつも家族で運動していたら、おちおちデートもできんだろ。かと言って、身体を動かさなくなるのもなんだから、朝は家族と一緒に軽く運動をして、午後は葛葉ちゃんとデートでもしてこい!」


なんてことを言いだしたので、毎週末、朝に家族でランニングしたり、ジムに行って筋トレをするのが、我が家の日課になっている。


俺は振られて週末は自由になったけど、

急に予定を変えられないからな。

今日は朝からランニングでいいだろ。


そんなこんなで俺はこうして家族全員のスポーツドリンクを用意して、親父も母親も出てきて準備体操をしているのだが、なかなか妹が部屋から出てこないな。


俺は玄関まで戻り妹を呼ぶ。


「晴〜!調子でも悪いのか?」

「アニキ!ちょっと待ってよ!女の子は色々準備があるの!」

などと言って、スマホを片手に何かしている。


「スマホ、いじって何してんだ?」

「うん、ちょっと大事な連絡をね!」

妹がニシシって感じで笑う。


まぁいい。

俺たちが庭でストレッチと準備体操をした後、走り始めようとして、家から出ると、妹が

「今日は、コースはウチが決めるよ!」

と言って先導を始めた。


「晴がコースを決めるなんて珍しいな。」

親父が言うと、

「まぁ、たまにはいいんじゃない。」

と母親が言ったので、家族皆で晴の後を走る。

この道を行くとあいつの家の前を通るから嫌なんだけどな。


なんて思っていたのが、フラグだったのか、茨木家の前でぬっぺっぽうと毛羽毛現が並んで立っていた。


2妖怪して、家の前で何してんだろうな?

俺は、気にせずに行こうと思っていたのだけれど、先にいる晴が2人(?)に話しかけていたので、俺たちも足を止める。


「どうした?」

俺が話しかけると、晴が応える。


「アニキ、二人の格好を見たらわかるだろ〜!」

ニヤニヤしながら、晴が俺をつつくが、すまん。妹よ。お前の兄の目は、今はポンコツなんだよ。

目の前の2人(?)は肉の塊と毛の塊にしか見えないんだよ。


「あらあら、ランニングウェアなんて玉藻ちゃんにしては珍しいんじゃない?」

母親が言うと、

「そうだね~。玉藻は普段はあんまり運動しないもんな~。」

晴がニヤニヤしながらこっちを見る。


「2人とも走ろうとしていたのか?」


俺が毛羽毛現に聞くと、毛羽毛現が応えるより早く横にから、

「この初夏の爽やかな風に聞いているのならYES、しかし、私に聞いているのならYESよ!」

というふざけた答えが、風の精霊ではなく、目の前にいるぬっぺっぽう(肉の塊)から帰ってくる。


「そうか、気をつけてな。」

俺が走り去ろうとすると

妹がガッと俺の腕を掴んで動きを止める。

どうした?妹よ。


そこで毛羽毛現が、

「あの!私が遅いので申し訳ないのですが、皆で一緒に走りませんか?」


え〜。どうしたもんかな?

俺が両親や妹の顔を見ると、


「あらあら、ごめんなさいね。うちの恋愛ヘタレザコメンタルの息子が勝手に走り去ろうとしたから、女の子から言わせてしまったわ。」


うん?

恋愛ヘタレザコメンタル息子って俺のことかな?

俺の母親からの評価が悪すぎない?

親父や晴も頷いている。


「はっはっはっ!大丈夫です!忠明が恋愛ヘタレザコナメクジなのは身を持って知っていますから!」


うるせぇ。ナメクジとは言われてないだろ。

うん?

母親と妹は笑顔なんだが、雰囲気が怖くなったような気がするぞ。


おや?

茨木家のドアの隙間からイケメンだけど頼りなさそうな顔をしている紂さんと魔王(おっさん)の顔をした母親の妲己さんが覗いている。

妲己さんが

「これ以上、先輩を怒らせないで〜。」

と青い顔(魔王なんだけど)をして言っている。


「まぁ、皆で走ってもいいんじゃないか。未来の嫁とその姉と走るのも悪くないと思うぞ。」


親父がそう言うと、皆が頷いたが、

「はっはっは、お義父さん、私は玉藻と比較すると幼く見えると思いますが、私の方が姉ですからね!」


ぬっぺっぽう(肉の塊)が、やだな〜と言いながら、ポジティブな発言をする。


いや、あんまり会ったことのない親父でもどちらが姉かは知っているわ。

それにお前に振られたことも伝えているから。

しかも、お義父さんの言い方がなんかちがくないか?

母親や妹からさらに怒りのオーラが上がってそうだな。


茨木家の玄関から

「いや〜!もう止めて〜。」

という悲鳴と

「妲己さん倒れないで、僕一人じゃ部屋まで運べないよ〜。」

という声が聞こえた気がするが、気の所為だろう。


「まっ・・・まぁ、皆で走ろうか?」

親父が、母親と妹に気遣いながら促すと、


「はい!よろしくお願いします。」

と皆に言って、毛羽毛現が俺の横に来る。ぬっぺっぽうもその反対側にきて2妖怪で俺を挟む形になる。


「アニキは玉藻をサポートしてね。玉藻がキツそうだったら教えて、速度を遅くしたり、休憩をいれるから。」


「了解」

それからはハァハァいう毛羽毛現という珍しいものを見て、横にからぬっぺっぽうが、

「まだ腕は落ちていないようね。」

という、意味不明の強者アピールをしていたが、それなりに楽しく走れた。


母親がえらく頑張る玉藻を気に入ったのか、走り終わった時に、

「これからも一緒に走りましょうね!」


なんて言っていた。

ハァハァ言っている毛羽毛現は

「はい!」

と短く返事をしていた。


隣でぬっぺっぽうが

「はっはっはっ!これからも宜しくお願いします。お義母さん!」


と言っていたが、呼び方がおかしかったせいか、母親はぬっぺっぽうの方は見ていなかった気がする。

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