第25話

時は少し戻り、土曜日の夜

〜〜〜〜〜〜

玉藻(毛羽毛現)視点


おかしい。

おかしすぎる。

私の計画はカフェまでは完璧だったのよ。


カフェでは『あ〜ん』までしてくれたのに、店員さんなんてすごく優しい目をして見守ってくれたのに!


なんでカフェを出たら、姉さんと付き添いの脳筋参謀(渡辺綱子)が立っているのよ!


聞いたら忠明兄さんの家にも行っていたみたいじゃない。

お母さんにはあれほど、行くなと言われていたのにぃ!!


姉さんの直感力と押しの強さを甘くみたら、また忠明兄さんを獲られてしまうわ。


晴ちゃんから聞いたけど、明日は忠明兄さん達がスポーツをする日だよね。

確か、ランニングするって言っていた。

どうしようか?


私、運動は苦手だけど、忠明兄さんと付き合うなら少しは運動ができるようになっていたほうが良いよね。


日立お義母さんや、明お義父さんもスポーツ万能って言っていたし。


未来のお嫁さんも一緒にスポーツできたほうが良いよね!


よし!

晴ちゃんに連絡して、明日は上手く一緒にランニングできるようにしてもらおう。


直接、忠明兄さんの家に行くと重い女って思われるかもしれないから、私がランニングしようとしたら、偶々、一緒になったって感じが良いよね!


晴ちゃんに出発時間を教えてもらって、私の家の前を通るコースにしてもらえば良いよね。


よし!

晴ちゃんにお願いしよう。


〜〜〜〜〜〜

日曜の朝

玉藻(毛羽毛現)視点


私は姉さんに悟られないように、静かに準備をして、ランニングウェアに着替えた。


スポーツが大好きな一家だから、適当な服を着ていたら、

「こんな適当な格好で走るのか?」

なんて思われるかもしれないからちゃんとした格好にしておかないとね。


『玉ちゃん!今から出発するよ〜』


晴ちゃんから連絡をもらって、こっそり家の前に出ると、何故か、そこにはランニングウェア姿の姉さんがいる。


「お姉ちゃん、何で?」


姉は何故か凛々しい顔をして、

「爽やかな初夏の風に誘われたのよ。」

などと、言いながらウィンクをしてくる。


「貴女も走るの?珍しいわね。」

「まぁ、運動すると頭にも良いっていうから、運動しようかなって思ったの。」

「そうなの?じゃあ、私と一緒に走る?」


私はブンブンと首を横にふる。

「いや、お姉ちゃん、元陸上部じゃない、一緒になんか走られないよ!」


う〜!

早く行ってくれないかなぁ。

忠明兄さん達が来ちゃうじゃない!


「私は準備体操をしてから走るから、お姉ちゃん先に行ってよ。私、遅いから見られていると恥ずかしいからさ。」


すると、姉は私の手を、両手でガシッと持ち、

「何を言っているの!努力している貴女を笑う奴がいたら、私がそいつを殺す!良いこと?努力できるのは才能なの。頑張ることは恥ずかしいことじゃないのよ!」


うん。

姉はスポーツに関してはすごくまともな思考ができるのに、何で恋愛に関してはゲスな思考になるんだろう?


はっ!

こんなことをしている場合じゃない!

忠明兄さん達が来ちゃう!

早く走って行ってよ〜!


私の願いは、虚しく、晴ちゃんが家の前まで着いてしまった。


「あれ?何でゲ・・・じゃなくて、葛葉までいるの?」


晴ちゃんは忠明兄さんが姉に振られた時から姉を呼び捨てにするようになった。


「あれ?ひょっとしたら玉藻と晴ちゃんって、一緒に走ろうとしていたの?」


姉の問いかけに、私は応える。

「そういうわけじゃないけど。一緒になったら良いねっとは言っていたよ。」


そんなことを話していたら、忠明兄さん達も来ちゃった。


「どうした?」

忠明兄さんが話しかけてくれた〜。

今日も格好良いな〜。


「何だよ、アニキ、二人の格好を見たらわかるだろ〜!」


晴ちゃんがニヤニヤ笑いながら忠明兄さんをつついて教えてあげている。

良いな~。私もあんな関係になりたいな~。


「あらあら、ランニングウェアなんて玉藻ちゃんにしては珍しいんじゃない?」


お義母さんが私の格好を見て、フォローしてくれる。

「そうだね~。玉藻は普段はあんまり運動しないもんな~。」

晴ちゃんがニヤニヤしながら忠明兄さんを見る。


そうです〜!

忠明兄さんと一緒に走りたいから待っていたんです!


「2人とも走ろうとしていたのか?」

忠明兄さんが尋ねてくれる。


私が応えるよりも早く

「この初夏の爽やかな風に聞いているのならYES、しかし、私に聞いているのならYESよ!」

姉が馬鹿なことを言い放つ。


「そうか、気をつけてな。」

忠明兄さんが姉の馬鹿な応えに呆れたのか、走り去ろうとすると晴ちゃんがガッと忠明兄さんの腕を掴んで止めてくれた!


私は勇気を振り絞って、

「あの!私が遅いので申し訳ないのですが、皆で一緒に走りませんか?」


忠明兄さんはお義母さんや晴ちゃんの顔を見て確認をしているみたいだったけど、


「あらあら、うちの恋愛ヘタレザコメンタルの息子が勝手に走り去ろうとしたから、ごめんなさいね。女の子から言わせてしまったわ。」

お義母さんがまたフォローしてくれた。


「はっはっはっ!大丈夫です!忠明が恋愛ヘタレザコナメクジなのは身を持って知っていますから!」


そうしたら、姉がまた賀茂家の皆を怒らせるようなことを平気で言い放つ。


「まぁ、皆で走ってもいいんじゃないか。未来の嫁とその姉と走るのも悪くないと思うぞ。」


お義父さん!!

私を嫁と認めてくれるのですか!

ありがとうございます!!


「はっはっは、お義父さん、私は玉藻と比較すると幼く見えると思いますが、私の方が姉ですからね!」


何?

このポジティブシンキングモンスターは?

我が姉ながら怖くなってしまった。


「まっ・・・まぁ、皆で走ろうか?」

お義父さんが、気遣いながら促してくれた。


「はい!よろしくお願いします。」


私は賀茂家の皆に言って、忠明兄さんの横に行く。

未来の嫁として絶対に離れないんだから!

姉さんも反対側に行って、忠明兄さんを挟む形になる。


「アニキは玉藻をサポートしてね。玉藻がキツそうだったら教えて、速度を遅くしたり、休憩をいれるから。」


ありがとう。晴ちゃん!

私、頑張るから!


その誓いも虚しく私は、忠明兄さんと話す余裕もなくハァハァと息をするだけで精一杯だった。


「まだ腕は落ちていないようね。」

などと言いながら、姉さんは忠明兄さんと昔話をしている。


くっ!

負けないんだから!

だけど、私は忠明兄さんに付いていくのが精一杯だった。


走り終わった後に、お義母さんが

「これからも一緒に走りましょうね!」

と言ってくれたので、私は今できる一番元気な声で

「はい!」

と返事をした。


隣で姉が

「はっはっはっ!これからも宜しくお願いします。お義母さん!」

と言っていたが、お義母さんは私だけを見てくれていた気がする。


私、頑張ります!

姉さんなんかに負けませんから!

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