彼女を親友に奪われたけど、妖怪から解放されたみたいだから問題ありません。
鍛冶屋 優雨
第1話
「忠明は優しいだけの男だね。私とは相性が合わなかった。その点、酒田君は私の言う事を何でも聞いてくれるし、私を愛してくれているからね。」
俺の名前は賀茂忠明(かも ただあき)。
普段、彼女とよくデートしていたファミレスに、彼女から呼び出されたら、彼女の横には何故か親友が座っていて、俺は着席を促された後、彼女から別れ話を持ちかけられたところ、ふと気付くと目の前の彼女が「ぬっぺっぽう」になっていたところだ。
※ぬっぺっぽうまたはぬっぺふほふ
とは江戸時代の妖怪絵巻に描かれ、肉の塊(肉の塊には顔にも見える皺がついている)に短い手足が生えている妖怪だ。さっきスマホで調べた。
そしてそのぬっぺっぽうの横には俺の親友だった酒田兼太(さかたかねた)がおり、2人?(1人と1体か?)は恋人のように少し近い距離でファミレスの席に隣同士で座っている。
俺から見ると酒田がぬっぺっぽうに取り憑かれているようにしか見えないが、あれ?確か酒田って彼女いなかったっけ?
まぁ、酒田も彼女と別れたかもしれないし、ハーレム願望があって二股かけているかもしれないけど。
彼女をとられた俺の気にすることじゃない。
それはそうと目の前の妖怪だよ!
いや、「ぬっぺっぽう」はさっきまでは彼女の茨木葛葉(いばらきくずは)だった。
だが、葛葉から別れ話を持ちかけられたら、何故か葛葉が妖怪に見えるようになっていたんだ。
俺は別れ話よりも、目の前にいる妖怪が、元カノの声で話をしている不思議な現象に興味を惹かれ始めている。
ぬっぺっぽうに恐怖を抱いているかと言われるとSAN値チェックに成功したのか判らないが、多少は怖いが、そこまで恐怖を抱いているわけでは無い。
ぬっぺっぽうは見た目は白い肉の塊だからなぁ。見る人によってはコミカルな印象を与えるのかな?
でも、醜悪といえば醜悪だなぁ。
しかし、こいつはどうやって喋っているんだ?
「ちょっと!忠明!私の話を聞いているの?!何とか言いなさいよ!」
俺が何も答えないので、ショックで話を聞いていないと思われたのか。ぬっぺっぽうが怒っている。
「ちゃんと聞いているよ。酒田と付き合いたいから、別れて欲しいんだろ。結婚しているわけではないからあれだけど、先に俺と別れてから付き合い始めればいいのに。」
「賀茂、ホントにごめんな。お前とは親友だったのにこんなことになってしまって、でも、お前がこれからは、葛葉ちゃんと仲良くす・・・」
「良いよ。別れる。」
「へっ?」
「忠明!?私はちゃんと貴方と別れてから、酒田君と付き合おうと思っているから、まだ酒田君とは恋人関係ではないのよ!だからね。もう少し私と貴方の関係を考えてもらいたいの!」
俺が食い気味に了承をしたせいか、酒田は呆気に取られているし、ぬっぺっぽう(元、葛葉)は
何故かちょっと焦っておかしなことを言っている。
「だから、俺と別れたいんだろ?良いよ。別れるって。」
周りの人は葛葉がぬっぺっぽうに見えていないのかな?
少なくとも、酒田は美少女だった葛葉に見えているんだろうな。
今でも肉の塊に向かって普通に話をしているし。
いや、少なくとも俺の前では申し訳なさそうにしろよ。
まぁ、でも良いかな。
美少女の葛葉なら悔しいと思うけど、今のぬっぺっぽうだったら悔しくともなんともないから。
むしろ、俺、実は妖怪に取り憑かれていて、今、解放されたんだ!という喜びに満ち溢れている。
「話はそれだけ?じゃあ俺は帰るね。二人ともこれからお幸せに。」
「えっと忠明、もう少し考えても・・・」
「そうだぞ、賀茂、短慮は・・・」
1体(一匹?それとも1人?)と1人が何か言おうとしていたが、俺は悪霊退散とばかりにぬっぺっぽうを拝んでファミレスから出る。
いやぁ空がきれいだ!
彼女に振られたけど、妖怪からは解放された!
〜〜〜〜〜
「何でこうなるのよ!」
私は隣にいる酒田君を睨みつける。
酒田君は気まずそうに向かいの席に移動する。
「茨木さん、ごめん。俺が変な提案したせいでこんな事になって。」
私は恋人の忠明と別れたいわけではない。ただ忠明ともう少し恋人的なスキンシップを進めたかっただけ。
それを少しオブラードに包んで、女友だちの渡辺綱子(わたなべつなこ)に相談したら、少し嫉妬させたら良いかもとアドバイスを受けたので、綱子の彼氏で、忠明の友人でもある酒田君と付き合うふりをして嫉妬させようとしたけど、失敗してしまった。
どうしてこうなったの・・・。
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