第40話
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うー、寒いな。」
僕は高校2年の夏休みに、これまで貯めたバイト代で何とか普通自動二輪の免許を取得した。
するとバイク好きの両親や姉がとても喜び、父親が通勤で使っていたバイク(SUZUKI Swish)をもらうことができたのだ。
そのバイクに乗り、真冬の休日に片道1時間かけて、中学校時代の恩師、澤田先生に会いに来た。
まぁ、恩師と言っても、3年間ずっと担任だったから僕が個人的に恩師と思っているだけなのだが。
自分で言うのもなんだけど、澤田先生にとって、僕は記憶に残らない生徒だったろう。
成績は少し良かったかもしれないが、他の生徒とは話しをせず、触れ合わず、喧嘩もせずに、ただそこにいるだけの生徒だったはずだ。
僕も先生に担任以上の何かをされた記憶もない。
三者面談でも、彼の成績なら志望校に合格するでしょうと言われただけのような気がする。
澤田先生は僕の中学校在学中に、もういい歳をしたおじさんだったので、僕が卒業してしばらくしたら定年されて退職されたらしく、
最初は中学校に連絡しても、会うことはできなかった。
僕は中学校に直接行って、かつての恩師にどうしても会いたいのでと懇願したら、連絡先は教えてくれなかったけど、中学校側が澤田先生に連絡をとってくれて、僕の連絡先を伝えてもらったので、こうして会いにくることができたのだ。
僕は周りの風景を見て、バイクで来て良かったと思った。
公共交通機関を使ってきたら、とてつもない時間がかかったと思う。
僕は澤田先生が住んでいると思われる一軒家の前に行き、表札を確認する。
表札には確かに澤田と記載されており、僕は呼び鈴(インターホンではない)を鳴らす。
すると家の中から、
「はい。」
と短く返事がして、澤田先生が出てきた。
僕は記憶にある澤田先生を思い浮かべたが、あまり記憶に残っておらず、少し困惑したけど、とりあえず挨拶をして、頭を下げた。
すると、澤田先生は、
「黒木らしいな。お前、俺の顔をほとんど覚えていなかっただろう?」
そう言って、ニヤリと笑った。
僕は、何を言っても駄目だなと思い、正直に言うことにした。
「はい。すみません。正直に言うとそうです。だけど、澤田先生はもう少し、覇気があったと言うか、熱血先生っぽかった気がします。」
僕がそう話すと、澤田先生は頷き、
「確かにな、黒木を受け持った時はそうだったかもしれないな。だけど、今は違うかな。俺も丸くなったと言うか、今は塾の講師として働いていてな。そこで、中学生を教えているのだけど、中学校とは違ってな人間教育はあまり、需要がないんだ。どうやったら志望校に合格するか、一つでも公式や単語を覚えるかが重要視されるんだよ。もちろん、塾によっては違うかもしれないけど、俺が雇われた塾は如何に受講生を合格させるかが問われる塾何だよ。」
そう言って、澤田先生は疲れたように笑う。
「黒木こそどうしたんだ?お前は俺を恩師なんて言って会いに来るような奴じゃなかったろう?それにその服装、バイクに乗る時によく着る服装だろう?お前が高校生になったらバイクに乗るなんて思いもしなかったぞ。」
僕は、事の経緯を正直に言う、
「実は、僕は人の真似をしているのに過ぎないんです。」
そう言って、僕は学校の図書室で、廃部になった料理クラブ最後の部長が記した『合同レシピブック』を見つけ、最後のページに記された『廃部になるまでにしたい事』を追体験したくなったことを伝えた。
そこに記載されたやりたいことの中に、
「仲の良い友人とツーリングに行きたいのでバイクの免許をとる!」
とか、
「お世話になった先生に感謝を伝える。」
とかあったので、僕はここまでやってきたのだった。
それを聞いて、澤田先生は、大きく笑い、
「何だ、黒木はずいぶんと人間らしくなったな!あの人間嫌いだった黒木が人の書いたやりたい事を
やってみようと思うなんてな!良いんじゃないか、そうやって他人を認めて生きてみろ。そうすると人をもっと好きになれるぞ。」
その澤田先生の笑顔を見ると、僕はこのリストをやってみた価値はあるなと思った。
それから僕は澤田先生と話をして、帰宅することにした。
僕が別れの挨拶をすると澤田先生が最後に質問してきた。
「黒木、お前のやりたい事リストは残りはいくつでどんな事が残っているんだ?」
僕は、少し寂し気に笑い質問に答える。
「残りは一つなんですけど、なかなか難しいやつですよ。」
澤田先生は興味深そうに聞いてくる。
「どんなやつなんだ?」
僕は簡潔に答える。
「『片思いのあの人に思いを告げる』です」
澤田先生は気の毒そうに言葉をかけてくる。
「それはお気の毒に。」
僕は苦笑いをして、
「僕に片思いの人はいませんし、人を好きになるような性格ではないですからね。」
と自己分析結果を告げる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺はここまで映画を観てきたけど、やはり、ほとんど内容は頭に入らなかった。
それは毛羽毛現たと思っていた、玉藻ちゃんの触手の感触が人の手をしていたからだ。
俺は目を凝らしてみるけど、玉藻ちゃんの姿が毛羽毛現なのは変わらない。
俺たちは映画を最後まで観て、玉藻ちゃんと感想をしながら映画館の中を出口まで向かう。
「料理クラブの最後の部長が主人公のお姉さんと同級生だったおかけで、出会えて良かったですね。
やはり姉弟から紹介してもらったら安心して恋人として付きあえますよね。」
俺は頷き、
「あのバイクの免許を取るというのが伏線だったんだろうね。部長やりたい事リストのツーリングしたい仲の良い友人って主人公のお姉さんだったなんて気がつかなかったよ。」
そう言って、話をしている俺達の前にぬっぺっぽうの葛葉が立ちはだかる。
彼女を親友に奪われたけど、妖怪から解放されたみたいだから問題ありません。 鍛冶屋 優雨 @sasuke008
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。彼女を親友に奪われたけど、妖怪から解放されたみたいだから問題ありません。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます