第34話


「彼女さんの服を一緒に買いに来たんですか〜?仲が良いですね〜!」


店員さんにそう言われると毛羽毛現の玉藻ちゃんから嬉しそうな感じが伝わってきた。


うん。

毛羽毛現の表情は分からないけど何となく感情は分かるんだよなぁ。


さっきの毛羽毛現が持っていた服も、俺の記憶にある人間だった時の玉藻ちゃんに併せてみるととても似合っていると思ったから正直に似合うって言ったんだけどな。


そんなことを考えていると、後ろから凄い圧がかかってきた。


うん。

この圧は何となく分かるぞ。

妹の晴の圧だな。


俺が後ろを見ると、確かに妹の晴が俺を睨みつけている。

あの表情を見れば一目瞭然だな。


『玉ちゃんに似合っているって言ったんだから、早く買ってプレゼントせんかい!ウチの玉ちゃんを悲しませるようなことをすんなよ!』


多分、そんな感じだろうな。

もしプレゼントしないって選択肢を選んだら、俺の未来がないかもしれない・・・・。


俺は実の妹に殴られる恐怖をよりも、毛羽毛現にプレゼントをするという状況を選んだ。


「その服、玉藻ちゃんにとても良く似合って可愛いからプレゼントするよ。」


しかし、相手は毛羽毛現だけど、女性(一応)にプレゼントするのは久しぶりだな。

頭の中は、女性の服って何でこんなに高いんすかねって思っていたけどな。


葛葉と付き合っていた時は誕生日プレゼントを何回かあげた記憶がある。

バレンタインデーとホワイトデーのやり取りはお互い適当な感じだった記憶があるな。


俺は様々なことを考えながら毛羽毛現が、

「良いんですか!」

とか、

「この服は家宝に・・・。」


なんて呟いているのを微笑ましくみていたら、店員さんが


「一度、試着されてみませんか?

彼氏さんも見たいと思いませんか?」


なんて言ってきた。

俺は服を買う時は必ず試着する派なので、毛羽毛現(玉藻ちゃん)に尋ねる。

ぶっちゃけて言うと俺の目には毛むくじゃらにしか見えないので、試着しても分からないとは思うが。


「そうですね!一度試着してみます。忠明兄さんに一番に見てもらいたいし!」


俺達は一緒に試着室に向かう。

後ろからきていた妹の圧が穏やかななものになっていたので俺は正解を選んだらしいな。


そう思って、安心していたときもありました。

今度は別の方向からの妖気を感じてしまったのだ。


そう・・、俺は忘れていたんだ。

この場所に葛葉というモンスターがいたことを。


「どういうつもりかしら?ぽっと出の女があたしの忠明の彼女面しているなんて・・・。」


声が聴こえてきた方向を見るとぬっぺっぽうが短い手(の部分の肉塊)を器用に腕組みしているように見せながら歩いてきた。


えっと葛葉さん?

昼ドラかなんかの影響受けてません?


「何を言っているの?葛葉姉さん。あなたはもうすでに忠明兄さんに振られているんです!」


おお!毛羽毛現の毛が逆立っているよ。


「多分、振ったのは葛葉の方ですよ。玉藻さん?まぁふたりともここはお店の中だからさ。ケンカなんてダメだよ。」


あれ?

これ、ふたりとも俺の話は聞いてくれていない感じかな?


ぬっぺっぽうと毛羽毛現の距離がどんどん近くなり、顔をぶつけ合っているよ!


ほら、昔あった年末の格闘技のテレビ番組とかで、最初のインタビューのときとかに良くなるやつ、

あの甘い感じがまったくないゼロ距離のガンの飛ばし合いだよ。


「おい!2人とも止めなよ!」


俺がそう言うと、ぬっぺっぽうが


「あぁ!?アンタがこの女に服をプレゼントするなんて言うから悪いんでしょ!」


俺を非難すると、毛羽毛現が、


「恋人でもない姉さんに忠明兄さんがプレゼントするなんておかしいでしょう!」


と俺を庇ってくれる。

周りの人からは、


「修羅場だよ。」

「修羅場ね。」

「お母さん、あの人たち何しているの?」

「止めなさい!あれは今、修羅場っているから!」


なんて言われているし、目の前店員さんも、


「くう〜、この店で働いていてよかった〜!まさか目の前で修羅場を見られるなんて!」


おいおい、せめて店員さんは止めてよ!

いや、一番、止めなきゃいけないのは俺か?


俺はとりあえず、北◯百烈拳の撃ち合いのとか、オラオラ無駄無駄ラッシュのようになっている2人の間に入り、短い肉塊(手の部分)と髪の毛の触手をそれぞれ片手で止めて、


「ケンカは止めなよ。今日は晴の買い物のために来てくれたんだろ?玉藻ちゃんに服を買ったのもそれのお礼もあるからね。」


俺がそう言うと、葛葉は俺が掴んだ短い手を振りほどき、


「まぁ、今日は大目に見てあげる。私も今から義妹ちゃんを可愛くするのを手伝うからね。今度は私にも服をプレゼントしてね。」


葛葉はそう言うと、少し馴れ馴れしい態度で晴にくっつき、色々教え始めた。


「忠明兄さん、私も手を離して頂けると・・・、手を繋いでくれるのは嬉しいですけどね!」


俺は慌てて毛羽毛現の触手を離す。

おい!

晴、ニヤニヤすんな!

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