第5話


「お邪魔します。」

毛羽毛現はそうことわって、一瞬、2階への階段に向かいかけたが、(2階には俺や妹の部屋がある)慌ててリビングに向かう。


その様子を見ていたが、少なくとも、俺の目には、その毛玉は作り物ではなく、本物の髪の毛が動いているように見えた。


葛葉のぬっぺっぽうもそうだが、俺は見ているだけで、実際に妖怪になった時の2人の身体を触ってことはないので、見た目だけなのか身体的にも妖怪に変化しているのか分からない。

俺の目や脳が、姉妹を妖怪として見せているだけの可能性もある。

今のところ、茨木姉妹が妖怪に見えているのは俺だけなのだから。

毛羽毛現とはいえ、中身(?)は玉藻ちゃんであり、彼女とは家族ぐるみの付き合いがあるので、我が家には何回も来ていて、家の構造も把握しているので、案内するまでもなく、リビングにたどり着く。




「忠明兄さんには不愉快な思いをさせて申し訳ありません。」


リビングのソファーに座った毛羽毛現が、再度俺に謝ってきた。


「玉藻、さっき謝ってもらったから大丈夫だよ。なぁアニキ!」

「うん。そうなんだけど、なぜ晴が大丈夫って言ってんの?」


俺がそういって、軽く睨んでも、晴は全く気にしていない。


「でも、俺としては葛葉が酒田と付き合い始めたのはびっくりしたな。もちろん、俺を通じて、2人には面識があったけど、付き合うまで、仲が良くなっていたとは思っていなかった。」


俺がそう言うと、毛羽毛現の髪が少し立ち始めた。

これは怒っているということか?

もう少し怒ったら、怒髪天を衝くを体現してもらえるのかな?


「私もあの姉がこんな馬鹿なことをするとは考えもつきませんでした。」


毛羽毛現が頭部分を横に倒す。

考え事をするときは、頭を横に倒す癖でもあるのかな?


「なぁ。アニキ、酒田って先輩は剣道部だよな。確か、同じ剣道部に彼女がいたと思うけど、その彼女とは別れているのか?」


「う〜ん。そこは別れているとは思うけどね。剣道部の顧問や部長は、礼儀作法の習得や倫理感の育成にすごくこだわっていたからね。不誠実な事は許さないと思うよ。まぁ、部員一同に内緒していて、こっそり付き合っていたら、分からないだろうけどね。」


などと、話をしていたら、母親がリビングに顔を出してきた。


「もう夜になるわよ。女の子が夜遅くまで、外出していたら、紂さんや妲己ちゃんも心配するから、忠明、貴方は玉藻ちゃんを家に送って行きなさい。」


「ああ、そうだね。家まで送っていくよ。」


「忠明兄さん、わざわざすみません。ありがとうございます。」


毛羽毛現が頭をペコっと下げる。

まぁ、見慣れてくると愛嬌があっていいかもしれない。


我が母親には玉藻は妖怪「毛羽毛現」ではなく女の子に見えているのだから、いくら俺が葛葉に振られたとしても、年頃の女の子を夜に1人で外に出すわけにはいかないと思ったのだろう。


某アニメの歌では妖怪は夜には運動会だと思っていたが、現実には、大人しく帰宅するみたいだな。


ちなみに、紂さんとは葛葉と玉藻の父親で妲己さんは母親だ。


俺と毛羽毛現は茨木家までの道程を2人(1人と1体か?)で歩いていく。


月明かりに映る影も毛羽毛現のシルエットに見えるな。


俺の目や頭がおかしくなったのか、それとも、相手の本性がわかるようになったのか。



〜〜〜〜〜


私はファミレスで必死に考えた結果として、忠明を振ったこと(私としては振ったとは思ってはいないけど、酒田のやつが別れを了承されたと言い張るから)を私の家族、特に妹に知られる前に、忠明に謝って復縁することだ。


もちろん、酒田とは何もなく(実際に何もしていない。)忠明を嫉妬させるために協力してもらっただけと正直に話せば、忠明のことだ。納得してくれるだろう。



そう考え、夜道を歩いて家に向かう。本当は今から、忠明の家に行きたいが、夜中に押しかけるのも迷惑な話しだし、明日の朝にでも話をしたらいいと思っていた。


もう少しで家に着くところで、忠明と妹の玉藻が歩いてくるところを見てしまった。


まずい!!!

もうすでに忠明と玉藻が会っていたなんて!

忠明のことだ。

妹の玉藻にはファミレスで私に振られたと話したはずだ。


例え、忠明が振られたと話していなくても、あの悪魔のように知恵が回る妹のことだ。


忠明からファミレスでの状況を聞き出したはずだ。


私が忠明を嫉妬させようとして、彼の親友を使った事を最大限利用し、私が不誠実な事をしたことで復縁をさせないようにし、自分は忠明の彼女になるつもりだろう。


なんとかしなくては!

忠明と玉藻は私たちの家に入って行く。

私はその背中を見ながら、親指の爪を噛んだ。


何か良い案はないかな・・・。


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