第4話

目の前の毛玉というか毛むくじゃらが玉藻ちゃんの声で話しかけてくる。

俺の正気度ロールは成功したのか意外にも平静を装うことができているな。


「忠明兄さん、姉が馬鹿なことをして申し訳ありませんでした。」


毛玉がペコっと頭らしき部分を下げる。まぁ、目があるからそこが頭なんだろうなというのはなんとなくわかる。しかし、玉藻ちゃんの声だけど、見た目は毛に覆われた何かって感じだな。


「アニキ、何、キョドっているのかな?玉藻が可愛らしい格好をしているから照れているの?」


妹の晴が後ろから声をかけてくる。

どうやら、晴にはこの毛むくじゃらが、いつもどおりの玉藻ちゃんに見えているらしい。


可愛らしいって言葉を聞いて、毛むくじゃらが照れているのかクネクネ、モジモジしている。なんだろう。少し愛着感も出てくるかも・・・、いや、無い・・・、いや、ぬっぺっぽうよりは親しみが湧きやすいかな?


どうやら、この毛むくじゃらは毛羽毛現という妖怪らしい。

※毛羽毛現、希有希見もしくは希有希現とも表記される。江戸時代の絵師、鳥山石燕の「今昔百鬼拾遺」に描かれている妖怪だ。

身体中に毛が生えているという表現だが、絵を見る俺の印象では超長髪になった「スス◯タリ」(別名「まっくろ◯ろすけ」)という感じだ。(今、スマホで調べた。)


この姉妹は妖怪姉妹なのか?

しかし、妖怪としての姿は今のところ俺にしか見えていないもんな~。


「ほら、アニキもなんか言いなよ!」

うーん。可愛らしい格好と言われてもなぁ。毛むくじゃらにしか見えないしな。しかし。ここで変なことを言えば、晴に半殺しにされそうだしな。


「そうだね。服もそうだけど、艷やかな髪の毛がトテモキレイダネ。」


「アニキ。そのカタコトの喋り方、女の子を褒めた経験が少ないの丸わかりだよ。」


「大丈夫ですよ。ちゃんと褒めていただきありがとうございます。」

毛羽毛現(多分、玉藻ちゃん)がペコって感じで頭の部分を下げる。


「いや、葛葉のことは付き合っていたときはちゃんと褒めていたからね。」


妖怪の容姿や服装を褒めた経験が無いだけだから!

ふと、気付いたんだが、下げた頭部分にヘアピンらしきものが見える。

何か可愛らしいな。

俺がふっと笑ったのに気付いたのか、

「アニキ、何笑ってんの?」

「ヘアピンが何か可愛らしいなって思ったからね。」


俺の言葉に照れたのか、毛羽毛現がまたクネクネしだした。


「アニキ、玄関で立ち話もなんだから、リビングでも行こうよ。それとも、アニキの部屋で話する?」


〜〜〜〜〜


アニキが帰ってきて、あの女に振られたと言ってきたときには、驚いた。

ウチの家族は、全員、あの女と仲が良くて、向こうの家族ぐるみで付き合っていたから、とてもアニキを捨てて、アニキの親友とくっつくなんて思ってもいなかった。


話を聞いたときにはあの女をどうやって叩きのめすかを考えていたけど、とりあえず、理由や経緯を確かめようとあの女の妹である玉藻に連絡をとってみた。


そうしたら、玉藻も経緯は知らないが、馬鹿な姉のしたことをアニキ本人に謝りたいと言ってきたので、とりあえずアニキには伝えた。


まぁ、玉藻は昔からアニキのことを憎からず思っていて、中学の頃からアニキのことを意識していたみたいだから。


まぁ、アニキも鈍感だし、全く気付いていなかったから。でも、あの女と付き合いだしたのは、当時はびっくりしたな。


今は、あの女をぶちのめしたいけど、玉藻や向こうの両親は良い人なので、とりあえず、暴力は止めよう。



あの女の家族と付き合うのはアニキのトラウマになるのかな?

でも、玉藻と会うことは拒否しなかったからな~。


今回は実際に玉藻に会うときにはウチも近くにいて、サポートしよう。

それでアニキが嫌そうなければ、玉藻を応援しようかなと思っていた。


アニキが昼寝(それとも不貞寝かな?)していたのを起こして、玉藻に会わせると、普段よりも可愛らしい姿にびっくりしたのか、キョドり始めたから、ヤバイと思って思っていたよりも早くサポートに入ってしまった。


全く、今でも可愛らしい玉藻を玄関に立たせたままだしね。まぁ、玉藻はアニキに褒められてクネクネしていて喜んでいるけどね。

仕方ない。不甲斐ないアニキを助けてやるか!


「アニキ、玄関で立ち話もなんだから、リビングでも行こうよ。それとも、アニキの部屋で話する?」


アニキの部屋で言っただけで、玉藻も慌てはじめたけど、アニキも


「俺はよう・・か」


なんてつぶやいて焦りだした。

さっき今日は用事はないって言っていたのにな〜。

まったく、恥ずかしがり屋だな。

奥手のアニキだと、話は進まないし、アニキも葛葉の件があるから、トラウマになっているかもしれないから、このやさしい妹が助けながらゆっくり玉藻と話しでもさせてみようかな。

「何、てれてんの!さっきもう用はないって言っていただろ。ほら、玉藻もいつまでもクネクネしてないで入ってきなよ。」

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