第35話

「はい!では、今日も2人ペアで講義を受けてもらうぞ。」


講義で2人ペアを組まされるなんて、まるで小学生の授業みたいだが、俺は今、大学で心理学の講義を受講中だ。


今期の心理学関係の講義では最近の世相を反映してか、講義のほとんどが、カウンセリング関係に特化していた。



今回は心理カウンセリングの基本である傾聴技法を学ぶということなので、2人ペアでお互いが相談者とカウンセラーと言った形で話し合うという形にしているらしい。


あくまで大学での講義ということもあり、相談者役は重たい話はしない約束で、創作した話でも良いとのことだ。



まぁ、大学で2人ペアを組むという事は、俺の横には当然のようにぬっぺっぽうがいるわけなのだが、


「なぁ、葛葉さん、相談事はなんかは同性にした方が良いこともあると思うんだ。だから、たまにはペアを変えてみるのも良いかもしれないぞ。」


ぬっぺっぽうはジロリとコチラを見た(感じがした。)


「葛葉『さん』?何故、さん付けなのかしら、貴方が、私を焦らすために彼氏じゃないふりをするのは百歩譲っても分からないけど、普段、2人でベッドの中にいるときのように『葛葉』って呼んで良いのよ。」


百歩譲っても分からないんかい!

いや、それよりも、


「ありもしない状況を言うのは止めてくれないかな?!1回もないよな。ベッドの中に2人でいたことなんて!」


ぬっぺっぽうがニヤニヤ(多分)して応える。


「あらあら、皆の前だからって恥ずかしがらなくて良いのよ。貴方は私を抱き枕にしないと寝られないでしょ。」


周りの女子が、イヤ〜とかうわ〜、爛れた関係とか言っている・・・。


確かにぬっぺっぽうは抱き枕にしやすそうだけど、


「俺はお前を抱き枕にしたことはないだろ。」


ぬっぺっぽうは平然(見た目では分からない)と、


「貴方は寝相が悪いからね。昔はよく私に抱きついてきていたわ。」


「昔はって。それ、かなり昔のことじゃないか?」


「そうね。幼稚園の頃とかね。」


ぬっぺっぽうの表情は分からず、淡々としている。


「あら?何、その顔は?女の子に一方的に抱きついておきながら、過去のことだから時効にしろって言いたいのかしら?私の初恋を奪ったのだから、責任は取ってよね。」


幼稚園の頃の俺、お前のおかげで俺はサイコパスなぬっぺっぽうに迫られているぞ。

ヤンデレが好きな人で、相手がぬっぺっぽうの外見でも良いって人がいたら変わってもらいたい。


こんなやり取りを、ほぼ毎回しているので、講師の中では俺と葛葉はセットになっているらしく、


「加茂と茨木、お前達の仲が良いのは分かったから、静かにして、まず、説明を聞いてくれ。」


なんて言って、淡々と講義を進める。


心理学の講義が終わり、昼食の時間になり、学食に向かって歩く俺の横では、相変わらずぬっぺっぽうがペタペタという感じで歩いていて、その横には酒田の彼女の渡辺さんが歩いている。


おかしい。酒田の奴が、葛葉を奪っていって、俺はこの妖怪から解放されたはずだが・・・、何故こうなっている。


酒田の奴は遠くからサムズアップしているし、酒田の彼女である渡辺さんは、


「やったね!葛葉ちゃん!加茂君と両想いだね!」


なんて、こちらに聞こえるように的外れな事を話しているし。


どうやら、俺は自分で思っているよりは繊細だったらしい。


葛葉を奪っていったはずの酒田がが何故かこちらを見てサムズアップしているのを見ると、お前は何がしたかったんだと言いたくなる。


渡辺さんに背中を押されたぬっぺっぽうがこちらに手と思われる短い肉塊を出してきた。


多分、手を繋ごうということなのだろうが、そこには男女の甘い恋心などは感じる事はできない。

というより、妖怪に手を向けられていることの恐怖しか感じられないぞ。


俺が無視をしていると、ぬっぺっぽうの表情は分からないけど、早くしろという強い意志と、渡辺さんからの、何しているのこのヘタレはという無言の圧力を感じられて、俺は仕方なく短い肉塊を握る。


そこには、ぬちゃっとした感覚と何ともいえない体温(肉温か?)を感じられて正直かなりの精神的ダメージを受けているのだが、ぬっぺっぽうからは、ふんふんと鼻歌が聞こえてきたから、どうやら正解だったらしい。

後、渡辺さんのキャーという悲鳴のような歓声が俺の心を蝕んでいく。


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