第13話
「賀茂君、貴方は間違っているわ。真実は・・・」
綱子が忠明の様子をみて埒があかないと思ったのだろう。忠明を呼び止めて真実を話そうとするが、彼は聞く気がないのかそのまま歩いて行く。
酒田と綱子の入れ知恵でこんなことになってしまった。
なんて考えて俯いていると、忠明は足を止めていて、綱子のことを見ていた。そして彼女に向かって、
「真実は一つなんて、高校生の頭脳を持った小学生探偵みたいなことを言いたいのか?」
などと問い返した。
そして忠明は一つため息をつき、さらに言葉を告げる。
「あなたにとって真実は一つかもしれないけど、俺は事実なんてものは、人や立場によって複数あるって考え方でね。例えば、戦争だってそうだろ?侵略された方が善で侵略した方は悪か?でも、侵略した方にも言い分があって、自分たちを守るための聖戦だって言ていたら何が真実なんだ?他にもシュレーディンガーの猫って知っているか?あれってさ。めちゃくちゃ簡単に言うと箱の中の猫が生きているか、死んでいるかっていうどちらか分からない状況の時、観測者が箱のフタを開けて観測することで、猫が生きているもしくは死んでいるという事実が固定されるってことなんだけどね。俺が、あの時にファミレスで見た印象は2人が付き合っているようにしか見えなかったよ。」
忠明はそう言い残し学食を出て行った。
〜〜〜〜〜
「俺があの時にファミレスで見た印象で2人が付き合っているようにしか見えなかったよ。」
俺は続けて、あの時から俺には葛葉が妖怪ぬっぺっぽうにしか見えないけどな。そう言いかかってが、喉まで出かかったその言葉をのみんだ。
そして俺は黙って振り返って次の講義がある教場に向かった。
〜〜〜〜〜
私は立ち去る賀茂くんの背中を見ながら少し考える。
彼はどうして葛葉のことを嫌いになってしまったのだろう。もちろん、私や兼太の意見を受けて葛葉がやったことが大きな原因なのはわかる。
でも、一般的に男性の恋愛観は「名前をつけて保存」って言われているからね。
これは男性は過去に付き合っていた彼女との思い出は、捨てられずにズルズルと引きずるっていうから、賀茂くんも葛葉に捨てられないように必死になると思ったのに。
でも、彼はあっさりと葛葉とは縁を切った。
あのファミレスの時に別の席に座って彼らの様子を見ていた。そして、私は賀茂君が葛葉に振られたときに出ていき、
「兼太くんは葛葉の彼氏ではなくて私の彼氏だから安心してね。」
なんて言って、ドッキリだったことを告げ、
賀茂くんには葛葉を引き留めておきたいなら、もっと恋人的な関係になりなよと諭そうとしていた。
しかし、葛葉が別れを賀茂くんに告げた時、あの時から賀茂くんが葛葉をみる目はまるで化け物をみるような目に変わったと思った。
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