第38話
俺は次の休みの日に玉藻ちゃんと駅前で待ち合わせをして映画館に向かうことにした。
俺達の住んでいる街には、近場に映画館といえば、ショッピングモールに併設された映画館があり、俺自身はただ便利だなと思うだけだが、ショッピングモールに併設しているため、周囲に秘密にしているカップルにとっては知り合いに会いやすいのが、玉に瑕だろう。
玉藻ちゃんは俺みたいな歳上と付き合って良いのか?
俺は玉藻ちゃんと会う前日、やはり、玉藻ちゃんと付き合うのは高校生の同級生とかの方が良いのではないのだろうか?と思って、妹の晴に歳上と付き合うのは女子高生としてはどうなんだと聞いてみたら、
「歳が離れ過ぎたら犯罪になるからあれだけど、大学1年と高校2年でしょ。誤差の範囲内だよね。大体、男は若い女が好きなんだろ。アニキもいい加減、腹括れよな。」
俺は晴の言葉に少し引いて、
「いや、晴、お前はっきり言い過ぎだろ。大体、俺は葛葉に振られたばかりだ。それをいきなり妹の玉藻ちゃんと付き合うのは、どうなんだって思われるだろうが。」
晴は呆れた顔をして、
「全世界の人からすると、アニキの昔の彼女なんて知らないに等しいでしょ。知っているのはアニキと葛葉とその友人・家族のウチらだけだよね。で、あのクズがアニキを振ったんだから、玉ちゃんとアニキが良ければそれでいいんじゃない?玉ちゃんのパパとママは気にしてなさそうだしね。なんかあったら、母さんが出たら、向こうのママは何も言えないでしょ。親公認で付き合ったのに勝手に好きな人が出来たからってアニキを振るなんて。」
まぁ、俺は振られたと思っているが、葛葉の中では俺を振ったことは無かったことになっているみたいだけどね。
「それはそうと、アニキ!明日は玉ちゃんと会うんだろ!ウチもだいぶ、ファッションに詳しくなって、玉ちゃんの好みも聞いているからね。明日の服はウチがコーディネートするからね!」
俺は晴の言葉に励まされ、明日の映画デートは玉藻ちゃんを楽しませるとともに俺自身も楽しもう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そう思っていた時期もあったよ。
あの時の自分を殴ってやりたい。
俺は土曜日の10時に玉藻ちゃんと駅前で待ち合わせをしていたので、少し早めに駅前に到着して玉藻ちゃんを待っていた。
家に迎えに行くのはどうだと晴に聞いたら、晴、曰く、
「愚かなのはクズと付き合ったことだけにしておきなよ。デートは待ち合わせが王道なの!家デートとか家に迎えに行くのはもう少し仲良くなってから!大体、クズが家にいたらどうすんのさ!」
俺は晴の言葉に素直に謝って、駅前で待ち合わせにすることにした。
そう、そこまでは良かったのだ。
玉藻ちゃんが毛羽毛現なのも我慢できる。
毛羽毛現はよくみたら可愛い部類に入ると思う(多分、きっと、もしかしたら)。
「忠明兄さんお待たせしました!」
「いや!俺も今来たところ、全然待っていないよ。」
テンプレのような台詞だけど、実際に今来たところだからな。
俺は頭に叩き込まれた晴の鉄則その1、
「会ったら今来た。そして服を褒める。」
を実行するために、毛羽毛現を見る、やはり毛むくじゃらなので、選んだ服は分からないけど、
「その服、玉藻ちゃんによく似合っているね。可愛らしいよ。」
俺は事前に晴から聞いていた玉藻ちゃんのコーディネートを頭に思い浮かべて、毛羽毛現に向かって声をかける。
毛羽毛現の頭の毛がピコピコ動いているので、喜んでくれているのだろう。
俺は毛羽毛現の様子に今回の映画デートの成功を感じたけど、玉藻ちゃんの30メートル後方に肉の塊を発見した時にこの映画デートが波瀾万丈なものになることを予想した。
アイツは隠れているつもりなのだろうけど、人の目は異質なものには敏感なので、駅前の群衆の中にいる動く肉の塊に、俺は直ぐに気づいてしまった。
やはり、待ち合わせ場所を変えても、玉藻ちゃんがオシャレな服に着替えていたら、いくら葛葉でもデートだって気づいてついてくるぐらいはするよな。
まぁ、葛葉は俺の姿を見ても声をかけてくるつもりはないみたいだ。
俺は昨日、誓った玉藻ちゃんを楽しませることに集中しようと思い、俺史上一番の勇気を出し、
「さあ、映画館に行こうか!」
と言ってさりげなく(俺にとってはさりげないが周囲からみたらとてもぎこちなくだろう)手を玉藻ちゃんに向かって出した。
「はい!」
毛羽毛現は嬉しそうな声を出して俺の手を髪の触手で掴んだ。
こうして、俺と毛羽毛現(おまけのぬっぺっぽう)との映画デートは始まったのである。
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