第7話

私は忠明と妹の二人が玄関に入るのを見届けたあとも、しばらくの間、家に入らず待っていた。


やはり、忠明に素直に謝るべきだろうか?

忠明の事だから素直に謝れば許してくれると思うけど、今までと同じ関係ではいられないかもしれない。


なんか私を見る目が変わったんだよね。

偽の彼氏とはいえ、別の男を出したのは間違いだったかもしれない。


妹は忠明を引き止めるかもしれないが、こんな時間だし、忠明は私と顔を合わせるのは嫌がると思うから、玄関までで家に帰るだろう。

忠明が帰ってしまっては、謝るチャンスを逃すので、家に入らないと。


「ただいま〜」


私は平静を装い家に入る。


「お姉ちゃん、帰ってきたの?」


妹の少し苛ついた声が私を迎え入れる。忠明はいるのは分かっていたけど、知らない振りをする。


「家だもの。当たり前じゃない。あら、忠明来ていたの?もしかして、私と酒田くんの関係を勘違いして、振られたと思ったのを謝りにきたのかな?」


しまった!これでは忠明が悪いみたいだ。ごめんね。忠明は悪くないの。だけど、私は今まで忠明に強気に出ていたから、弱味を見せることができないし、玉藻がいるから素直になれないだけだ。

ふたりきりになれば素直に謝ることができる。


「えっ?勘違いも何も葛葉自身が、酒田が葛葉を愛しているって言っていたよね?ファミレスでも恋人みたいにくっついていたし。」


そうだね。私はそんなことを言っていたし、ホントは酒田にくっつくのも嫌なのに、忠明を嫉妬させるためだけにベッタリとくっついていた。


「ああ、あれ?あんな事を気にしていたの?あれは忠明を嫉妬させようと思ってやっただけだよ~。酒田君には綱子って彼女もいるし、綱子は私の親友なんだから、親友の彼氏を取るわけないじゃん。バカだな~、忠明は。」


ホントにバカなのは私だ。

嫉妬させるためだけに忠明を悲しませ、今も素直に謝れずに大きな態度でいる。


私の言葉を聞いて、玉藻が怒るのを手に取るようにわかる。


「何を言っているのかな?この馬鹿な姉は?忠明兄さん、ごめんなさい。こんなバカに付き合ってもらって。」


「姉に対してバカとは何よ!」


私も自分の失敗を認めたくないから大声を出す。


「いや、例え誤解でも、俺は葛葉とは憑き合えないから!」


私が玉藻に詰め寄った隙に忠明が私が最も恐れる言葉を言いながら、横をすり抜ける。


「あっ!忠明待ちなさい!」


私は忠明を捕まえようとするが、玉藻が後ろから私の邪魔をする。


「行かせるかぁ!」


くっ!私もそんなに運動能力は悪くはないけど、玉藻は私の上をいく。

おかげで忠明を逃がしてしまった。


「あなたのせいで、忠明に謝れなかったじゃない!」


「何言っているの!あんなこと言って、絶対に謝る気なかったよね!」


「そんなことない!私はもう少ししたら謝れていたんだ!貴女がいたから、忠明に謝れなかったんだ!」


もう、そう思うしかない。私は忠明と二人きりになれば素直に謝れるんだ!

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