第20話『ぼっち』
拝啓。
ヴェザール父様にリーズロット母様。
そちらはお元気でしょうか?
二人とも、僕が居ないからっていつも以上にラブラブしてないでしょうか?
たまに僕は父さんと母さんはイチャイチャしたいが為に僕をこの学校に飛ばしたんじゃないかなと疑ってしまっています。
そんな事、ないよね?
僕が邪魔だから家から追い出したとか。
そんな事、ないよね?
――――――さて。
こちらはなんとかヴェスタリカ騎士養成学校へと入学できました。
サイロス校長が色々と手を回してくれたおかげで編入出来て。
そうして編入したその日にクラスの皆から批難されたりある生徒に決闘を申し込まれたりと少しだけトラブルはありましたが、それでも何とかやっていっています。
ただ、何も問題が無いわけでもなく――
「――おい、来たぞインチキ野郎が」
「平民のインチキ野郎が……。あれだけの事をしてよく今日も来れたな」
「なんて面の皮の厚いこと。親の顔が見てみたいですわ」
編入した日の翌日。
見事に俺はクラスの皆から仲間外れにされていた。
確か決闘に勝ったら僕をこのクラスの一員として受け入れてくれるという話だったはずなのだけど。
どうやらあの話はいつの間にか無かったことにされたらしい。
解せぬ。
「しかし、まさかインチキ呼ばわりされるとはね……」
事の発端はもちろん昨日の決闘だ。
昨日の決闘の一部始終。
それをこのクラスの皆は見ていたのだそうだ。
なのに、どうして僕がインチキ呼ばわりされているのか。
理由は簡単である。
どうやらみんな、僕の動きをきちんと捉えられず、ほとんど見えてなかったそうなんだよね。
皆の目には僕の姿はほぼ見えず、ただ消えたり高速移動したり、時には色んな場所にいきなり現れたりする僕の姿を追ったりで精一杯だったらしい。
そんな決闘での僕の姿を見て、みんなはこんな結論を出したのだそうだ。
僕ことビストロは使用を禁じられているアーティファクトを決闘で使用した。
肉体強化や透明化、果ては転移のアーティファクトを使い、それで隠れたりしながらジルト君との決闘に勝利したのだろう……と。
そんな馬鹿なって話である。
僕はただクイックを使って素早く動いていただけ。
それだけなのにその……アーティファクト?
そんな訳の分からん物のせいにされるだなんて心外である。
(もっとも、それも仕方ない事なのかな。みんな、まだひよっこなんだろうしね)
僕の
考えてみればここにいるみんなは騎士となるべく、この学校へ学びに来た人たち。
言ってしまえばみんな、まだひよっこなのだ。
そんなひよっこ達に元騎士の父さんの元で修行した僕の速度特化の動きが捉えられないのは、考えてみれば当然の話なのかもしれない。
(それに、リーズロット母さんも言ってたもんね。『人間は自分が信じたい物こそを信じる傾向にある』って)
ひよっこのみんなにとって、同年代の僕が凄い速度で動いている光景はさぞや衝撃的なものだったのだろう。
そして、きっとみんなこう思ったはずだ。
自分と同年代の子にこんな事が出来るはずがない……ってね。
だからこそ、アーティファクトとかいう物で僕がインチキしているという話が出てきて、みんなそれを信じたのだろう。
なぜなら、そっちの方がまだ納得できるから。
(そう考えたら全然許せるよね。なにせみんな、ひよっこなんだもん)
元騎士である父さんの元で修行した僕はさすがにひよっことは呼べない存在だろう。
そんな僕がまだ修行を始める段階であるこの学校のひよっこ達を許してやれなくてどうするって言うんだ。
(誰だってみんな、最初はひよっこなんだ。きっと、これからみんなはこの学校で地獄のような訓練を行う事で騎士として成長していくんだろう。一足先のステージに行ってる僕はみんなの事を見守るような。そんなスタンスでいることにしよう)
これから先、この学校で行われるであろう地獄のような訓練。
その訓練中、音を上げてしまう子だってきっといる事だろう。
そんな未来が待ち受けているひよっこたちの事を許してやれないなんて、そんな度量の狭い男に僕はなりたくない。
なにより――
(だって、そんなの格好悪いからね!!)
という訳で。
僕はひよっこ(クラスメイト)達が僕について何をどう言おうと、基本的に許す事に決めたのだった。
(――とはいえ、僕がこのクラスでインチキ野郎と除け者にされてる事実は何も変わらない訳で……。どうしたもんかな、これ)
リーズロット母さんからは「他者と触れ合いなさい。そして信頼できる友人を得なさい」って言われてるんだけど、これじゃあちょっと無理そうだ。
ごめんよ、リーズロット母さん。
友達……ちょっと出来そうにないかもしれない。
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