第29話『選ばれし者(ジルト視点)』
ジルト・スタンホープ視点
(クソッ!! どうなっている! なぜこのような事になっているのだ!?)
ダンジョン探索授業。
授業の度に毎回ダンジョンの内部が変化するこの授業だが、私にとっては慣れたもの。
襲い掛かってくる魔物のレベルもたかがしれており、倒す事など造作もない。
そのハズなのに――
「ジルト様……。そのぅ……この道は先ほども通ったような……」
「うるっせぇぞガマガエルっ! ジルト様に向かってなんて口を聞いてやがる!!」
「ひっ。も、申し訳ありません!」
パーティーメンバーがなにやらうるさいが、地図を読む私は今それどころではない。
私を含むクラスの成績上位者で固めた五人パーティー。
足手まといのクロネも抜けたこのパーティーならば、あっという間にダンジョン最奥までたどり着けるに違いない。
そう思っていたのに……私たちはもはや自分たちがダンジョンのどの位置に居るのかも分からなくなってしまっていた。
それに加え――
「ぐぉうっ。ぐるるるるるるるるるぅっ」
「ばぁうっ!!」
もう何度目になるか分からない魔獣による奇襲。
獣であるそいつらは多少の疲れを見せている私のパーティーメンバーへとその牙を突き立てていた。
「ぎっ。痛っ……。おい何をやってるんだよぉ盾ぇ!! ――氷結に誘われるは汝の……」
「ぐぁっ。こんの……雑魚の分際でぇっ!
魔物の奇襲を受け、しかしすぐに撃退し、魔物の首にかけられた首輪を回収する私のパーティーメンバー達。
その戦いぶりは見事なものだったが、奇襲により累積していくダメージはそろそろ見過ごせぬ物になっていた。
(ちぃっ。この程度の魔獣の奇襲、クロネが居れば全員無傷で切り抜けられるというのに……)
今までダンジョン探索授業で誰も傷など負わなかった為、回復アイテムなど一つも持ってきていない。
同様に、回復魔術を扱える者もここには居ないため、傷を癒す手段が現状では何もない。
(クソ……)
クロネ。
ただ盾としての役割しかこなせない
奴が居ないというだけでなぜこうも上手くいかなくなるのか。
そもそも、奴が居ればこのようなダンジョン、もう最奥まで着いているはずで――
(いや。何を考えているのだ私は。あんな奴に価値などある訳がない。これはおそらく……そうだ! 単純に授業の難易度が上がっただけに違いない。奴の有無など関係あるはずがないのだから)
そうでなければこのような難解な地図などあり得ないし。
私が厳選した優秀なパーティーメンバーが魔物ごときに傷を負わされる訳がないのだから。
「落ち着け、貴様ら。我らは貴族。選ばれし者だぞ。どのような状況でも常に余裕を持って行動せよ」
そのように私は自身のパーティーメンバーへと告げる。
そう。私たちは貴族だ。
選ばれし我らは何事にも動じず、常に高い水準で成果をあげなければならない。
それが出来るほどに優秀であるからこそ、我らは思うままにふるまえる。
そう。だからこそ……我らは自身の思うままに他者を踏みにじる事が出来るのだ!!
「何も問題はない。次はこっちだ」
ダンジョン内に潜ってからもうある程度の時間が経過している。
おそらく、相当奥まで来ているだろう。
となると……おそらく我らが今居る位置は地図上のダンジョン最奥付近にあるこの広間のはず。
そうして私の先導の元、ダンジョン最奥までの道を歩もうとすると。
ザッザッザッザッザッザッ――
何者かの走る音が聞こえてきた。
「――全員、止まれ」
おそらく他のパーティーだろう。
ちょうどいい。
全員ひねりつぶし、現在地の情報や回復アイテムなど全て奪ってやる。
運がいい事に、音はこちらに近づいてきている。
(ククククク)
やはりと言うべきか、私はツいている。
天に愛されているとでも言うべきかな?
そうして私たちは獲物がその姿を見せるのをジッと待ち――
「はぁ……はぁ……もうすぐ……。――えっ!?」
「む?」
出てきたのは想定した他のパーティーなどではなく。
私が憎きビストロの元へと送り出したクロネだった――
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