第17話『道化はどっち?』
「ふんっ。よろしくだと? ふざけたことを。誰が貴様など認めるものか」
僕の自己紹介に対し反発するかのように。
そう言いながら立ち上がったのは一人の男子生徒だった。
金髪でそこそこイケメン風な男子生徒。
彼は僕の事を小ばかにしたような目で見て。
「さすがは異国から来た蛮族とでも言うべきか。騎士を目指す我らの前で騎士などどうでもいいと評するとはな。冗談にしても笑えん。貴様、我らを馬鹿にしているのか?」
「え? いや、そんなことは……」
「ないと? まぁいい。ともかく、私は貴様を認めん。このクラスに居る他の皆もそうだ? なぁ、そうだろうみんな?」
金髪イケメン君がそうクラスに呼びかける。
すると何という事でしょう。
男子生徒も女子生徒もみんな「そうだそうだ!」とか「出ていけ!」とか言ってくるじゃありませんか。
うーん、嫌われたものだね。
「クク……これで分かっただろう? これこそが我がクラスの総意。皆、貴様をクラスの一員として受け入れたくないのだそうだ」
「みたいだね」
いやー、本当に嫌われたもんだ。
もっとも、これは僕が悪いね。
僕だって自分の夢をどうでもいいとか言われたりしたらイラって来るし。
なので、今回は素直に謝罪しよう。
僕は頭を下げた。
「ごめんなさい」
だけど、金髪イケメン君はそれで止まってくれなかった。
「足りないな。貴様は自らの失言によって自分がどのような目に遭うか、もっと理解すべきだ」
「自分の失言で僕がどんな目に遭うか……」
……はて?
いったいどんな目に遭うんだろう?
やっぱり校舎裏に連れていかれ、殴られたりするんだろうか?
なんて事を僕が考えている間も金髪イケメン君の劇場は続いていて。
「とはいえ、私は慈悲深い。ゆえに、貴様にチャンスをやろうではないか」
「チャンス?」
「ああ。この私と一対一で正々堂々決闘しろ。それで仮に貴様が勝てば私は貴様をこのクラスの一員として認めてやろうじゃあないか」
まるでお芝居のように、僕に指を突き付けながら堂々とそう言い放つ金髪イケメン君。
だけど……ふむ。決闘か。
なるほど、さすがは騎士学校というべきだね。
決闘の勝敗で色々と決めるところとか、なんとなくそれっぽい。
こういうのが日常的に行われているんだろうか?
などと思っていると。
「いかんっ! やめたまえジルト君!! こんな事で決闘など君は何を考えているのだね!?」
声を荒げて止めに入るサイロス校長。
あぁ、決闘って日常的に行われてる訳じゃないんだね。
毎日のパンの取り合いのついでに決闘でもしてるようなノリなのかと思ったんだけど、そういう訳でもないらしい。
「止めないで頂きたいサイロス校長。まったく……あなたには失望しましたよ。まさかあなたともあろうお方が自身の為に権力を不当に行使するなどとはね」
「権力だと?」
「そこの彼の事ですよ」
そうして金髪イケメンことジルト君は僕の事を指さした。
って……え? 僕?
「サイロス校長。あなたが最近、各所に働きかけて彼を無理やり編入させようと動いていたことは知っています。そのような事をしてあなたにどのようなメリットが生まれるのかまでは分かりませんでしたが……要するに彼の編入はあなたの力あってのものなのでしょう?」
「………………」
何も言わないサイロス校長。
けど、なんとなく図星を突かれてしまって、だからこそ反応してしまわないようにとあえて何も言わないでいるんだろうなと。僕はそう感じた。
「答えませんか……。まぁいい。おい貴様。確かビストロと言ったな。もし貴様がこの私に勝てば私たちは貴様をこのクラスの一員として認めようじゃないか」
さっきと同じ言葉を繰り返すジルト君。
このジルト君との決闘を受け、勝てば僕は認められるらしい。
「そして貴様が私に負けた場合だが……そうだな。貴様には一か月の間、この私の奴隷となってもらおうか。どうやら貴様という存在はサイロス校長の弱みに繋がっているらしいからな。手元に置いておくのも悪くはなかろう」
「な!? 決闘に負けたら奴隷だって!?」
決闘に負けたら僕がジルト君の奴隷になる。
その条件に僕は心底驚く。
「クク。怖気づいたか?」
決闘に負けたら奴隷。
それってつまり……最初から僕を殺す気がないって事じゃないか!!
決闘なのに相手を殺す気で挑まないなんて。
なんて……なんてジルト君は優しいんだろう!!
それなら僕としても安心だね。
よし、この決闘受けよう。
「……なんだ貴様。なぜそんなほっとした顔をしている?」
「い、いかんよビストロ君? 決闘など――」
負ければ奴隷って話だけど、それも一か月間だけでいいらしいし。
仮に負けて僕が奴隷になっちゃったとしても、それでクイックの修行が出来なくなるわけでもないし。
むしろ、いい社会勉強になるかもしれないし、問題ないね。
それに、万が一ここで僕がジルト君に勝てばクラスのみんなが僕の事を認めてくれるらしいし。
そうして僕がみんなから認められればきっと、サイロス校長の負担も少しは減るよね?
サイロス校長は僕がクラスで上手くやれるかとか。
そういうのを色々と不安がってたし。
それに、相手は僕を殺さないように気遣ってくれるらしいジルト君だ。
そんなジルト君に対し、僕はいつも父さんや母さんに挑む時みたいに本気で相手を殺すつもりでやれる。
これはとてつもなく大きなアドバンテージだぞ!
お世話になったサイロス校長の為にも、ここは一肌脱ぎたい。
なので――――――よし。
「分かりました。その勝負、受けて立ちます!!」
「ちょっ!? やめたまえビストロ君!!」
僕の発言を慌てて止めようとするサイロス校長。
おや? 何かまずかったかな?
良く分からないが、サイロス校長がそう言うなら決闘はやっぱり止めにしておこうかな。
そう思ったのだけど、時すでに遅かったらしく。
「クク。決闘を受けたな。もう引き返す事はできんぞ。クハハハハハ」
してやったりと笑うジルト君。
すると、教室の他の生徒達が僕の事を見ながらひそひそとなにやら話し始めた。
どれどれ?
僕は耳を澄まして会話の内容を聞いてみる事にした。
すると――
「あいつ……終わったな。ジルト様はスタンホープ家の跡取り。このクラスでもトップの成績を維持しているお方だというのに……」
「噂では現職の騎士にも勝利したことがあるそうだぞ」
「そんな人に決闘を挑むなんてね。ま、自業自得なんだけどさ。それでも、少しだけ哀れに思えちゃうよね。ご愁傷様」
そうして僕に憐れみや蔑みの視線を向けてくる生徒達。
あれえ?
もしかして僕、喧嘩を売っちゃいけない相手に喧嘩売っちゃいました?
どうしよう。
現職の騎士に勝ったことがあるとか、敵う気がしない。
僕なんて騎士を引退したヴェザール父さんにも勝ったことがないっていうのに……。
「「「あーあ。可哀そうに……」」」
ついに普通に聞こえる声量で僕の事を憐れむ生徒達。
おい君たち。
そういうのは本人に聞こえないように言うものじゃないか?
「おぉ……可哀そうに……」
それと同時にサイロス校長もポツリとそんな事を呟いていた。
サイロス校長……あなたも僕を憐れんでるのか。
聞こえない声量で言ってるつもりだろうが、あなたと距離の近い僕には聞こえてるんですからね?
そう思いながら僕はサイロス校長のことを
すると……おや?
その視線は僕に向いておらず、なぜか未だに高笑いしているジルト君に向けられているような?
「ではサイロス校長。決闘にはあなたに立ち会って貰いましょうか。彼が無残に切り刻まれる様。特等席で見せてあげましょう。ハハハハハハハハハハッ――」
「………………ああ。分かった。すぐに準備しよう」
そんなサイロス校長の憐みの視線にジルト君は全く気付いていないようで。
もはやサイロス校長のジルト君を見る目は死期の近い人を見るような目になっていた。
んんんんんんんんんん?
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