第16話『自己紹介で』
その後。
サイロス校長は行くあてのない僕を自分の家に泊めてくれた。
自分の奥さんに僕の世話を任せ、家の中にある物ならなんでも好きにしていいと言ってくれたのだ。
ただ、それでは申し訳ないからね。
ある日、僕は買い物に行こうとするサイロス校長の奥さんに「食材調達なら任せてください。僕が色々と狩ってきますよ」と申し出たんだ。
森では何度も魔獣を狩ってたし、狩りには自信があったんだよね。
すると気にしないでもいいと奥さんは笑ってくれた。
けど当然、それじゃ僕の気が済まない。
そこで、僕は奥さんに「ちょっと待っててくださいね」と伝え、外に出た。
しかし、森の中にある我が家からこの街の学校にくるまでの間も思ったけど、森とは違ってこの辺りでは騎士達が頑張ってるのか魔獣を全然見かけないんだよね。
その代わり、動物なら街の外にそこそこ居た。
僕の目標はそれ。
そうして僕は街の外で見つけた動物を何体か狩った。
メインはちょっと大きな鳥さんだ。
人の3倍くらい大きいだけのやたら毒を吐きまくる鳥さん。
それをサイロス校長の奥さんに見せたら、なぜか奥さんは気を失って。
そうして後で家に帰ってきたサイロス校長に「ビ・ス・ト・ロ・君? 君、頼むから家で大人しくしていてくれないかね? かね?」ともの凄い圧をかけられた。
そうして僕はサイロス校長の家で暇つぶしにジクソーパズルを解いたりして時間を潰して。
その間もサイロス校長はドタバタとなんだか忙しそうにしていた。
僕もなんだかんだクイックを全力でかけてジクソーパズルを豪速で終わらせる遊びが楽しくなってきて修行がてら真剣にジクソーパズルを次々と解いていって。
そんな日々が一週間くらい続き、そして――――――
「――紹介しよう。今日から君らと共に学ぶ事になった編入生のビストロ君だ」
――なんだかんだでこうなった。
その日、「準備が整った」とサイロス校長は言って、僕に教科書やら何やらを押し付けてヴェスタリカ騎士養成学校まで連れてきたのだ。
その道中、僕にあれはするなこれはするなみたいな事を延々に言ってきて、そうしてこの教室が君がこれから通う事になる教室だと言われて入り、今に至る。
「彼は遠い異国の地から来たゆえ、世間一般の常識には疎い所があるのだそうだ。だが、その腕に関してだけはこの私が保障する」
そんな嘘っぱちな僕の自己紹介をするサイロス校長。
なんでも僕の家庭環境やら、僕が今までやってきた事に関してはあまり言わない方がいいとの事らしい。
サイロス校長からは決して誰にも自分の過去を明かしたりするなよと言われてる。
そういうのって………………すごくいいよね!!
少年の秘められた過去。
その過去とは誰にも明かす訳にはいかぬ禁忌とも呼ぶべきものなのであった……。
そういうカッコイイノリは僕も嫌いじゃないので、僕はサイロス校長と共に自分自身の偽りの設定をノリノリで作った。
結果、今の僕は異国のとある一般家庭に生まれたごくごく平凡な、だけど少し変わった魔術を扱う魔剣士という事になった。
そうしてサイロス校長と共にでっちあげた偽りの自分。
それがここでの僕の顔という訳である。
その後もサイロス校長は僕の紹介(ほぼ全て嘘っぱちである)を続け。
「そんな彼だが、どうか温かい目で見守ってやって欲しい。――ではビストロ君、皆に軽く自己紹介を」
そう穏やかな口調で言いながら、なぜか鋭い目を僕に向けてくるサイロス校長。
はて? 僕の顔になにか付いているのだろうか?
そういえば、今朝食べたおにぎりは美味しかったな。
そもそも、お米を食べる習慣なんてなかったもんなぁ。
あ、もしかしてそのせいでお米とか海苔とかが口の周りに付いちゃってるのかな?
そんな事を考えながら僕は口元を軽く拭って、これから付き合う事になるであろうクラスメイト達の方を向き。
「――初めまして。今日からここで学ばせてもらう事になったビストロです。趣味はクイックで、特技もクイックです。将来の夢はいつか光速を超える速度を僕自身が出すこと。なので、速度語りがしたい方はぜひ話しかけてきてください」
そう自己紹介する。
すると、多くの生徒たちが不思議そうな表情を浮かべて。
そんな中、一人の生徒が困惑する様子を見せながら手を上げた。
「えぇっと……ビストロ君は騎士になるのが夢とか。国を守るとか。そういうのは……」
「え? いや、そんなどうでもいい事に興味は………………あっ!?」
しまったっ!!!
今の僕は騎士になりたくて異国からわざわざこの学校の門を叩いたという設定だった。
父方の祖父がこの地で戦死し、その意思を継ぎたいとか。
そんな設定を綿密に考えて、暗記したのに。
なのに……色々と変な事を考えたまま自己紹介に臨んだものだからつい本当の事を言ってしまったぁぁっ!!!
僕は恐る恐るといった様子で僕はサイロス校長の様子を窺う。
「……………………(ギロッ)」
………………うん。
思いっきりこっちを睨んでるね。
そりゃそうだ。
いきなり設定を無視して好き勝手に喋っちゃったんだから。
僕がサイロス校長の立場なら『何やってんだお前ェっ!!!!』と怒鳴ってるところだ。
静まり返っている教室。
その中で僕は「こほん」と咳払いして。
「――――――というのは冗談で、僕の夢は騎士となってこの国を守る事です。皆さん、宜しくお願いします!」
さっきの失言を全部冗談という事にして。
僕は無理やり自己紹介を終わらせようと――
「ふんっ。よろしくだと? ふざけたことを。誰が貴様など認めるものか」
その時。
一人の男子生徒が立ち上がった。
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