第18話『そうか。分かったぞ!』


 そんなこんなで。

 なぜか僕は編入直後、騎士にも勝ったことがあるというジルト君と決闘することになってしまった。


 そうして僕と彼はこれから始まる決闘の為に騎士学校にあるグラウンドへと集まったんだけど……。



「なんか……人、多くない?」



 グラウンドの周りには多くの人が集まっていた。

 さっき見た同じクラスの生徒達だけじゃない。

 その中にはどう見ても生徒には見えない大人の人達まで混じっていた。



「私が自身の伝手つてを使って皆に伝えたのだ。サイロス校長が認める編入生の君。そんな君とこの私が決闘を行うとね。すると多くの生徒や教師たちが興味を持ってくれたよ」


「はぁ……」



 それでこんなに集まったのか?

 集めるジルト君もジルト君だが、集まる皆さんも皆さんだなぁ。


 そんな事に時間を割くくらいなら、もっと自分の夢の為に時間を割いた方がいいと僕は思うんだけど。


 そんな僕とジルト君の存在にみんな気づいたのだろう。

 みんな、揃って道を開けてくれた。



 開けられた道を僕とジルト君は進む。

 進んだ先には決闘の立会人を務めるというサイロス校長が既に居た。



 そこでサイロス校長が僕たちに今回の決闘のルールについて説明してくれる。


 決闘では自前の武器の使用が禁止されているとか。

 そういう事を教えてくれたのだ。


 ジルト君は『何を今さら言っているのか』みたいな顔をしてたけど、僕は当然そんなルールなんか知らないからね。

 なので、決闘の説明は僕の為にしてくれたんだろう。感謝だ。


 そういう訳で。

 僕は自分の持っている腰の剣をアイテムポーチを押し込め、それをサイロス校長に渡し、用意された武器の中から木刀を選択。


 ジルト君も自分の騎士剣をサイロス校長に渡し、同じく木刀を選んでいた。



 そうして用意を済ませた僕とジルト君は決闘の為、木刀を持って互いに構える。




「互いに準備はいいかね?」





 そう僕とジルト君に確認を取るサイロス校長。

 僕とジルト君は互いに頷いて。




 「それでは……始め!!」



 決闘開始の号令。

 それと共に僕は動いた。



「クイック。二重奏デュオ



 自分の動きを速くする魔術、クイック。

 僕はそれを何重にもかける事が出来る。

 まずは様子見の二重掛けだ。



 そうして速度を増した僕は決闘用に持たされた木剣を手にして、ジルト君へと迫った。

 当然、まっすぐは向かわず、ジルト君の死角に潜り込むように立ち回る。

 するとなぜか僕はすんなりとジルト君の背後を取れてしまって――



「――――――なっ!? 馬鹿な!? 奴はどこに!?」



 僕の姿を見失ったと声を上げるジルト君。

 まるで予想外の事が起きて驚いてる……みたいな慌てようだ。

 


(いやいやいや)



 戦闘中に僕を見失って、しかもそれを声に出して慌てふためくなんて。

 そんな馬鹿な。

 とはいえ、ジルト君の慌てようは本物のようにしか見えない。

 まさか彼は本気でこの程度の動きについてこられないとでも?


(――――――いや、違う)




 そんな訳はない。

 つまりこれは――



(これは………………そうか。分かったぞ! これは僕を油断させるための演技だな!)


 間違いない。


 聞けば、ジルト君は現役の騎士にも勝ったことがあるという実力者なのだとか。

 そんなジルト君が僕の二重奏デュオ翻弄ほんろうされるなんて事、あるわけがない。



(残念だったねジルト君。僕にそのブラフは通じない。なぜなら、僕は騎士がどれくらい強いのか知ってるんだ)



 僕は訓練の一環で元騎士であるヴェザール父さんと何度も何度も戦わされているけど、一度も勝ったことがない。

 当然、二重奏デュオなんて父さん相手じゃ目くらましにもならない。


 そして、その父さんは既に騎士を引退した身だ。

 だから当然、その強さは現役の騎士より劣る物のはず。



 そして、そんな現役の騎士にジルト君は勝ったことがあると言う。

 つまり――――ここにジルト君≧現役の騎士≧ヴェザール父さんという式が成り立つ訳だ!


 

 それを前提に考えれば、今の状況がどういう物なのかも見えてくる。


 ジルト君は僕を見失った振りをしているだけなのだろう。

 本当は僕を見失っていなくて、僕が攻撃してくるのを冷静に待ち構えているんだ!!



(さすがジルト君。僕を探そうと辺りを見回すその演技。どう見ても演技には見えない。隙だらけでどこをどう打ち込んでも勝てるような気すらしてくる……。けど残念。そっちがそう来ると分かっていれば怖くはないんだよっ!!)



 おそらくジルト君は僕が斬りかかってくるのを待ち、その一撃を避けてカウンターを叩きこもうとしているんだろう。

 なら、僕はその上をいくしかない。



(よし。ジルト君の誘いに乗ろう。まず、後ろから軽く斬りかかる。すると当然、ジルト君はなんなく避けながらカウンターを合わせてくるはず。だから僕はそのカウンターをかわし、更なる二撃目を与えればいい)




 囮の初撃。

 その初撃をかわしてしてやったりと剣を振るうジルト君の鼻っ柱に僕の渾身の一撃を叩きこんでやる!!


 ――というわけで。



(行っくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)



 僕はジルト君の背後から足音に気を付けながら木刀を一閃する。

 それは囮の一撃。

 相手に対処させる為の一撃だ。


 だからこそ、僕はある程度の余裕を持ってジルト君の反応を見る事が出来た。



 0.1秒経過。

 ジルト君はまだ辺りを見回そうとしている。


 0.2秒経過。

 木刀を半ばまで振った辺りでジルト君が僕の方を見て驚愕の表情を見せる。


 0.3秒経過。

 木刀で防ぐようなそぶりを見せるジルト君。


 0.4秒経過。

 あれ? 遅くない?

 そのスピードで動いてたら到底僕の一撃は止められないと思うんだけど……。

 


 0.5秒経過。

 もはや僕の囮の一撃はジルト君の頭を正確に捕らえていた。

 ここから避けることは例えヴェザール父さんだろうと不可能なはず。

 このままだと多少なりともダメージを受けてしまうと思うんだけど……いいのだろうか?



 そして。

 遂に僕の一撃がジルト君へと到達する。


 バキッ――



「――ギャァッ!」


 振り返ったジルト君の顔面へと叩きこまれる僕の一撃。

 囮のつもりで放ったものだけど、それなりに効いている……のかな?



「こっ……ぐっ……貴様ァッ!!」



 涙目で自らの後頭部抑えながら僕の事を睨め付けるジルト君。

 相当痛かったんだぞと怒っているように見えるんだけど……気のせいだよね?


 そうして僕が首を思いっきり捻っているとジルト君がいきなり「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」と雄たけびを上げながら木刀を振りかぶり――



 ピッチャー。第一投……投げたぁぁ!!

 僕に向かって投げられた木刀。

 予想外ではあったものの、十分に避けられるものだったので僕は難なく回避して見せる。


 しかし………………一体ジルト君は何を狙ってるんだ?

 全く狙いが読めない。

 これでいよいよジルト君は武器を失ってしまった。


 後、考えられるとすれば――



(ハッ――。そうか、魔術か!!)



 こうして僕の意表を突くような行動ばかりしてみせる事で油断を誘い。

 その油断を突いてジルト君は魔術によってドカンと一撃を加えようと。

 つまりはそういう事か!!


 僕はジルト君の次の行動に備えるべく警戒する。

 すると次に、彼はとんでもない行動に出始めたのだった。


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