第19話『驚くべき行動』


「おいっ! 装備を寄こせ!!」


「え? きゃっ!?」



 なんという事でしょう。

 決闘中だというのに、相手の僕を放ってジルト君は観客達の元へと駆け寄り。


 そして、一人の女子生徒から騎士剣やら何かの護符みたいな物やらを強引に奪ってしまったじゃありませんか。



「ク。ふふ。あははははははっ! もう容赦はせんぞ。この私に恥をかかせた貴様はここで殺してやる!!」




 なぜだか思いっきり怒っている様子のジルト君。

 だけど、僕の記憶が正しければ……この決闘って自前の武器を使用しちゃいけないんじゃなかったっけ?

 決闘前にそんな説明をサイロス校長からされた気がするんだけど。


 だからこそ、僕とジルト君は用意された武器の中から木刀を選んだんだし。


 アレか?

 もしかして自前の武器がダメなだけで、それ以外の武器なら問題ないよとか。

 そういう話だったのか?



 チラリと審判を勤めているサイロス校長の様子を見てみる。

 すると、サイロス校長はなんだか呆れきっている様子だった。

 少なくともここでジルト君にどうこう言うつもりはないらしい。


 という事は……そうか。

 今のジルト君みたいに武器の現地調達をするのはアリなのか……。

 

 おのれ。

 なんて柔軟な発想をするんだジルト君。

 僕はそんな事、思いつきもしなかったよ!



「この私をコケにしたこと、後悔させてやるっ!!」


 そうして。

 ジルト君は僕に向かって手を前に突き出し。



『炎よ、我が前に顕現し、敵を焼き尽くせ。

 熱き炎の輝きにて――――――』



 自信満々な様子で詠唱を開始するジルト君。

 その内容から察するに炎熱系の魔術を発動させようとしているのだろう。


 それは分かる。

 分かるのだけど……僕には彼が何をしようとしているのかきちんと理解できなかった。

 

「………………え?」


 ここで……詠唱?

 僕という敵を目の前にして悠長に……詠唱?

 僕との間の空間に断絶結界も張らず、召喚獣を呼んで時間稼ぎをする訳でもなく、ただただ普通に詠唱を始めた?



『我が怨敵を焼き尽くせ、は――――――』



 自信満々なドヤ顔を晒しながら詠唱を続けるジルト君。


 分からない。

 彼が何を狙っているのか、本気で僕には分からない!!




 ――とはいえ。

 こうして詠唱を唱えられたら僕の取るべき行動は決まっている訳でして。



「クイック。三重奏トリオ



 三重掛けのクイック。

 僕はそれを自身にかけ、呑気に詠唱しているジルト君へと迫る。


 こうして詠唱している魔術師の位置を捉えた場合、まずやるべきなのは詠唱の妨害だ。

 そう僕はリーズロット母さんから教わった。


 もっとも、それを実践しようとリーズロット母さん相手に戦った時は色々と妨害されて、十回中一回くらいしか詠唱の妨害は出来なかったんだけどね。


 もちろん、戦績は0勝だ。

 リーズロット母さん相手では近づくことすら困難だった。



 ――と。そんな話はさておき。

 僕はセオリー通りに僕はジルト君の詠唱を邪魔するべく迫り、木刀を振るった。

 結果――




「我が手にぃぎゃんっ!?」



 普通に僕の一撃はジルト君へと命中。

 当然、詠唱は中断されて魔術は発動せず。

 どころか、そのまま彼は白目を剥いて倒れ、立ち上がる事はなかった。

 


「勝負あり。勝者、ビストロ!!」



 審判役であるサイロス校長から勝利者の名前が告げられる。

 こういう時、観客とかが『ワーーーー』ってなって僕も『ウォォォォォォ』と勝利の雄たけびを上げるものだと思ったのだけど、グラウンドに集まった誰もが声を上げずにいた。



 それは勝者である僕も同じだった。

 勝利した僕は気を失って倒れているジルト君をただ見つめていた。



(僕が………………勝った?)




 父さんや母さんに挑んでも一度も勝てなかったこの僕が……騎士学校に通っている生徒との勝負に勝った?

 あの現役の騎士にも勝ったことがあり、クラス内で優秀らしいジルト君に……勝った?



「これで理解できたかね、ビストロ君?」


「サイロス校長?」



 決闘の審判役だったサイロス校長。

 そんな彼が僕の方に近寄りながら語り掛けてきた。



「ビストロ君。これは既に何度も伝えた事だがね。君は既に強者なのだ。ただ、君や君の父上の基準がおかしいだけ。理解できただろう?」



 あぁ、そういえばそんな事をサイロス校長はこの数日間言ってたね。

 僕を励ますための言葉だと思って聞き流してたけど。


 そういえばたまにリーズロット母さんも似たようなことを言ってたっけ。

 あの時も僕は母さんが僕の事を元気づけようとそんな事を言ってくれてるんだと思っていた。

 でも、そうか。


 僕は十分に強いのか……。

 その事実に僕はようやく気づき、徐々に高揚感が湧き上がってきて――



「ははは。いやいや、まさかまさか」



 ――なんて事はなく、僕はまた励まされてるんだろうなぁと解釈した。



「なぬぅ――!?」



 僕が騙されてくれず、なんかものすごい顔になってるサイロス校長。



「ビストロ君!? 今のはどういうことかね!? もしや君、まだ自分が弱いとでも思っているのでは――」


「へ? いや、別に僕は自分が弱いとまでは思ってませんよ?」



「そ、そうなのかね? それはなにより――」


 僕だってこれまでヴェザール父さんやリーズロット母さんの元で鍛えられてきたのだ。

 さすがに自信の一つや二つくらいはついてる。

 だからそうだな。

 僕の強さがどれくらいかと言うと――



「僕の強さは一般人以上、一般的な騎士未満くらいですよね?」



「そんな訳がないだろう」



 真顔で否定された。

 なぜだ。



「ビストロ君。君はこの前、学校の騎士達を相手して全員叩きのめした訳だが――」


 なんだ。

 またその話か。

 その話は前にもしたよ?


「アレは騎士というより警備兵ってやつですよね? 中にはチンピラなんかも混じってましたし、明らかに僕が子供だからって手を抜いてた人も居ましたよ?」



「……今回、君は本職の騎士にも勝利したことがあるジルト君相手に圧勝した訳だが――」


 ああ、なるほど。

 その話に繋げるんですね。

 でも――


「多分それ、八百長やおちょう試合とかだったんじゃないですか? 僕にはとてもこのジルト君が騎士に勝てるだなんて到底思えないですし」



 今、戦ったジルト君。

 正直、僕には彼が何をしたかったのかが最期まで分からなかった。


 でも、これだけは分かる。

 仮にジルト君が僕の父さんと戦ったら、十秒も経たずにジルト君はボコボコにされるだろう。

 そんなジルト君が本職の騎士にも勝ったことがあるだなんて。

 ちょっと信じられないですね。



「………………そう来たかー」




 サイロス校長はなぜか疲れ切った表情をしていた。

 一体どうしたと言うのだろう?

 まるで何もかもを諦めたかのような。そんな哀愁あいしゅう漂う感じになってしまっているじゃないか。



 こうして。

 僕はジルト君との決闘に勝利したのだった。

 とりあえずこれでクラスの皆は僕の事を受け入れてくれるだろう。


 これにて一件落着である――



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