第37話『復活する恐怖』
そうして僕はクロネさんの胴体めがけて攻撃をしかけ……。
――ゴッ。
すると、人体を攻撃したのに、なぜか岩でも叩いているんじゃないかという音がその場に響いた。
「んんんっ!?」
………………あれれぇ~?
おっかしいなー。
「………………失礼」
もう一度確かめてみよう。
今度はもう少し強めに……。
――ゴツッ。
「……ちょっぴり痛い……」
「だ、大丈夫ですか?」
「………………大丈夫」
やっぱりおかしい。
殴ったのは僕のはずなのに、なぜか僕だけがダメージを受けてる気がする。
「あの、気を付けてくださいね? 今の私、並みの打撃なら弾いてしまうので……」
「……そうみたいだね」
なるほど。
さっきのクロネさんの『気を付けて』ってセリフは、痛いのは嫌だからやりすぎないようにお願いしますって事じゃなく。
殴りつける僕が怪我をしないように気を付けてねっていう配慮だったんだね。
身をもって思い知ったよ……。
「これ、普通の剣なんかも弾き返しちゃうんじゃないの?」
「いえ、そこまでは……やっぱり、剣で斬りつけられたりすると少し痛いです」
「そっかー。少しかー」
普通、剣で斬られたら『少し痛い』じゃ済まないと思うんだけどなー。
もう……あれだよね?
クロネさんの補助魔術『アムド』の習熟度。
既に僕の予想を遥かに超えてるよね?
「こんな魔術しか使えなくて……やっぱり、私が強くなるなんて、無理……ですよね……」
「いや、余裕でなんとかなるんじゃないかな?」
「え?」
だって、すでに補助魔術のアムドを使いこなしているみたいだし。
既に強力な魔術として完成してると言ってもいいんじゃないかな?
基礎鍛錬をしてから応用を……なーんて事を考えていたけど、これならさっさと応用の鍛錬を初めてよさそうだ。
「で、でもでも。私は無詠唱で魔術を使えないので……。決闘とかだと事前に補助魔術を使ったら反則で……だから……」
「ふーん。……でもさ、出来るんじゃないかな? 無詠唱で魔術くらい。今のクロネさんなら」
「え?」
目を丸くするクロネさん。
気持ちは分かる。
僕も無詠唱での魔術は最低でも一か月くらい訓練させないと使えないだろうなぁと思ってたし。
でも、これだけ補助魔術を使いこなせてるなら話は別だ。
「クロネさん。君はもう補助魔術……アムドを使う時の感覚をもう何度も経験してるよね?」
「そ、それは……はい。何度も何度も使ってしまっていたので……」
「だろうね。なら、その時の感覚を思い出しながらやってみようか」
「そんな……いきなりそんな事を言われても……」
うーん。自分の力が信じられないか。
今のクロネさんならほぼ間違いなく出来ると思うんだけどなぁ。
とはいえ、この様子じゃ無理そうだな。
なにかしらの荒療治が必要なのかもしれない。
そんな事を考えていると。
「クロネェェ……ビストロォォォ!」
さっきまで顔面を真っ青にして吐きそうになってたジルト君が怒りの形相でこっちを睨みつけていた。
おぉ、凄い。
あの状態からもうここまで回復したのか。
「クロネ、この愚妹がぁっ!! やはり
「ひっ――」
激怒しているジルト君に怯えるクロネさん。
やっぱり怖いらしい。
「そして……ビストロォォォ! このアーティファクト頼りのイカサマ師がぁっ!! 私の邪魔を散々した挙句、妙な術までかけよって……。もう許さん。貴様はここで殺す。ここならば誰にもバレる事もなかろうからなぁ!!」
「あ、そう」
なんか僕にまで思いっきり怒っているジルト君。
しかも殺すとか言ってるね。
なんとも物騒な事だ。
もっとも、ひよっこでしかないジルト君が何を騒ごうが僕は怖くもなんともないけど。
正直、この場において警戒すべきははジルト君よりも……。
なんて事を思いながら僕は横目で怯えているクロネさんをちらっと見る。
「さぁ、やるぞ貴様ら。アーティファクトは未だ奴の手中にあるようだが問題ない。しょせん、奴は
「「おう」」「はい」「うーっす」
ジルト君の号令に応え、武器を取り出す取り巻き達。
分かっていた事だけど、やはりやる気のようだ。
「あ……あぁ……あ……」
そして、逆にクロネさんはやる気がないようだ。
正確には怖くて怖くてそれどころじゃないって所か。
(なにから始めるにしろ、まずはコレをなんとかしなきゃいけないよなぁ)
恐怖を覚えるのは別にいい。
臆病なのも別にいいだろう。
だけど、強くなりたいなら、恐怖を乗り越えなきゃいけない時だってあると思うのだ。
いわゆる勇気ってやつを持たなきゃね。
「鍛錬方法とかそんなのより、まずはこっちをなんとかする方法を考えるか」
そこで、僕は軽く自分に思考クイックをこっそりかけながら考えた。
こういう考え事をしたいとき、思考クイックって便利なんだよね。
そうして考えて考えて考えた末。
僕は一つの作戦を思いついた。
名付けて……クロネさんに勇気を出してもらおう作戦だ!
「――という訳でクロネさん。強くなるためのファーストミッションだ!」
「ふぁーすと……え?」
「ファーストミッション。強くなるための最初の修行だよ。ほら」
「あっ……」
そう言って僕はクロネさんに母さんが作ってくれた失敗作の剣シリーズの内のひと振りを渡し、その背中を少し押す。
そして。
「じゃあクロネさん、僕が色々とアドバイスするからさ。こいつら、全員倒してみようか!!」
「………………はい?」
「ここでジルト君達を倒すのは裏方役の僕じゃない。そう――このイベントの主人公は君なんだ! クロネさん!!」
「はいぃぃ!?」
クロネさんに勇気を出してもらおう作戦。
その内容は至ってシンプル。
今までクロネさんを虐めていたジルト君達。
そんな彼らに立ち向かってもらい、ボコボコにしてその因縁を断ち切ってもらおう!
というものだ。
それでこそ、この物語は綺麗に幕を閉じられる。
そのついでに、クロネさんには恐怖とかトラウマとかそういうのを乗り越えてもらうのだ!!
「さぁ、勇気をふり絞るんだクロネさん!!」
「え? えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
そうしてクロネさんは。
ついさっきなんとか立ち上がったジルト君とその取り巻き達を前に、驚きの声を上げるのだった――
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