第13話『試験なんかなかった』
僕が受けた試験が、実は試験ではなかった。
そんなよく分からない事を言い放つ僕の目の前の男。
それに対して僕は首をかしげ。
「………………哲学みたいな話ですか?」
そう尋ねた。
「違う! 別に言葉遊びをしている訳ではない! 君が受けたつもりになっている試験は、そもそも試験などではなかったのだと言っているのだ!」
――――――目の前の男が言うには。
まず、僕が倒した試験官達。
アレらはこの騎士学校を守るために配備された騎士だったらしい。
そして、最初の騎士が僕を襲ってきた理由。
アレは僕の持っているアイテムポーチを狙った犯行との事だった。
このアイテムポーチというものは貴重品らしく、市場にも出回らない品物らしい。
それこそ裏ルートで流せば一生遊んで暮らせるほどのお金が手に入るとかなんとか。
そんなアイテムポーチを見せられたものだから、あのおっさん騎士は欲に目がくらんで僕に斬りかかってきたのだと言う。
そして、そのおっさん騎士が倒されている場面だけを見た他の騎士が次々に僕を捕らえようとしてきて。
その騎士達が次々に倒され、学校の風紀を守る役割の生徒達も不審者侵入の報告を聞いて僕を捕らえようとしてきて。
それもまとめて僕が片づけて。
最期に校長である自分が出てきたのだと男は語ってくれた。
「校長先生だったんですね」
「む? あぁ、これは失敬。自己紹介が遅れたな。私はサイロス。このヴェスタリカ騎士養成学校にて校長の任に就いている者だ」
「あ。これはご丁寧に。僕はビストロって言います」
今更ながら自己紹介をしあう僕ら二人。
サイロス校長か。
この学校に通うような事になれば長い付き合いになるかもしれないが……。
「そうか。ではビストロ君と呼ばせてもらおうか。さてビストロ君。こちらが多大な迷惑をかけた後で恐縮だが……残念ながら私は君にこの学校はふさわしくないのではと考えている」
「イヨシッ!!」
予想通りだ。
サイロス校長は僕程度の実力の奴にこの学校を通わせるつもりはないらしい。
まぁ、当然だよね。
このサイロス校長、とても強そうだし、僕が戦っても勝てるかどうかかなり怪しいと思う。
サイロス校長側も戦わずして僕のそんな実力を感じ取ってくれたのだろう。
だからこの学校に僕はふさわしくないとか言ってくれてるんだ。
うん、この人とは短い付き合いになりそうだね。
「そこで喜んで欲しくはないのだが……まぁいい。いいかねビストロ君? 私は君の実力であれば我が校に通う必要すらなく、そのまま騎士になるべきだと思っている。そもそも騎士とは――――――」
その後、なんか騎士とはなんたるべきかとかサイロス校長は語りだした。
これは……アレだね。
校長先生の無駄に長いお話タイムってやつだ。
始まったら延々と続くやつ。
当然、僕は興味もなかったので聞き流すことにした。
(しかし、サイロス校長か)
どこかで聞いたような名前のような気もする。
それもついさっき。
僕が倒した騎士達の誰かが口にしていたんだっけ?
――いや、なんか違う気がする。
サイロス校長……サイロス校長……サイロス……。
(あ、そうか。思い出した)
そうだ。
サイロスって言えば、アレじゃないか。
ヴェザール父さんから預かってた手紙。
その宛名にあった名前。それがサイロスだったはずだ。
「であるからして――」
「あ、すいませんサイロス校長。これ、僕の父さんからの手紙です」
「――なにかね? まだ話の途中だというのに。手紙? こんな物を渡されて……も!?」
父さんから預かってた手紙をサイロス校長に手渡して。
それを面倒そうに開けたその瞬間、サイロス校長の顔色が変わった。
一体何が書いてあったんだろう?
「あの……サイロス校長?」
「………………ビストロ君。つかぬ事を聞くが、君、両親の名前はなんというのだね?」
「両親の名前ですか? 父はヴェザールで母親はリーズロットですけど……」
「………………君は本校への入学を嫌がっていた。それなのに本校を訪れたのはどういう理由なのか。聞いてもいいかね?」
「両親に薦められたからですね。いや、正確には母親から薦められたからかな?」
ヴェザール父さんの方は好きにすればいいって感じだったからね。
僕に学校に通って欲しいっていうのはリーズロット母さんだけの希望だ。
僕に他者と触れ合って欲しいとかなんとか。
もっとも、僕はこの学校にふさわしくないらしいし、その希望も叶わなそうだけどね。
その後、サイロス校長は腕を組みながらしばらく悩んで。
そして。
「――――――前言撤回だ。ビストロ君。君の入学を認めよう」
「………………はい?」
こうして。
僕のヴェスタリカ騎士養成学校入学は認められてしまったのだった。
え? なんで?
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