第12話『試験を終えて?』



 ヴェスタリカ騎士養成学校入学の為の二次試験。

 そこで僕は出てきた試験官二人を倒したのだけど、それで試験は終わりじゃなかった。


 後から後から出てくる試験官たち。


 おそらく持久力でも試されてるんだろうと思って、僕は出てくる試験官たちを片っ端から片づけた。



 片づけて……片づけて……。

 そして――――――



「………………それで? 君はなぜ我が校を守る騎士や生徒たちを倒したのかね?」



 なぜか今、僕は校内のとある個室の中、険しい顔をした偉そうな人に問い詰められていた。


 それは数時間前の事。

 僕が校門の辺りで迫る試験官達を倒していると、この人が現れたのだ。


 外見年齢は40歳くらいだろうか。

 口元からカーブして伸びている立派な髭が印象的な男だった。



 明らかにそれまでに出てきた試験官達とは違うただならぬ気配をまとったその男の人。

 僕は確信した。


 これから始まるのが入学試験の本番。

 即ち、最終試験だと。



 そうして現れたその男は腰の剣を抜いて構え。

 この僕と視線を交わした。


 そうして男が剣を抜いて目が合った瞬間、僕は悟った。


 間違いなく、この男は今まで出てきた試験官達と違い気の抜けない相手。

 即ち、強敵。

 油断をすればその瞬間に終わる可能性すらある。


 そう感じさせられたのだ。


 僕はまるでヴェザール父さんを相手しているときのような。

 そんな感覚を味わっていた。



 下手に仕掛けたら速攻でやられる。

 そう判断した僕は慎重に仕掛ける機会を待った。

 男も同じような事を思ったのか、僕に対してすぐ斬りかかってくることなかった。

 


 僕たちは互いに相手の出方をうかがう。

 互いに硬直したまま時間だけが過ぎていった。

 そうして数十秒後――。



「むぅ? 妙だな。悪意は感じられないようだが……君。この私と話をする気はあるかね?」




 ――――――そうして僕は男との戦闘を中断し、そのまま校内にある個室へと案内されて今に至る。



(さて……なんで僕が学校を守る騎士や生徒たちを倒したのかって質問だったよな)


 

 しかし、そんな事を聞かれても困るというものだ。

 だって、そんな事をした覚えなんかないもの。

 心当たりなんて皆無というやつだ

 なにせ、僕は入学の為の試験を受けてただけだからね。

 

(うーん。もしかして僕は何かの事件に巻き込まれてしまったんじゃないだろうか?)


 なんか厄介な事に巻き込まれているような。そんな気がする。



「えぇっと……すみません。何の話ですか?」



「とぼけている……という訳でもなさそうだ。ふむ。では確認からしていこうではないか。まず、君はなぜ我が校へと来た?」



「この学校の入学試験を受ける為です」


「なに? 君は我が校の入学試験を受けに来た……のかね?」


「はい。家の方針でこの学校に通わないといけなくなったので」



「その言い方すると君自身が通いたい訳ではないと聞こえるような……」


「そうですね。僕自身はこの学校に通いたいなんて欠片も思ってないです」


「そ、そうかね……」



 男はなぜか頬を引きつらせていた。

 どうしたのだろう? なにかまずい事でも言っただろうか?



「――こほん。しかし、妙だな。そのような話は聞いていないのだが? 入学試験は既に先月終わっているし。編入試験を受けるにしても色々と手続きが必須であるはず。ゆえに、この私の耳に入らぬなどという事はないはずなのだが……」


「そうなんですか? でも、試験は途中まで受けてましたよ? 試験官との手合わせを何回もしましたし」


「なに? 手合わせ?」


「はい。なんか騎士っぽい格好をしている試験官が僕のアイテムポーチを奪おうと襲ってきて。アレって暴漢から自分の身を守れるかっていうテストですよね? だから僕はその試験官を倒して、そうしたらまた新しい別の試験官が出てきて――――――」



 そうして次から次へとよく分からない事を言いながら襲ってくる試験官達を倒し。

 最期にあなたが現れて今に至るんですと答えた。

 すると。



「……そ、そうかね。まぁ、なんというべきか……。いや、まずは真偽の確認をすべきだな」



 その後、目の前の男は僕にしばらくここに残っているようにと言って、どこかに行ってしまった。

 それから数十分くらいした頃だろうか。


 ガチャリと部屋のドアが開き、再びさっきの男が姿を現した。


「待たせたな。さて……話は聞かせてもらった。どうやら私の部下が随分と迷惑をかけてしまったようだ。心から謝罪させてくれ。この通りだ」


 そう言っていきなり頭を下げる男。


「謝罪……ですか?」



 はて?

 何か謝られるような事があっただろうか?



 いや、待てよ?

 試験が終わった後に謝罪?

 まさか……。



「ハッ――。もしかして……僕の試験の結果、不合格になったんですか!?」


「いや、違う。そして、そんなに嬉しそうな顔をするんじゃない。そこまで我が校に通うのが嫌なのかね、君」


「はいっ!!」


「なんという力強い返事なのだ……」


 なぜか遠い目をする男。

 なんかとても悲しい事があったみたいだ。

 ご愁傷様しゅうしょうさまというやつだね。


 でも……なーんだ。不合格って話じゃないのか。


 試験の後の謝罪と言うからてっきり『慎重に選考しましたところ、誠に残念ではございますが、今回はご期待に添いかねる結果となりました。大変申し訳ございません』

 とかみたいなのだと思ったのに。



 そう僕が残念に思っていると。



「そもそもの話をしよう。君が受けたと言う試験。それは試験などではないのだよ」


 僕の目の前にいるその人は。

 またなんかよく分からない事を言い出したのだった。

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