第11話『編入試験?』



 いきなり剣を抜き、訳の分からない事を言い出す騎士のオッサン。


 その切っ先は僕へと向けられ、正直僕としてはどう反応すればいいのかすら分からない状態。

 そのまま僕が固まっていると。



「おい。何をぼーっとしてやがる。こっちは急いでるんだ。さっさとアイテムポーチを置いて立ち去りな。そして今日の事は誰にも言うんじゃねえぞ、ガキ。言ったらどうなるか……分かるよなぁ?」


 さっきまでの騎士然とした姿はどこへやら。

 いまや騎士のオッサンは態度を豹変ひょうへんさせていた。

 さっきまでは騎士っぽかったのに、今はもうどこかの山賊のようにしか見えない。


「いや、僕はこの手紙をサイロスさんって人に届けて欲しいだけなんですけど……。そもそも、仮に僕が不審者だとして。なんでアイテムポーチを置いて帰らないといけないんです?」


 別に帰るのは構わないし、他言無用なのも別にいい。

 しかし、どうしてアイテムポーチを置いていかなきゃいけないのだろうか?

 これ便利だし、なによりリーズロット母さんからもらった物だしで手放すつもりはないんだけど……。



「うるさい! ごちゃごちゃ言ってないでソレを寄こせぇぇぇぇぇっ!!」



 なぜかいきなりキレてその手の騎士剣を振りかぶる騎士のおっさん。

 そのままおっさんは剣を繰り出してきた。



「えー」



 なぜ攻撃されなきゃいけないのか。

 よく分からないまま、僕はおっさんの攻撃を避ける。




「クソが。大人しくしてりゃいいものを。ちぃっ。仕方ねえ。もうガキだからって容赦ようしゃしねえぞ? そのアイテムポーチを頂いた後、お前を山中に埋めてやるぁぁっ!!」



「言ってることが無茶苦茶じゃないです?」



 僕に帰れと言ったり山中に埋めるとか言ったり。

 どうもこのおっさん、正気を失っているみたいだ。



 それに、なんかすっごく悪い顔してるしね。

 まるでとんでもないお宝を前にした悪役盗賊のような顔だ。

 

 

 しかし……このおっさんはなんなんだ?

 アイテムポーチが欲しすぎて暴れまわっちゃうような危ないおっさんだったのか?



「うーん……」



 次々と繰り出されるおっさんの剣。

 それをひょいひょいと避けながら僕は考える。


 さて――どうしよう。

 とりあえずこのおっさんを倒すのは簡単だ。

 なにせこのおっさん、森に出るどんな魔獣よりも遅い。

 それに加えて、一撃一撃も大した事がないように見える。


 もしかしたら裏で何かしらの大魔術でも組んでいるのかとも思ったけど、そんな様子もないし。


 もしこれがおっさんの実力なのだとすれば、僕でも倒すことが出来るだろう。



「………………いや、待てよ?」



 そこまで考えて僕は一つ、おかしなことに気づく。

 このおっさんは見た目からして騎士だと思う。


 そして、僕の父さんも過去にこの国で騎士をやっていたらしい。

 そんな父さんに僕は今まで勝てたことが一度もない。


 そんな父さんと同じ騎士職であるこのおっさんの実力がこの程度だなんて。

 そんな事、あり得るのだろうか?



 ――否。

 そんな事、あり得るわけがない。

 なら答えはおのずと絞られる。



 この騎士は偽物。

 もしくは僕に気づかれないように手加減しているのだ。


 そこまで気づけば後は簡単だ。

 僕は自分がどうしていきなり襲われたのか、この瞬間に完璧に理解した。



「そうか……。なるほど。これ自体が編入試験という訳ですね?」


「あぁん!?」



 ヴェスタリカ騎士養成学校に通いたければ自分を倒せと。

 これはきっとそんな感じの試験なのだろう。

 そうと分かれば話は早い。



「僕は別にこの学校に絶対に入学しないといけないって訳じゃないんですけどね。でも、そんな極端に手加減されたら負けられるものも負けられませんよ」



 まるで本気を出していないおっさん。

 こんなのが編入試験だと言うなら、もはや剣を抜くまでもない。



「何を言って………………げびん!?」



 迫真の演技で驚く振りをしてみせるおっさん。

 そんなおっさんの背後に僕は素早く回り込んで、後頭部をぶん殴った。



「とりあえず自分……スピードには自信があります!!!」



 僕は常時自分に軽めのクイックをかけている。


 同じ魔術は使い続ければそれだけその魔術を極められる。

 そんなリーズロット母さんの教えに従い、僕は常に自分にクイックをかけるよう心掛けているのだ。


 一撃の威力に関してはリーズロット母さんやヴェザール父さんに遠く及ばないけど、スピードだけなら結構自信がある。

 そんな自分の持ち味をさっそくおっさんに見てもらったのだが――


「この……ぐ……」



 バタンと。

 編入試験の監督役だと思われるおっさんがその場に倒れてしまった。



「…………………………あれ?」




 たった一発入れただけで倒れてしまうおっさん。

 もしかして……これで試験終わり?

 


「あの……もしもーし」



 倒れたおっさんの頭をコンコンと叩く。

 しかし、反応はない。

 まるで本当に気を失っているかのようだ。



 え? 本当に気を失ってるの?



「……いやいや、まさかまさか」


 僕程度の一撃が後頭部にクリーンヒットしたからって、それで現職の騎士さんが気を失う訳がない。


 だからこれは気を失っている振りをしているだけ……だよね?

 なんか白目を剝いてるし、どう見ても気を失っているようにしか見えないけど……これは僕の洞察力が足りないからそう見えるだけだよね?


 そんな事を考えていると――


「おい、何事だ!?」


「何があった?」



 今の騒ぎを聞きつけたのだろうか。

 ヴェスタリカ騎士養成学校の門の中からおっさんと同じ格好の騎士らしき人が出てきた。



「あぁ、ちょうど良かった。僕は――」


 そう言って僕は事の成り行きを説明しようとしたのだけど。


「――お前がやったのか!?」


「見るからに妖しい奴。子供だからと容赦はせんぞ。少し大人しくしてもらおうか」



 いきなり腰の剣を抜く騎士二人。

 こっちの話を聞く気は微塵みじんもないらしい。



「いや。あの。僕は――」


「「問答無用!!」」



 二人揃って剣を振るってきた。

 幸い、さっきのおっさん騎士と同じように本気を出していないようで、軽々と避けられた。


 そんな二人の騎士の様子を見て、僕はピーンと来た。


(なるほど……。つまりこれは第二次試験という訳だね?)



 さっきのおっさんを倒すまでが一次試験。

 その次が二人相手の立ち回りを視る為の二次試験。

 きっとそういう感じの試験内容なのだろう。



「そういう事なら仕方ない。胸を借りるつもりで行かせてもらいます!!」



 そうして。

 僕は新たな試験官二人に自分の実力を見てもらうべく、挑んだ――


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