第21話『そこは地獄だった』
ヴェスタリカ騎士養成学校
この学校に僕が通い始めてから、一か月くらいが経過した。
その間……結局、友達は一人も出来なかった……。
クラスの誰かと話そうとしても、「用事があるから」と言って会話すらしてくれない。
僕の担任となった男の教師もなんだか厳しそうな人で、しかもその先生も僕が決闘でインチキしたと思っているのか、やたら目の敵にされているような気がする。
どうやらこの学校において、僕は相当嫌われているみたいだった。
それに加え、先日の僕の決闘相手であるジルト君は僕がどこに居ようと『インチキ野郎』とか言って毎回毎回しつこく絡んでくるし。
担任の先生はその現場を見ても全然止めようとしてくれないし。
クラス外の生徒や学校外の知らない人までなぜか僕の事をインチキ野郎と言って絡んでくるし。
なお、絡んできた内の何人かは僕に決闘を申し込んできたのでボコボコにしてやった。
だけど、その結果やっぱり『インチキ野郎』って呼ばれてもっと嫌われちゃうんだよね。
インチキなんて何もしてないのに。心外である。
――という感じで。
僕は編入からずっと、そんな散々な学校生活を送っていた。
サイロス校長もこの状況を理解はしてくれているのだけど、なにぶん生徒間の問題だから手が出しにくいらしく、逆に謝られてしまったんだよね。
ヴェスタリカ騎士養成学校では基礎中の基礎から学ぶ姿勢が重んじられているのか、授業のレベルもかなり低くてぬるいし。
もちろん、僕が知らない事も色々と教えてくれたよ?
でも、それは僕にとっては学ばなくてもいい内容だったんだよね。
特にどうでも良かったのが、とある魔術の詠唱についてだったりとかだね。
これから先ずっとクイックしか使うつもりがない僕としては、ああいう授業は本当に無駄としか思えなかった。
という訳で結局、一か月も通っているのに僕はこの学校に通って良かったなんて
そんなある日の昼休み。
遂にその日はやってきた。
――そこは地獄だった。
今までに僕が経験したことがないような、そんな地獄。
自慢する訳じゃないけど、僕だってそれなりの経験はしてきている。
リーズロット母さんとの修行では何度も死にそうな目に遭ったし、ヴェザール父さんとの模擬戦で強烈な一撃をもらってしまって丸三日寝込んだなんて事もあった。
森の魔獣に囲まれ、魔力も尽きる寸前でこれは死んだかなと諦めかけた事もあった。
そんな修羅場を僕はこれまでに経験して、乗り越えてきたんだ。
でも、今回ばかりはダメだ。
心が耐えられない。
乗り越えたいとは思うけど、どうすればいいか対処法すら思いつきそうにない。
――この地獄から、僕は逃れることが出来ない。
「ぷぷぷっ。おい。誰かあいつと組んでやれよ」
「そうそう。可哀そうじゃない。私は絶対嫌だけど」
「だよなぁ。インチキ野郎と組んでダンジョン探索とか嫌だよなぁ。くくくくくく」
そう、この地獄。
ぼっちだけが味わう『友達が居ないから誰も自分と組んでくれず、情けない思いをする』というとんでもない地獄から、僕は逃れることができないんだ!
――きっかけは朝のホームルームでの担任の先生の言葉だった。
「本日は学校地下に展開されているダンジョンに各自パーティーを組んで潜ってもらう。パーティーは二人以上、五人以下となるよう組むように」
なんて事を言ってくれちゃったのだ。
午後からそういう感じでダンジョン探索の授業を行うとの事で、それまでにパーティーを組んでおけと言うのだ。
だけど、当然僕と組んでくれるような人は誰もおらず。
結果、僕はまだパーティーを組むことが出来ていなかった。
無理に誰かを誘おうにも――
「そうだよなぁ。インチキ野郎と組んでこっちまでなにか不正をしたなんて思われたら困るもんなぁ」
「将来騎士になる僕らにとって経歴の傷はかなり重いからね。さすがに彼とは組みたくないかな」
「可哀そうだけど、決闘の場でインチキした彼が悪いよね」
僕に聞こえていないとでも思っているのか、好き勝手言ってくれてるクラスメイト達。
残念ながら丸聞こえである。
いや、もしかしてわざと僕に聞こえるように言っているのかな?
だとしたら君たち、相当に性格が歪んでいるんじゃないかな?
そうして僕が自分の席でもやもやとしていると。
「おや? 君はまだパーティーを組んでいないのかね? インチキ野郎君?」
呼んでもいないのに金髪イケメン君こと、前の決闘で僕に敗北した負け犬であるジルト君が寄ってきた。
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