第7話『父さんとの剣術修行』
「父さん!」
「む? どうした。ビストロ?」
「僕に剣術を教えてください!!」
ヴェザール父さんが夕方くらいに家に帰ってきて。
僕はすぐに父さんにそう頼み込んだ。
「剣術……だと?」
「うん。それと、リーズロット母さんが言うには僕の走るときの姿勢がなんか歪んでるって話だから、そっちもどうすればいいのか教えて欲しいんだ」
「むぅ?」
訝し気な顔をしながら辺りを見渡すヴェザール父さん。
そうしてその視線はこっちの様子を見守っているリーズロット母さんへと向いた。
「ふふっ」
なぜだか少し機嫌の良さそうなリーズロット母さん。
しばらく二人は目を合わせて。
「そうか」
そう小さく呟くと共にヴェザール父さんは静かに立ち上がり。
「――外に出ろ」
そう冷たく言い放った。
そのまま僕と父さんは家の外へと出る。
「――リーズロット」
「ええ、分かったわ。はい、ビストロ」
ヴェザール父さんに促されたリーズロット母さんが僕に木剣を渡してくる。
どうでもいいけど、リーズロット母さんはどうしてただ名前を呼ばれただけで父さんが何を言いたいのか分かったのだろう?
これが夫婦というやつなのだろうか。
無駄に感心してしまう。
「えっと……これをどうすれば――」
いきなり木剣を渡されてどうすればいいか分からない僕。
「――構えろ、ビストロ」
そんな僕にヴェザール父さんは自身も木剣を構えながら、ただ構えろとだけ言う。
相変わらず、父さんは口数が少ない。
こんなので本当に僕に何かを教えられるのだろうか?
「ビストロ。遠慮はいらないわ。あなたの全てをヴェザールにぶつけなさい。彼なら全て、受け止めてくれるから」
ヴェザール父さんを心の底から信頼している様子のリーズロット母さん。
夫婦なんだしそれも当然なんだろうけど……なんだか妬けるな。
いや、こんな事言ったらマザコンとか言われちゃうだろうし、格好悪いから言わないけどさ。
でも、僕の尊敬する師匠であるリーズロット母さんが僕よりも父さんの方が圧倒的に強いと信じている様子なのが、面白くない。
(よぅし。やってやる!!)
遠慮は要らないらしいし、父さんを倒す気でやろう。
僕は無詠唱で自分にクイックをかける。
これで速度は増した。
「やああああああああああああああああああああっ」
まっすぐヴェザール父さんめがけ剣を打ち込んでいく。
しかし――
「――むっ。なるほど。だが――」
パァンッ――
「いってっ!?」
僕がヴェザール父さんに打ち込もうとした剣。
それを父さんは軽く巻き上げ、僕の手から木剣を落とさせ。
そのまま流れるような動きで僕の頭の上に自身の木剣を静止させた。
「うっ――――――」
流れるような動き。
僕は反応する事すらできなかった。
「――
そのまま木剣を引き、再度僕に木剣を構えろという父さん。
僕は言われるがままに木剣を構える。
「ゆくぞ。しっかりと見ろ」
そう言った瞬間、ヴェザール父さんの身体がゆらりと動く。
けれど、その動きは極端に遅い。
わざとゆっくり動いているとしか思えないくらい遅かった。
(でも、油断はしないぞ)
今度は慎重に対応すべく、父さんの木剣をしっかり受け止める為に僕はしっかりと父さんの動きを目で追う。
そのままゆっくりと木剣を振り下ろしてくる父さん。
それに僕は合わせる。
カッ――
木剣と木剣が交わり、小気味良い音が出る。
そのままヴェザール父さんは木剣をゆっくりと引き、今度は横なぎに木剣を振るってきた。
また僕はそれに合わせる。
カッ――
カッ――コンッ――カッ――
ゆっくり……ゆっくりとヴェザール父さんが木剣を振るい、それを僕が打ち返す。
そんな事を何度か繰り返した。
(……こんなことに意味があるのか?)
これが指導打ちというやつなのかもしれないけど、あまりにも遅い速度でのやりとりにもやもやしてしまう。
(――もう限界だ。驚かせてやれ!!)
僕はゆっくりと木剣を振り下ろそうとするヴェザール父さんの動きを無視して、そのまま父さんの背後へと回りこむ。
そして、そのがら空きの胴に打ち込もうと木剣を真横に振るう!!
「いやあああああああああああああああああっ!!」
これは決まった。
そう確信したその時。
カッ――カランッ――
「――拾え。構えよ」
「………………え?」
いつの間にかこっちを振り返っている父さん。
僕が振り切った木剣はといえば、地面に落ちており、さらに僕の手には痺れるような感覚が残っていた。
(対応した? 今の不意打ちに? そんな馬鹿な――)
「動きを止めるな。常に動け。そして、素早く動こうが遅く動こうが基本は何も変わらぬ。それを意識せよ」
動揺して動きを止めていた僕にヴェザール父さんがそう注意をする。
僕は戸惑いながらも落ちた木剣を拾い、構える。
「続けるぞ。そして、再度言う。しっかりと見ろ」
しっかりと見ろ。
二度も同じことを言うヴェザール父さん。
そのままヴェザール父さんはさっきと同じようにかなり遅いスピードで木剣を振りかぶった。
(しっかり見ろって……きちんと見てるじゃないか)
そうして父さんの木剣に剣を合わせて、それを打ち返す。
それだけを続ける。
その中でも僕は父さんの遅い動きをきちんと見て――
(あ、今の父さんの動き方、カッコイイな)
流れるように次の攻撃に移行して。
攻撃が防がれても焦らず、剣をスッと引いて次の動きに繋げている。
意識しないと見逃してしまいそうな程度の所作。
僕は父さんの動きを注視することでその動きをようやく意識する事ができた。
(そっか。これがきちんと見る……いや、きちんと
ただ
そうヴェザール父さんは言いたかったんだ。
僕もその動きを真似しようと、さっそく父さんの動きを自身の動きに取り入れてみる。
すると――
「力を入れすぎるな。剣を自身の身体の延長線上にあるものと考えろ」
すぐにそんな注意が飛んでくる。
確かに、今の僕の動き方は少しぎこちなかったように思える。
(剣を自分の身体の延長線上にあるものと考えて……。つまり剣を自分の身体のように動かせって事か)
その後も僕は父さんの動きをどんどん真似していった。
するとその一つ一つに注意が飛んできて。
そうして僕は遅れてさっきは理解できなかった父さんの言葉の意味を理解する。
(『動きを止めるな。常に動け。そして、素早く動こうが遅く動こうが基本は変わらぬ。それを意識せよ』……そうか。体の動かし方において。速いとか遅いとか関係ないんだ)
二度目に僕が全速力で父さんに木剣を打ち込んだ時、僕は父さんに木剣を受け止められただけで自分の木剣を取り落としてしまった。
それは速く動いたからというのもあるけど、それだけじゃない。
必要以上に木剣を強く握っていたからこそ、衝撃を逃がしきれず、それで剣を落としてしまったんだ。
「――今日はここまでだ」
何度も剣を打ち合い。
父さんは静かに剣を引いた。
そんな動きすら、なんだか綺麗に見えた。
「ありがとうございました!!」
気づけば僕は敬意と共にそうお礼の言葉を口にしていた。
そうして。
この日から僕は剣術の修行もすることになった――
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