第8話『修行の成果』


 リーズロット母さんから教えてもらったクイックの魔術をさらに使いこなせるようにと日々特訓を続けて。


 そうして磨かれたクイックを使いながらヴェザール父さんから剣術を教わって。



 そんな毎日を繰り返していたらあっという間に八年という時が経過していた。



「ぐるるぅぅぅぅぅぅぅ」



 そんな僕の目の前に居るのは大型の狼のような外見の生き物。

 あえて『ような』と言ったのは普通の狼とは大きく異なる点が三つあるからだ。





「ぐるぅ」

「ぎゃぎゃぎゃぎゃ」

「ばうっ」



 普通の狼とは大きく異なる点その一。

 まず、首が三つある。

 三つの首はそれぞれ僕に対して敵意を見せていて、る気満々だと嫌でも伝わってくるね。



 そして大きく異なる点その二。

 それはでかさだ。

 普通の狼の体長が約1メートル程度。

 それに対し、目の前の生き物はざっと20メートルくらいのでかさだ。

 人間なんか普通に丸飲みにできそうなくらいのサイズである。



 そして大きく異なる点その三。

 この生き物は……魔術を使ってくるのだ。



「「「ぐるぅぉぉぁぁあああああ!!」」」



 うなり声と共に狼のような生物の眼前に炎が生み出される。

 この生き物はこうして人間を見ればすぐ襲ってきて、無詠唱での魔術も使いこなす凶悪な存在なのだ。


 魔を使う獣。

 すなわち――魔獣。


 こんな感じの獣の事をこの世界ではそう呼ぶらしい。

 人間にとって基本的に害にしかならない存在。

 そんな魔獣が今、魔術によって生み出した炎を僕へと向けていて。



「ばぁううぅぅぅっ!!」



 そのまま僕の身長くらいはありそうな火球が放たれる。

 その威力は木々を全焼させるほどのもの。

 当たれば僕の身体は跡形もなく燃え尽きるだろう。


 ――もっとも、当たればの話だけど。


 僕から見ればこの魔獣、遅すぎる。

 こんな遅い動きで常時クイックを使ってる僕を捉えられる訳がない。


「ほいっと」


 余裕で魔獣の放った火球を避ける。

 そのまま、隙だらけの魔獣の背に僕は飛び乗り。



「えいや。そい。せい」


 三つの首を持つ魔獣。

 その首を丁寧に三つとも刈り取った。



「「「……ぐあぅ?」」」



 まるで自分が死んだことに遅れて気づいたような。

 そんな間抜けな鳴き声を三つの首は同時に上げ、そのまま魔獣は倒れた。



「ふぅ……。だいぶ慣れてきたかな」



 既に何度目か分からない魔獣との戦闘。

 今では慣れたものだけど、最初はかなり緊張していたのを憶えている。



「あの時のヴェザール父さん、いきなり剣術の修行中に『掃除に行くぞ』とか言って僕を魔獣と戦わせるんだもんなぁ」



 あの時は魔獣についてなんにも知らなかったから本当にびっくりした。

 まさか『掃除に行くぞ』というのが森に居る魔獣の掃除に行くぞという意味だったとは。



「家の周りにある森の中。そこにこんな魔獣がうようよしてるなんてね。そりゃ子供の頃の僕に一人で外出するの禁止って強く言う訳だ」



 こんなのに子供の頃に出会ってたら命がいくつあっても足りないからね。

 修行を重ねた今の僕だからこそ、ここらの魔獣なんて野生生物を相手する感覚で相手できるだけで。


 ちなみに。

 今の僕はもう一人で森に出歩いて良いと両親から許可をもらっている。


 過去に両親が見ている前で魔獣を何十体か狩ってみせて、これなら一人で出歩いてもいいだろうと許可をもらったのだ。



「さて。今日のランニングはこれくらいでいいかな。最後に軽いウォーミングアップも済ませたし。後はいつものだね。――――――今日こそは父さんに勝ってやる」



 毎日やっているヴェザール父さんによる剣術の修行。

 その中には実戦形式での模擬戦もある。

 そこで僕がヴェザール父さんに勝てば、父さんは僕の事を一人前と認めてくれるらしい。


 どんな手段を使ってもいいから、ただ勝てばいい。

 そう言われてはいるのだが……。



「ぜんっぜん勝てないんだよねぇ」



 スピードでは僕の方が確実に上なのだが、ヴェザール父さんにはまるで敵わないのだ。

 あまりにも勝てないから不意打ちを仕掛けてみた事もあるが、それも全部読まれるし。

 正直、勝てる気がしないというのが本音だ。


「たまに相手してくれるリーズロット母さんにもまだ一度も勝ててないし……。僕もまだまだだよなぁ……」


 僕の魔術の師匠であり、クイック以外にも色んな魔術を知っているリーズロット母さん。

 そんな母さんともたまに模擬戦をするのだが、こちらも父さんとの模擬戦と同じく全敗中である。


「それでも今日こそは僕の事を一人前と認めさせてやる!!」


 未熟だった僕が父親から認められる展開って、なんか格好いいしね。

 勝ったら免許皆伝とかもらえないだろうか?


 そんな事を考えながら僕は家に帰ろうとして。


「おっと。ついでにこの魔獣も持って帰ろうかな。母さんが調理してくれるかもしれないし」


 そうして僕は狩った魔獣を持って、帰宅した。



 その後。


 僕はいつものようにヴェザール父さんとの模擬戦に挑んで。

 そして当然のように敗北したのだった――


 ちくしょう……。

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