第39話『無茶ぶり-2(クロネ視点)』














「――――――――――つかんだ」



 分かる。

 通常時にはない自分の体にまとわりつく何か。

 きっと、この何かが、私を補助してくれている魔術『アムド』なんだ。




「さぁ。いつものように苦しむがいいっ!!!」



「あっ――」



 その時、私の集中が途切れてしまう。

 目を開ければすぐそこにジルト兄さま達が居て。

 そして、今まさにその取り巻きの内の一人が私に蹴りをくりだしていた。



「っ――」



 痛い!!

 そう身構えたその時。




 ザシュッ――




「……は?」


「え?」



 ジルト兄さまの取り巻きの内の一人。

 彼は、私が振った剣により、繰り出した足を斬り落とされていました。



「あ? あぁ……。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! なんだこれは!? あ、私の……私の足がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 痛みにのたうち回るジルト兄さまの取り巻きの一人。

 それを前にして、私は呆然とするしかありませんでした。



(今の……私がやったの? 本当に?)



 私が剣を握ったのは過去に数回だけ。

 私の剣の実力なんてジルト兄さまにも遠く及ばない。

 そんな私の剣が、ジルト兄さまの取り巻きの一人に通用した?



「ほぅ、クロネ。存外にやるではないか。剣などロクに握った事もなかったであろうに。驚いたぞ」


「くひひ。さすがはクロネさん。どこかで練習でもしていたのですかぁ? 勤勉ですねぇ」


「ハッ。ノロマが。普通、斬られるかね?」


「ハハハハハハハッ。ダッセー。やられてやんの」



 そんな私の驚きなど気にもしていないのか、ジルト兄さま達が笑う。

 苦しむ仲間が目の前に居るのに、それなのにジルト兄さま達は笑っていたんです。


 そんなジルト兄さま達を醜いと感じ、嫌悪感を抱きながら、私はやはり自分のしたことに納得することが出来なかった。



(今の、本当に私が? でも、剣を振ったのは私で……。でも、私は本当に剣を振るつもりなんてまったくなくて――)



 そうして私が混乱していると。

 


「あ、ごめんクロネさん言い忘れてた。クロネさんに渡したさっきの剣。詳しい事は省くけど、所持者にそれなりの動きをさせる事が出来る剣なんだ。だから、クロネさんは補助魔術の制御にだけ意識を向けてくれればいいと思うよ」



「「「「「は?」」」」」


 と、ビストロさんがさらに混乱を招くような情報を投下してきた。



「所持者にそれなりの動きをさせる事が出来る剣……ですか?」


「うん。これはリーズ……僕のある知り合いの主婦さんが作った剣なんだけどさ」




 もうその時点でなにをいっているのか分かりませんでした。

 え? 知り合いの主婦さんが作った剣? え?



「その主婦さんはある剣士にゾッコンでね。その剣士の動きを剣に魔術式としてインプットさせたんだ。そうすれば自分もその剣士の動きを真似できて、その人と同じ世界の一端を視れるかもしれないってね」


 分かりません分かりません!!

 剣士の動きを魔術式としてインプット!?

 もはやさっきからなにを言っているんですか!?



「もっとも、いざ出来上がってみたらナマクラだったらしいんだけどね。ある程度は形にできたみたいなんだけど、結局はその剣士の動きの50%程度の動きしか再現出来なかったんだってさ」



 いえ十分だと思いますけど!?

 そもそも、剣士の複雑な動きを剣に魔術式として叩きこむなんて。

 それ、誰がどう考えてもアーティファクト級の武具なんじゃ……。



「まぁそんな微妙な剣だけど、それでもひよっこでしかないジルト君達くらいの攻撃ならさっきみたいに余裕でかわせるだろうしカウンターも決められると思うよ?」


「いや、どこが微妙なんですか!?」



 こんなの文句なくアーティファクト認定される武具じゃないですか!!

 そんなものを作れるビストロさんの知り合いの主婦さんって一体……。



「ハッ。何を馬鹿な事を……とは言いきれぬか。実際、先ほどの動きはクロネに出来るものではなかった。なるほど……。そんなアーティファクトまで持っていたのだな」



 ビストロさんの話を聞いていたジルト兄さま達がさっきまでの笑みをひっこめ、少し真剣な表情になる。


 でも、これなら確かにいける。

 私なんかでも、ジルト兄さま達に勝てる!!



「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





 私はビストロさんが託してくれたこの剣を信じて、ジルト兄さま達に斬りかかる。

 ビストロさんのいう事が正しければ、この剣には凄い剣士様の動きがインプットされている。


 ならば、私でもやれるはず。

 そう思って私は全力で剣を振るい。



 スカッ。



「……む?」


「………………あれ?」



 なんなく私の剣を避けるジルト兄さま。

 ついでといわんばかりに、ジルト兄さまはそのまま腕を大きく振りかぶり。



「ぬんっ!!」


「ぎゃふっ――」



 容赦なく私の後頭部を攻撃してきました。

 痛い……。

 幸い、まだアムドも継続中だったので耐えられましたけど、それでも痛いものは痛いです。




「うぅ……一体どうして……」



 おかしい。

 この剣ならいけると思ったのに。

 もしかして、私たビストロさんはジルト兄さまを甘く見すぎていたんでしょうか?


 この剣にインプットされたという剣士様の動き。

 50%程度の動きしか再現出来ない状態では、やはりジルト兄さまに敵わないという事……。



「あ、ちなみにクロネさん。余計な力とかは入れないでね。その剣、自動で使い手の肉体を動かすからさ。余計すぎる力が入ってたり、使い手が予想外の動きをしたりするとさっき言った効力は発揮されないんだ」


「そういうのはもっと早く言ってくれませんか!?」



 

 違った。

 単に、この剣を私が正しく扱えていなかっただけらしい。



「そんな事よりもクロネさん! なんで攻めようとしてるんだよ!! 君にはそんな事よりもっとやるべきことがある。目の前の事とかどうでもいいから集中するんだ! 自分の中のアムドを感じる為に、自分の奥深くへと意識をめぐらしながら――」


「もうそれはやりましたよ!!」


「え?」


 そう言いながら私はほんの一瞬だけアムドを解除。

 すると、思った通り、私の体にまとわりつく何か引いていきました。


 その感覚をハッキリと感じながら。

 私は詠唱なしで、さっきの感覚を引きずりだす。



「……お願い。どうか、私を守って」



 何度も何度も私を守ってくれたアムド。

 こんな魔術なんてと何度も思いながら、それでも使ってしまっていた魔術。

 実際、使えない魔術だと散々馬鹿にされてきた。



 でも、ビストロさんが教えてくれた。

 魔術は奥深い物なのだと。

 補助魔術だって、使いようによっては最強の魔術になれると。


 そう彼は教えてくれた。

 なら、私がすべきことは一つ。



「――今まで、あなたの事を馬鹿にしていてごめんなさい」



 今さら頼るなんてと思うかもしれないけど。

 それでも、私は力が欲しいの。

 お姉ちゃんを助ける為の力が欲しい。


 だから――



「力を貸してっ! アムド!!」



 想像する。

 硬く、傷つかない自分を。

 痛いのなんて無縁で、決して倒れない自分の姿を。

 そんな自分をイメージしながら、さっきの感覚を引きずりだす。



 そして――


「――――――よし。ビストロさん、無詠唱のやり方は理解しました!! 次はどうすればいいですか!?」



 分かる。

 詠唱なんかしなくても、今の私にはアムドがかかっている。

 無詠唱だといつもと違うのか、いつものアムドとは違うけど。

 


 ここまではいつも通りのアムド。

 問題はこの後、どうすればいいか。

 ビストロさんのアドバイスを待って――



「………………いや、もうそのままでいいんじゃないかな?」


「………………はい?」



 なぜか思いっきり呆れたような顔をしながら、ビストロさんは投げやりにそう言うのでした。

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クイックを極めた魔王×魔女の息子、騎士養成学校で異次元の速さを見せつける @smallwolf

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