第37話 質量は暴力
空気が揺れるほどの咆哮
地面に転がる小石は跳ねて、割れかけの窓は容易く砕けていく。
地震を想起させるほどの振動が、街全体を覆った。
シロと魔女がそれぞれ大地を駆ける。
彼女らが踏んだ地面はほんの数秒後には黒い壁に押しつぶされていた。
降り注ぐ柱と形容できるほどの触手が鋭く大地に突き刺さり、地面を通って天高く彼女らを追尾していった。
ブースターとスラスターを巧みに活用しながら、宙を滑るように移動し、地面すれすれを跳びながら敵へと迫っていく
「シロちゃん!飛ばすよ!!!」
シロの腹部に魔女の鞭が巻き付く。
的確に攻撃を避けながら、シロを最短ルートで投げ飛ばした。
弾丸のごとく加速したシロは、巨大な斧を握り締め横なぎに一閃
甲高い金属音が響き、大きく切り裂かれたベノムだったが、瞬く間に再生してシロを吹き飛ばす。
建物を数軒貫通して転がったシロは、瓦礫を跳ね除けて追撃の攻撃を弾いた。
幸いにも触手攻撃ではなく、針状の金属を飛ばしてきただけだったため、これと言った損害もなく対応できている。
シロにベノムの意識が向いている状態
そこに魔女が後方から鞭を振るった。
いつ変わったのかわからないほど巨大な鞭は、先端に行くにつれどんどんと細くなっていき、数百メートルどころではない長さへと伸びている。
「僕の鞭は特注品でね!時と場合によって変化させることができるんだよ!!!」
空気を叩く音
破裂音とともにとてつもない衝撃波が巻き起こる。
その一撃は巨大な青いベノムを弾き飛ばすほどの一撃だった。
シュルシュルと縮んでいく鞭を回収しながら、魔女は落下していく。
そんな激しい戦闘
周囲にいた通常のベノムはすべて吸収され、今もどんどんと青いベノムへと集まっている。
大きさもう変わらないようだが、どんどんと硬くなっていっていることを肌で感じ取った二人は、なるべく攻撃を継続するが収まる気配はない。
通常個体の方を倒したとしても、液体金属となったベノムの死体は宙を浮いて吸われていった。
「先輩!!!どうなってるんですかこれ!?!?」
途方に暮れていた二人のもとへ、ハルが到着する。
その後ろからはリンやコトネも遅れながらついてきていた。
「怪獣戦、巨大ロボ求ム」
「魔女様もうちょっとわかりやすくいってください」
「ふむ、つまりラスボス戦ということか」
「なんで隊長わかるんですか!?」
「どうすんのさ、巨大ロボなんてないよ~?」
「ん、気合で殺す」
腹を針で貫通させられたとは思えない活気を発揮しながら、彼女たちはベノムについて話していた。
「この戦いの肝はシロちゃんの魔法だよ、君の魔法があの質量の暴力をひっくり返す鍵になるだろうね」
「魔法?そういえば髪の毛白いですね」
「ん、魔女になった」
「あ~、ついになっちゃったかぁ…」
「そこまでの覚悟があるなら私は責めないぞ」
三者三面それぞれがシロの魔女化に対して感想をこぼす。
この状況下でなければ間違いなく否定されていただろうが、今の街を守るにはシロの魔女化が必須であったことも理解していたのだ。
「で、結局どんな魔法なんですか」
「感情を…力に変える魔法。でも、私自身よくわからない」
その言葉に三人とも頭をひねった。
想像に難しいというのもあるが、彼女らが実際に経験した感覚の魔女の魔法とはまた別ベクトルであったため、シロの魔法自体がよくわからないのだ。
「まぁ、僕のが既存の物を操る系の魔法だとしたら、シロちゃんは形として存在しない物を力に変えるっていう訳の分からない魔法だからしょうがないよ。女王とかもそうだけど、上位の魔女はだいたいそういった何らかの法則を造っちゃう系の魔法なんだ、ほんと困っちゃうよね」
「まぁ確かに元々あるものを使う魔法と無から有を生み出す魔法……どっちが強そうと聞かれたら、後者になりそうですよね」
「そうでしょ?例外はいるけどだいたいそうなんだよ」
自虐ネタのように語る感覚の魔女は、口をへの字に曲げて文句を垂れ流していた。
「で、そのシロの魔法をどうやって使うんだ?」
「ソレについては私に案があります!だから一旦普通に戦っちゃってください!」
態勢を立て直してきたベノムが、触手を伸ばすべく、うねうねと波打っている。
時間はもうなさそうだ。
「ん、了解」
「指揮は頼んだぞハル」
「私はからも頼んだよ!」
「このハルにお任せください」
「四人とも頼もしい限りだね」
それぞれがそれぞれの武器を構えた。
切っ先は真っすぐベノムへ向いており、真っすぐな瞳が敵を見据えている。
ひときわ強い風が吹き、瓦礫の小石が地面へと転げ落ちた。
ソレを試合のゴングとし、一斉に動き出す両者
速度も力もシロと魔女に劣っている二人は、互いの不足を補うようにして迫りくる攻撃をしのいでいた。
対するシロたちは避けた触手を切り飛ばし、魔女は鞭で弾いた触手を蹴り上げ引きちぎる。
そんな四人を補助するように、無数のドローンが弾丸を飛ばしたり足場になったりとし始めた。
その時だ
「ミュージックスタート!!!!!!」
後方から爆音のBGMが流れだす
丁寧にドローンを整列させ、巨大なスピーカーを形作っていた。
疑問に思う四人の通信機に、ハルの説明が入った。
「先輩の魔法、感情で動くんですよね?だからやってやりましたよ!この県捨ててくれた奴らに一矢報いてやろうと思ったんですよ!くっはっはっはっは!!!!!」
とんでもないハイテンションで語られた作戦内容
それはハルだからこそなして得た凶悪な作戦であった。
まず今行われているのは配信
バックBGMは視聴者の心を揺さぶるもの
周囲を飛び交うドローンを媒介にし、この映像を全世界にリアルタイムで発信している。世界へ向けた配信では翻訳や編集したものを、ほぼタイムラグなしで発信しているようだ。
さらに日本の放送局にハッキングしたハルは、この映像を地上波で強制的に放送しているらしい。今頃日本の情報局は焦りに焦っているだろうし、上層部やハトはブチギレているだろう
恐ろしいほど膨大な情報のはずだ。
彼女が天才ではかたずけられないほどの処理能力
静岡を捨てた仕返しだと、とても悪い声で高笑いする声がシロたちの通信機から聞こえた。
「先輩の魔法、まだ使い方がわからないなら、土台は私が作ろうじゃないですか!他人に干渉するにはまず世界の注目を集める必要があります。だからこの緊迫した戦闘、まさにラスボス戦をみんなに見てもらいましょう!!!あとはシロ先輩、あなた次第だ」
ハルの言葉が胸に反響する。
他人の感情に干渉する、本当にできるのかわからないことに、ハルはここまで土台を用意してきた。
ならば先輩として、答える義務がある。
シロは自分の魔法へと集中を高めていった。
多少無防備になるが関係ない。
邪魔はすべて仲間が跳ねのけてくれる。
見える
自分以外の感情の色
この街は不安と恐怖が多い
それでも希望の光がまぶしく見える。
もっと、視界を広げる。
ポツポツと、感情の色が増えていく。
バラバラだった感情の色が、ある一点に収束していった。
希望の色
日本だけじゃない
世界にも、様々な色が見えた。
その光を、シロは掬い上げる
前向きな陽の感情
それらはあらゆる場所につながっており、シロの魔法で増幅される。
燃やせば燃やすだけ、その光はより一層強い光を発していた。
世界中の感情の収束
その先の力は何なのか
干渉……掴む
今この瞬間だけ、この世界に新たな法則が付与された。
【感情は力】
存在しないエネルギーは現実に
集まる希望は魔を打ち滅ぼす聖剣に…
天高く、雲より上へ伸びる希望の刃
光り輝く黄金の炎が、周囲を照らして人々の心に火を付けた。
感情は伝染する。
伝わる希望が次へ、そのまた次へと伝わって。
「
黄金に輝く希望の刃
希望の魔法が今振るわれる
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予約投稿忘れてました!!!!
ごめんなさい!
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