第3話 私の日常


私の名前は黒星 白、両親は少し裕福な一般家庭、母二人は毎日忙しく働いてくれている。

特にここ最近は昇進したせいか家に帰ってこないことも多い、それでも二人は精一杯私を育ててくれるし、愛情も注いでくれていると自負しているつもりだ。


そんな二人の子供がこんな変な子供だと言うのが情けないばかりである。


私は感情表現が下手くそだ。


表情筋が死んでいるとユウくんに言われたとき、確かにそうだと思った。


そんな私にも夢はある

いつかベノムマギアのトップエース【女王クイーン】になること。

その夢がいつ始まったかは覚えていないけれど、確かなあこがれが私の胸にあった。


別にマギアの人に助けられたからとか両親の仇とかそういったことではない。

ただテレビに映る少女の姿が、当時の私には眩しく輝いて見えたのだ。


____________________


制汗剤と夏の少し籠もった匂いがするロッカーを閉め、浮遊型の追加武器の電源を作動させる。ファンの回る音と、機械仕掛けの砲台の駆動音を聞きながら、ブーツのギアを固定した。


ちょうどその時、更衣室の扉が開き人が入ってくる。


「あ!シロ先輩こんにちは!早いですねパトロールまでまだ時間ありますよ?」

「今日は早番ってきいてる」

「え?そうでしたっけ?でへへ~、じゃあ私早く来て正解でした!」

「話はしっかり聞くべき」

「う゛ぅ…すみません」


陽気で活発、表情豊かな少女の名は陽月 春ようづき はる私の一個下の中学一年生であり、私が所属する隊の最年少である。明るい茶髪に大きな瞳、愛嬌ある仕草や表情は皆を笑顔にするムードメーカーだ。


「お、私が一番かと思ったけど全然いるじゃん!」


ガチャリと更衣室のドアが開き、また一人メンバーが現れる。

一目で白ギャルと言える容姿の彼女は、私の先輩にあたる高校一年生の七松 凛ななまつ りんだ。黒髪ではあるがメイクやネイルをとてもうまく活用して、校則の範囲内でギャルを満喫している真面目ギャルである。


「私も着替えよっと」


なおFカップのロケット爆弾を所持しているツワモノだ。


「うらやましいですよぉ!このロケットおっぱい怪人めぇ!」


ハルが着替え中のリン先輩に後ろから抱き着き、ロケットパイをもにゅもにゅと揉みだした。


「うひゃあ!ちょ!こーはいのくせして生意気な!ハルにはまだ早いんだよこのエロガキ~」

「わ~!な、なにをぉ~⁈私だっていつかボンキュッボンの女になるんです!」

「ハルは一生そのままでいいからねぇ~」


反撃とばかりにハルの頭をわしゃわしゃとする光景はとても微笑ましい


「そういえば隊長は?まさかどっかで過労死してたりして」

「それは大いにありえます!」


我らが覇道隊の隊長、まだここには来ていないが名前を覇道 琴音はどう ことねと言う。名前に負けず劣らず尊敬できるカッコイイ人だ。


ガチャ


「お、もう皆集まっていたか。ハルも遅刻しなくて偉いぞ」

「まるで私が遅刻常習犯みたいに言うのやめてください!」

「その通りだろう、何度君の遅刻に頭を悩ませたものか…、人の命がかかっているのだからもっと真面目にしてもらわないと」

「で、でも今回は遅刻してないですよ?そ、それにウチにはシロ先輩がいるじゃないですか!」


何故そこで私の話が出てくるのだろうか…


「まぁ、確かにシロちゃんが居るか居ないかじゃあ雲泥の差だもんねぇ〜」


すっかり着替え終わったリン先輩が、いつの間にか私の肩にのしかかっていた。


「同じ兵装なのに別物かと思うくらい強いですもんね」

「私達も重装で戦えば行けるんかね?」

「やめとけ、アレはシロが特殊なだけだ。本来あんな振り回すものじゃない」

「確かにあれ重量変化しててもすっごく重いデスよね…」


どうやら私の装備について話しているようだ。別に私が使っている兵装は、特殊なものでは無い。


マギア重兵装可変三式【斧型】


大剣、砲台、斧、と3種類に変形する武器でありとても重い。

重量で叩き潰すような設計であり、とにかく重量とパワーに注目した1品である。

重すぎて持ち上がらないので、重量変化のギミックが施されている。使用者の活性化ベノムに反応して重さを操作出来るようになっている。


なんとこの機能が追加されたのは三式からであり現在は五式まで存在している。つまり一式と二式を使っているのはゴリラか化け物か変態だけだ。


通常の兵装は十式や九式が最新である辺り不人気である…


何故そんな不人気武器を使うかは、使いやすいから以外答えることが出来そうにない。


「雑談はここまでにして…、今回は海岸付近の巡回をしてもらう」

「えぇ~、この前パトロールしたばっかじゃないですか!」

「最近物騒だよねぇ、シロちゃんがいるからうちの隊は問題ないけど他はヒィヒィ言ってるよ」

「ハトの会も対策にこまねいているらしいからな、どっちみち地道な安全確保が大事なんだ」


【ハトの会】ベノムマギアを統率する組織

平和と世界の安寧を願って組織された世界共通の巨大組織でもある


「日本のハトは無能なんかね?最近物価高騰しすぎなんよ!これじゃあメイクの道具買えないじゃん!!」

「それはどっちかと言えば政府なきが…」

「おりょ?ハルちゃんしらんの?最近ハトが広島の大規模駆除作戦失敗して日本組織激ヤバなんだって」

「え、アレ失敗したんですか?魔女も作戦にいたんですよね⁈」

「それがねぇ~、なんかやばいのが住みついちゃってるらしくて手が出せないらしい」


魔女…ベノムマギアとしての最高到達点に達した人外。マジシャンとも呼ばれる彼女らは、独自の適応によってベノムと同化した者の総称。

圧倒的な力と何らかの能力を持ち、魔女へと適応したその瞬間から老いることのない肉体を強制される枷をもつ、時間から切り離された人類の切り札。


「無駄話はそこまでにして、お前たちにはそれぞれの班を率いて海岸付近のパトロール及びベノムの駆除にあたってくれ」

「はいはい!配置はどうしますか!」

「いつも通り危険区域の深層に私とリン、中層はシロ、上層はハル、シロは状況次第でどちらにも行けるようにしておけ。各班の振り分けはお前たちに任せる」


「「「了解!!!」」」


ビシッと敬礼

各々素早く装備を整え自らが担当する班室へと移動する。


「シロ班長!準備が整いました!!」

「ん、補給物資多め、救急セット通常の1.3倍用意できてる?」

「できております」

「ならいい、いつでも動けるようにしてて。今回も中層地点スタート」

「「「「「「はい‼」」」」」」


班の構成は10~20人にプラス班長、それが四つ存在している


私の班15人構成であり救援に特化した医療班である。

私以外は全員救護を専門とするマギアたちだ。中層と呼ばれる市街地からおよそ5km離れたポイントで、上層と深層どちらにも援護に行ける地点で戦う。またベノムが発生させる瘴気の浄化、【霧払いきりばらい】の役割もあり隊長たちが広げた生存圏を確実なモノとする役割を担っている。


ハルの班は新人を育成する班であり、比較的経験の浅いマギアを20人ほどと大規模であり、上層と呼ばれる市街地から1km離れたポイントで戦う。


リン先輩や覇道隊長の班はそれぞれ12人ずつの精鋭が集まる班である。

砲撃やドローンを使った長、中距離を得意とするリン先輩の班と近距離による殲滅を得意とする覇道隊長の班が存在している。

深層と呼ばれる市街地からおよそ10kmはなれた地点で戦う。

人類が生存可能な境界を押し上げる露払いの役割がある。

精鋭が集まる班と言うこともありとても強く比較的年齢層が高め。



『シロ班ポイント到着』

『こちらハル班!こっちも大丈夫です』

『こちらリン班、たいちょの背中は任せてー』

『了解、パトロールを開始する』


皆が一斉に動き出す。

ここでパトロールの主な内容を振り返ろう。

まず隊長並びリン先輩は進軍はせず人類圏一歩手前を東から西へ確認していく、同時に遭遇した大型から中型を殲滅し間引きを行っていく。

私はそのうち漏らしの殲滅並びこちらも東から西へ確認していく。

最後にハルたちが小型から中型のうち漏らしを殲滅し東から西へ確認作業。


それぞれ浄化装置の稼働確認などの点検、異常がないかなどを調べて本作戦は終了する。


『こちらシロ班、D-4浄化装置漏電の可能性あり』

『了解、全班一時停止!シロ班の補修完了まで周囲を警戒』

『『了解』』


さっそく浄化装置の故障を発見し、補修作業に移行する。

浄化装置の漏電は普通の劣化もしくはベノムよる破壊の可能性があり、浄化装置稼働状態で出現するベノムは強力な個体か浄化装置に引っかからない超小型ベノムしかないため慎重に確認する必要がある。


「中型による破壊が濃厚とみられます」

「ん、わかった。検知器の使用を許可ベノム活性による探知を開始」

「了解!!」

「検知器使用します」

「「「はい」」」


検知器…ベノムが活性化する特殊な周波数を発する道具、主にベノムを探す時に使用され、ベノムの位置特定に大きく貢献している。


「発見しました、前方200m先一体発見」

「了解、私が仕留める」


斧を担ぎ、腰のブースターを吹かせて加速

少し進むとすぐに目標が見えてきた。


高速で接近し、ぶつかる直前で脚のスラスターで大きく横に回り込む。ベノムは遅れて反応するも、回転による加速と斧のブースターが私の一撃を必殺へと押し上げていた。


バコンッッと液状の物体が発するとは思えない音をたてながら、ベノムは大きく怯んだ。


「かたい、でも関係ない」


棘が触手のように伸びて私に群がってくるが、そのほとんどを補助ドローンが迎撃している。私は振り抜いた斧を素早く変形し、それによって重心をずらしながら体制を整える。


着地をすればもうベノムの懐に飛び込んでいる完璧な位置取りにて、構えた砲台の引き金を引いた。


ズドンとベノムの体を熱線が貫通し風穴が空いた。もう核は丸見えとなっている


打った反動でバク宙、斧に変えることで重心を先端へと集中させ、武器自体はさほど移動せず、私は武器を中心に縦回転した。


着地した瞬間スラスターを吹かせ大剣に変える。体をひねり地面を蹴り上げながら、大剣を大きく振りかぶる。


露出した赤い核を目掛け渾身の一撃を叩き込む。多少の抵抗感も感じることなく刃は核を叩き潰し、真っ二つにした。


『こちらシロ班、原因駆除完了。装置は補修可能』

『了解、完了次第パトロールを再開する』

『こちらハル班了解です!お腹がすきました!』

『こちらリン班了解、パスタ食べたい』

『お前たち、私語は慎め!私もお腹が空いている‼』

『隊長もお腹空いてるじゃないですかぁ!』

『ん、ハルのせいで私もお腹すいた』

『シロちゃん今日の昼どうよ、一緒しない?』

『了解、薬飲んでから行く』

『え〜シロちゃんも私と一緒にカウンセラーで一発抜こうよぉ〜』

『ん、それはセクハラ、とにかくご飯は行く』

『私も参加したいです!!!お腹すきましたんで!』

『はぁ…、緊張感を持ってくれ。私も仮眠を取ってから参加するからな』


こうしてパトロールは無事終了した。







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