第4話 反動調査

夏の朝は暑い

日が出てないのに暑いのはもう地球がやばい証拠である


今日も眠いまぶたをこすりながら朝食を食べ、身支度を整えた。最近は資格勉強で夜ふかししてしまっているので、少々寝不足だ。中学生の体に寝不足はあまりよろしくないのだが、一刻でも早く資格を取りたいのでここが踏ん張りどころである。


そこまでして欲しがる資格は何なのかという話だが、その資格名…サポーターカウンセリング技術者と言う。ベノムマギアの副作用に対応したサポートならびカウンセリングを行う事ができる資格だ。


どうして取りたいのかは言うまでもないが、シロの力になりたいからだ。

マギアの力を使う際の副作用に苦しむシロを見ているとどうしてもいたたまれない気持ちになる。だから少しでもそれを楽にしてやれるように、俺はこの資格を取ろうと思ったんだ。


そんな資格勉強を進めていくうちに、わかってきたことがある。


まずベノムマギアになる方法

適性検査から体力測定などを行い、それらを無事合格した者はベノムの核を加工したコアを接種する。食べるでもよし、注射するもよし、取り込み方は色々あるようだ。


コアを取り込んだあとは、二週間ほど安静に過ごし、拒絶反応が見られなければ無事ベノムマギアとして活躍が可能となる。


何度も説明するようであれだが、シロはその中でもかなり優秀な部類であり適正値が80%を超えるのは化け物の部類である。

通常が10%、優秀な者でも30%、隊長格で50%を超える。

魔女たちは当然100%らしいが彼女らは人と比べるのが失礼だ。


つまりシロは入隊当初から魔女の領域に片足突っ込んでいるのだ。とんでもない才能である。


さてここから副作用の話をしよう

彼女らベノムマギアは、取り込んだベノムの核の力をつかって人ならざる身体能力を獲得する。そこには当然副作用があり、力を使った分ベノム活性状態解除後に反動がくるのだ。


ベノム活性状態とは、取り込んだベノムの核を活性化させ、力を得る事を言う。

活性状態になった場合、体のどこかが淡く光る。光の色は人それぞれ個性がある。


反動の話に戻るが、活性状態を解除した時、コアの影響で彼女らの多くは三大欲求のどれかを大きく刺激され、その欲求に逆らった場合苦痛が全身を襲う。


これはコアがエネルギー補給を求めているだとか、報酬を求めているのではないかなど、様々な考察がされているが、未だ原因は不明だ。


三大欲求とは 

 食欲 睡眠欲 性欲 の3つの本能的な欲求を指す


魔女クラスになると別の欲求を刺激されると言われているが、それは例外とする、と冊子に記入されていた。


つまり俺はまずシロがどの欲求を刺激されるのかを探さなければならない。

シロはカウンセリングを受けていないといっているので、欲望の解消をしていないことがわかる。


大きな仕事のあとは決まって学校を休むし、機嫌も悪いことから確実に反動を溜め込んでいる。一応そういった人のために反動による苦痛を抑える薬は提供されているらしいが、そこまで効果はないらしい。


あのときシロの部屋でみた錠剤袋は反動を抑える薬だったようだ。


正直カウンセリングを受けない理由がわからないが、本人が行きたくないというのならその意思を尊重するしかない。


かといってそのまま放置するのも気が引ける…


「これは調べるしかないな」


そこから俺の作戦は始まった。

____________________


「シロ!おかえり、ご飯作っといたぞ」

「なんでいるの」

「任務で疲れただろうから、元気出る料理作ったんだよ。丹精込めて作ったから良かったら食べてくれ!」

「たん、精s…ん゙ン゛‼︎‼︎食べる」


物欲しそうにゴクリと唾を飲み込んだシロは咳払いを一つ挟むといつもの無表情に戻ってしまった。


食欲なのか⁈そうなのか?


しかしいざ食事が開始されても、いつもの三分の二程度食べるとすぐに食事を辞めてしまった。

ちゃんと自分の取り皿に取った分は完食しているので、まずかったというわけではなさそうだが、未だ表情は変わらず、反動が収まったのかもわからずじまいだ。


なら次は睡眠欲だ!


「ご飯食って眠くなったよな、うん!寝よう!!」

「別に眠くないけど」

「え?」

「…?」


やせ我慢、そうに違いない

一応客である俺がいる状態で寝るのは失礼だとか思ってるんだ、シロは結構優しいし。


「俺のことは気にしなくていいんだぞ?」


そう言ってシロをお風呂場に誘導し、着替えさせる。

着替えは流石にこの世界でも覗けないので俺は部屋の外で待機する。

部屋を出て数秒後、諦めたのかガサゴソと布がこすれる音がした。


「ん、着替えた」

「シャワーはいいのか?」

「あっちで浴びてきた」


あっちとは仕事場だろう


パジャマ姿になったシロは少し大きめの水玉模様の半袖パジャマだ。胸元が割と見えるのでとてもありがたい服装と言えよう。エッッッ


着替え終わったシロに今度は歯磨きをする。

頭をガッチリと捕まえ膝枕状態にさせ、俺が歯ブラシで歯を磨いていく。


「ひふんええきう(自分でできる)」

「いいからやらせろ、日頃の感謝ってことにしとけ」

「……」


不服そうに一瞬眉を顰めるも、抵抗はされないので嫌ではないようだ。


今は変わらず無表情で俺を見つめている。


シャコシャコと歯ブラシの音と、シロの息遣いが部屋に響いている。まだ昼時ではあるが、カーテンが絞められたリビングは俺とシロだけを世界からくり抜いたように静かだった。


「痒いところはありますか〜」

「ん、もんあいらい(ん、問題ない)」

「口閉じてイーして」


シロが言われた通り口を閉じると白い歯がズラッと並んだ。


「シロって歯並びいいよな」

「……?」

「いや、素敵だなって話」


なんでもない一言にシロはピクッと反応を示した。ただ、それは一瞬身じろぎした程度だ。


「終わったぞ、口をゆすいで来い」


何やら言いたげに口をモゴモゴしているシロの頬がほんのり朱い。


「どうした?具合悪いのか?」

「……ッ⁈!」


シロの額に手を当て熱を測る

熱い、やはり副作用による発熱か?それとも普通に風邪か…

ただとにかく今は安静にさせなければ!

そう思った矢先シロは一瞬のうちに洗面台へと逃げていった。


「もう、大丈夫。お世話いらない」


洗面所からちらりと顔だけをのぞかせたシロが言った。

耳が朱くやはり熱でもあるのだろうかと不安になる。


「俺がいると気になって寝れないか?」


こういうデリケートな状態で無闇に世話を焼くと、かえってストレスになる可能性がある。

あれだけ速く動けるなら、一人で自分のベッドに行けるはずだ。

それに熱が出た理由が、俺が構ったせいって可能性もあるし。

仕事の後で疲れてるのに無理をさせてしまったのだろうか…


トコトコと俺の前まで戻ってきたシロは、俺をじっと見つめている


「気にしてるけど、それは関係ない」

「あー、じゃあ帰ったほうがいい?」


コクリと頷くシロ


「そうか、俺やっぱ迷惑だったよな…すまん」


今回は仕方ないので帰ろうとトボトボと玄関へ向かうべく足を進める。



「迷惑じゃないよ、別にただ…」

「え?」


気づけば俺はソファーに押し倒されていた。

紅いルビーのように輝いている瞳に吸い込まれるように意識が持っていかれる。

桜色の唇からちらりと見える犬歯がやけに色っぽく、シロの表情はどこか妖艶で…


そうか、シロの反動は


「私が我慢できないだけ」


額に落ちた柔らかな感覚が、その日はやけに鮮明に感じられた。



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