第18話 ハルのドローン
シロの戦いが決着を迎える数十分前
魔女に指揮系統部を任されたハルは焦っていた。
周りには自分より年上のマギアがほとんどの中、その人らを自分の意志で動かすというプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
魔女に無理やり連れ込まれた形ではあるにしても、ここは優秀な者たちが集う場所だ。所詮中学1年生のハルに向けられる視線は、無関心もしくは不愉快を孕んだねちっこい視線だけだ。
「で、どうする?」
このばで一番年齢の高い24歳の古参マギアがハルに問いかける。
声色は少しばかり、いや相当キツめだ。
彼女からしてみれば、魔女の次に指揮権を持っているはずであったのに、何故かこんなチンケなガキが指揮権をもってしまったのだ。腹立たしいことだろう…
彼女はそれなりの場数をくぐってきたであろう古参だ
マギアの適正年齢は15から30歳
それより上となると段々と力が衰えていく。ピークが18歳であり、その後の上がり幅は個人の努力と才能に依存する。
「ひ、ひとまず手足りていない場所に率先して救援を送りましょう」
「そ、その…先程のベノム大量発生から、通信ドローンが落とされ情報が来ていません。このままでは指示が…」
モニターから戦況を把握していたマギアがそう呟いた。
(あぁもう!どうすればいいんですかぁ!!助けて隊長!りん先輩にシロ先輩〜!)
ハルは心のなかで叫ぶ
しかしそれで状況が良くなるわけではない。
ハルのドローンは赤いベノムに有効打がなく、倒すことは可能だがあの数の敵のうち一体を倒したところで意味がないのだ。
「はぁ、指示ができないのなら指揮権を譲渡してください」
イライラしたように言う古参マギアはハルを急かした。
確かにここで指揮権を渡せば自分は楽だろう。
ただ指示に従って手足を動かすマネキンでいられるのだから。
年上の視線を気にせず、子どもは子供らしくできることをやればいいのだから。
「でもそれじゃぁ、一皮むけましたって言えませんよね」
「はぁ?何を言って」
「魔女様は私に指揮権を託していきました、それはきっとなにか意味があると思うんです」
司令部にいるマギアたちを見ながら、ハルは大きく深呼吸をした。
「私はここに来る際に、隊長から一皮むけてこいと言われました。シロ先輩にも、ノルマ三倍を言い渡されています」
「それがなんだって言うのよ、今はそんな暇はないのよ」
「お願いします。まだ皆さんの半分程度しか生きていないガキではありますが、やらなくちゃいけないことがあるんです。皆さんの力を貸してください」
頭を深く下げ、今できる精一杯で自分を示した。
静まり返る周囲の反応は、良好
「………、無理だと思ったらすぐ辞めさせるからね。子供に命背負わせるのは癪だけど、信じてあげる」
「……ッ⁉はい!!」
自分が馬鹿だった
ここに居るのはベノムから人類をる覚悟を決めた人たちだ。
ソレを自分が子供だからと侮っているなんぞ考えた私が…バカだったのだ。
「ドローンの操縦権をもらえますか?」
「え、いいですけど…」
「各地に設置されたドローンがすべて破壊されたわけじゃないと思うんです、だからそこから使用されていないドローンをどんどん起動して、戦場を支えます」
「ちょっと!あんたそんなことしたら負荷がとんでもないことになるわよ!」
「大丈夫です、私、ドローンの扱いだけは上手い自信があります」
生きている監視ドローンを起動し、戦場に転がる停止したドローンにつなげていく。
指揮権限をつかってドローンをハッキングし、操縦権をどんどんと回収していった。
パスがつながる感覚が増えるごとに、鈍い鈍痛が頭にはしる
ドローン操作は脳波によって操作をするため、台数が増えるごとに負荷は増していくのだ。
いままで戦闘で使ってきた数は50ほど
ただここは周りを気にしない分もっといける
100じゃ足りない、1000は欲しい
鼠工事のように、つなげたドローンから傘下のドローンをハッキングしていく
頭痛は痛みを増していき、ガンガンと殴られるような痛みが常に襲ってきていた。
ポタリとタブレットに血が垂れた。
「あんた鼻血が!!」
「大丈夫です、私これくらいしか皆を支えられないですから、この程度の無理の一つや二つ!やりきって見せてやりますよ!!!!」
起動したドローンをすべて動かし、視界を共有しながら情報を収集し始めた。
指揮系統部のモニターにも情報をつなげ、ハル自身が受信した視界を共有した。
膨大な量の情報を処理しながら、戦力の足りない場所、逆に余裕のある場所、建物などの倒壊が予想される場所、ベノムが探知できない死角となる場所
様々な情報をリストアップしていく
「地上がやや手薄です、駅のホームは撤退しているようですがあのままでは危険ですね。魔女様がなるべく早く迎えるように道を確保しておいてください、バスエリアにいるマギアはそのまま全力で引いて結構です。できれば地上のフォローをお願いします」
出して
マイクから適切な場所に指示を出していく
「商店街のマギアは右翼が開いています、そこだけベノムの質が低いですので突破してください」
瞬きする余裕がないほど情報の海がなだれ込んでくる
適切な情報を選び取り、細かい裁量は仲間のマギアに任せた。
「スーパーコンピューターかよ…」
誰かがそうつぶやいた気がした
確かにそうだ、私はドローンによる殲滅だけが武器じゃなかった。
だから魔女様はココを私に任せたのだろう
膨大な処理能力とドローンを使っての情報収集から部隊の指揮
細かい操作を行う指も、指示を飛ばす頭も、ちぎれそうなほど忙しい
「へへへ、やっと…役に立ててる」
それでも、今この瞬間みんなの役に立てていることが何よりもうれしい。
鼻血も頭痛も、指の関節の痛みも関係ないほどに
(あぁ、シロ先輩やばいな死にそう。)
危険だとはわかりつつも、今は余計な指示を出すべきではない気がした。
ここでノイズを出してはいけない、彼女はかならず時間を稼いでくる。ならばこちらは、先輩がだすであろう最高の結果に見合った動きをすればいい。
ここまで根回しした中で、魔女が想定以上に強かった
このペースなら魔女の移動経路さえ確保してしまえば確実に間に合う
そして
「私の先輩は、そんなに弱くない。絶対に時間を稼ぐはずです、なんてったってうちの隊のエースですからね」
頭が最高に冴えている、膨大な情報を淡々と冷静に判断できる
「ビル七階にて戦闘中のマギアに援護、位置情報送信します。戦闘補助システム構築出来ました、赤の動きの予想からベノムの核位置特定機能が付いています、デバイスで確認お願いします」
今は自分のできることをしよう。
シロ先輩を信じで自分はそれ以外を全力で支える。
彼女たちに回すべきリソースは今の所存在しない。
先輩の適切な指示のおかげでこちらに余裕ができている。
今戦場を指示するドローンが500
残りは負傷者や戦闘不能になったマギアの回収ならび援護に回している
援護に行ってもらわなければならない所が、まだたくさんあるのだ。
瓦礫の隙間から建物一個一個まで隅々を偵察し、その情報から生存者を見つけ出す。
その場で治療可能なら治療道具を与え、援護に向かって欲しい地点へ誘導する
決して一人にさせない、必ずペアになるように戦場全体を動かしていった。
「ごほっ…、まだまだ、やっと対応し始めたんです。ここで負けるわけにはいきません」
シロ先輩も、現地で戦うマギアたちも、血反吐を吐く思いで頑張っているのだから
「私が動くことで変わる未来があるなら、私は迷わない」
指揮系統部のみなも忙しく情報面でサポートしてくれていた。
治療や怪我の情報をまとめて管理する人、戦闘補助を専門で管理する人、地形や敵味方の位置をまとめる人、様々な情報処理を手伝ってもらっている。
私ひとりじゃ処理しきれないし、拾えない情報だってある
だから彼女たちに手伝ってもらうのだ
自分ひとりじゃどうにもならないものでも、仲間とやれば分担ができ、補助し合うことができる。
「一人で赤が倒せないなら、集団で叩ける状況を私が用意すればいいんです」
そこには、一人前のマギアが一人、情報の海で皆と戦っていたのだった。
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