第10話 健康診断★
俺は今、ハトの会支部展に連行されている。
嫌がる俺を引きずるシロ、周りを取り囲むのは覇道隊…
「俺なんかした?」
「した」
「えぇ…」
何やらデカい建物に連れられ、何枚もの自動ドアを潜り抜ける。
どれほど歩いただろうか、気づけば俺は真っ白な実験室のような部屋に放り込まれていた。
目の前には見るからに研究者っぽい厚底眼鏡の女が立っている。
「ほほぅ、彼が例の男性ですか」
「ん、そう」
グイッと顔を近づけて俺を観察する女は、とても楽しそうにジロジロと見てくる。
「おっと、申し遅れました!私は
「あ、えっと浜辺ユウです…よろしく?」
「えぇよろしくお願いしますね、さっそく調べてみましょう!」
「あ、えっと何を?」
「おや聞いていないのですか」
「聞いてませんね」
俺はシロを軽く睨んだ
俺の不満が伝わったのか、顔を逸らすシロ
「説明したら、ついて来ない」
確かに身体中調べられるなんて聞いたら、意地でもついていかなかった。
「とにかく!あなたは過去のデータからベノムにひっっっっじょーーーうに!狙われやすいことがわかってるんですねはい!!!」
どこから湧いてきたのかスクリーンが突如として出現し、俺のデータとやらが表示される。襲ってくるベノムの大小関係なく、事細かに詳細が書かれていた。
こんなデータいつ取ったんだと疑問に思うが、その疑問はすぐに解決する。
【データ提供;黒星シロ】
お前か…
視線を送るとまたもや視線をそらされた。
「そんなわけで、なぜこれほどまでに狙われるのかを調べるわけですね」
「拒否権は…」
「まぁ、断ってもいいですけど、その場合安全確保のために一生監禁生活でしょうね!」
「どんな調査にも協力しましょう!人類の進歩につながるかもしれませんしね!ね!!」
「おぉ!わかって頂けましたか」
こうして俺は調査が行われることになった。
レントゲンや血液検査、尿検査などの一般的なものから、体力測定などの体を動かすものまであらゆる検査も受けた。恥ずかしい思いもした、息子よ泣くな…
最後は頭にいろいろくっつけられ、何かを調べられた。自分でもよくわからないが、ホルモンバランスからストレス状況など脳に関して様々なことを調べることができる機械らしい。
結果が分かったのは日が沈みかけるころである。
「そうですね、体の方はいたって健康ですね」
カヤさんが俺のデータを見ながらつぶやく
「憶測にはなりますが…性欲ですね原因」
「「「「「は?」」」」」
頬をポリポリとひっかきながら、カヤさんは説明を続けた。
「体は健康そのものなんですが、ホルモンバランスや体力的な面でも、現在の男性の平均を上回っています」
「それって、悪いこと?」
「いいえ?まったくもって問題はありません、ただこのデータですと男性が激減する前の平均値ぐらいなんですよ」
かやさんは、いつの間にか手に持っていた指さし棒で、俺のデータと昔の男性のデータをトントンとさしている。
「ベノムに捕食されていく過程で生き残った男性は、食べられないように自然と適応していったとされています。そこに性欲と言う観点から、変化を探っていくと、現在の男性のほとんどは草食系…いわゆる性欲があまりない方になっていったんです!わかりますか?これは大きな発見です!何故ベノムは男性を狙うのか?その疑問に大きく近づくデータですよ!」
早口で長文をまくしたててくる彼女に皆気圧されている。
やはり研究気質なのか、興奮すると早口になるのはお決まりなのだろう。
「ふぅ、失礼しました。つまり簡単にまとめると、彼のデータをほかの男性のデータと比べた結果、ほかの男性より性欲が強いことがわかりました」
と、そこで一息つく彼女はコーヒーを一口飲む
「この性欲に焦点を当てて、ベノムが現れる前と後の男性のデータを見比べた結果、ベノムが出現してから平均の性欲が大きく激減していることが分かったんです」
ホワ―とボードに絵をかきながら、俺たちにもわかりやすく説明してくれている彼女に感謝しつつ、性欲性欲と連呼されることに恥ずかしさを覚えた。
「現代の男性の身体能力低下は、ホルモンバランスによる影響でしょう。ピー(自主規制)も現在の日本の平均は7㎝ほどですか、彼は倍はあるでしょうね」
「倍…、ユウの、アレは…倍……」
静かに聞いていたシロが俺の下半身を見ながらつぶやいている。
もうガン見である、女の人が胸を見ている男の視線はわかりやすいと言っていたが、こういう事なんだろうか…
「とにかくですね!もしこの性欲から出るホルモンで狙われる仮説が正しければ、男性の性欲が低下した原因はベノムから狙われないよう適応した結果という事になります!そう、いわば彼は生きる化石です!旧世界の男性と言う奴です!血縁関係を調べた結果特におかしなところはなかったので、彼は先祖返りかなんかなのでしょうか?あぁワクワクしてきましたよぉ!」
「女子も性欲あるじゃないですか」
「かつての男性の性欲を舐めてはいけません、それに分泌されるホルモンなども変わってきます。そこらへんは今後調べる必要がありそうです」
「カヤ、結局彼はどうすればいい」
「狙われないようにするのはほぼ不可能ですね!小型の実験用ベノムを壁越しに配置した結果すぐさま飛びついたので」
「その対策が知りたくてこっちに来たんだが…」
「そうは言われてもですね、話によればかなり遠距離からでも反応したことを鑑みると、狙われないようにするのは不可能でしょう。できることと言えばなるべく流血を防ぐこと、フェロモン的なモノを出さないように頑張ってください」
「いやフェロモンってなんだよ…」
「ベノムにとってあなたは、久々に味わえるかもしれない極上の霜降り肉と一緒なんですよ。美味しそうな匂い
「じゃあ逆に囮にするってのはどうですか?」
「ハル、いくら何でも一般人を巻き込むなど」
「私も、さすがに今の発言は許せない」
冷たい表情でハルに詰め寄るシロは、どこか怒ったような雰囲気があった。
「ちょ、怒んないでくださいよ。考えてみてください、私たちの手の届かぬところでヘイトを買って守れないより、近くにいてもらって守った方が、ベノムは私たちの方にしか寄ってこないくて町も守れるし、さらには彼も守りやすいじゃないですか!」
ハルと呼ばれる少女の説明も一理ある。
初対面にも関わらず真剣に俺の安全について考えた結果出た答えだと、説明を聞く限り判断できた。
「あの、俺カウンセラーの試験を受けようと思ってて、もし合格出来たら近くに置いてもらうことはできるんじゃないでしょうか」
「命の保証はないよ、それでもいいの?幼馴染君」
「それでも、一人でいるよりは安全なんですよね?それに、俺のせいで関係ない人たちも巻き添えをくらうなんて、我慢できません」
「ユウがそうしたいなら、私は構わない。人を守るのが私たちの仕事」
ベノムが俺を狙ってくるなら、避難所には逃げられない。
シロの家のシュエルターは安全かもしれないが、俺に引き寄せられたベノムが町を荒らしてしまうだろう。
それなら覇道隊のおんぶにだっこでも食らいついて、全線で囮やってやる!
大丈夫、俺には最高の護衛が付いているじゃないか
他力本願と言われればそうなのだが、一般人にできるのはせいぜい彼女たちを影で支えることだけ。
やはりカウンセラーは俺の天職なのだろう。
死なないために死地に飛び込んでいく…
馬鹿みたいだな
「なるほど、覚悟があるようだな」
「はい…」
「なら訓練あるのみ、生身で生き残るんだ、鍛えて少しでも生存率を上げるしかないだろう」
隊長がスマホを取り出し、俺に差し出してくる。
「へ?」
「ん?SNSはやっていないのか?連絡先だ」
「あ、あぁ」
「これで訓練メニューを送る、きちんとこなせばある程度動けるようになるはずだ」
俺はスマホを取り出し、QRコードを読み取る。
ピコンと独特な音が鳴ると、スマホに新たな連絡先が登録された。
「お、私も交換しよ~!隊長だけ面白そうなことするのはズルいぞ~」
背後からひょっこりと顔を出したのは、確かリン先輩と言われている人だ。
「へへ、後輩の男もらった―!」
意味わからんことを叫びながら、嵐のように去っていった。
元気だな、あとデカい
「あの、私もいいですか?」
今度はハルって子が来た
「なんかみんな交換してるのに私だけ仲間外れってのは癪なので」
交換する理由が軽すぎる…
まぁ連絡先程度こんなもんか
「へッ、チョロ」
「……?」
満足そうに去っていった彼女の背中をボーっと眺めていると、手を引かれる感覚がした。視線を向けるとそこには過去最高に拗ねているシロが俺を睨んでいる。
「どうしたん」
「言いたいことが、三つある」
ジトっとした目でそう言われた。
「おう…」
「一つ、チョロすぎる。男の子がむやみに連絡先を渡すのは論外」
そういわれて俺は気づいた。
この世界は貞操概念が逆転している、俺がやったことを女子に例えるなら初対面の男にほいほいと連絡先を配るビッチかチョロい女だ。
「ごめん、今気づいた」
「隊長たちのことだから、悪用はしないと思う。でも気を付けるべき」
「うん、すまんかった」
「二つ目、私は貴方の幼馴染、長い年月を共にした」
「そうだな、この関係も長いな」
「それなのに、私は貴方と連絡先を交換していない」
「あ、え?マジ?」
急いでスマホを確認すると、確かにシロの連絡先は存在しない。
「マジやん、え、ホントごめん」
無言の圧によって俺はすぐに連絡先を登録した。
「三つ目」
「まだあるの⁉」
「普通の男の子じゃないユウは、こんなので興奮する?」
急速に縮まる距離、触れ合う体
シロの細い腕が俺の背中まで回って、密着する。
そのままゆっくりとおでこ同士をぶつけるシロは、俺の反応を楽しむように見つめてきた。
体に伝わる柔らかな感覚と体温、息がかかるほどの距離感にすっかり俺は固まっていた。
「ユウは、変態だった?」
「ぐうの音もでましぇん」
なんとか平静を保とうと努力するが、顔が朱いのはバレバレだろう。
それに体は正直だ、バクバクと心臓がうるさいし、カッと熱くなった体も、ドギマギしてうまくしゃべれないのも、全部自覚できてしまって余計に恥ずかしい。
「あ~!シロちゃんがイチャついてる!!!」
「ふぇ?あっ………」
ハッと我に返った俺たちは、できるだけ平静を装って素早く離れる。
そうして、今日はやけに暑いなと、二人して火照る頬を仰いだのだった。
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